諸外国の産業精神保健法制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究

文献情報

文献番号
201233006A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国の産業精神保健法制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究
課題番号
H23-労働-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部政策法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 井村 真己(沖縄国際大学 法学部法律学科)
  • 林 弘子(福岡大学 法学部)
  • 水島 郁子(大阪大学大学院 高等司法研究科)
  • 笠木 映里(九州大学 法学部)
  • 長谷川 珠子(福島大学 行政政策学類)
  • 本庄 淳志(静岡大学 人文社会科学部法学科)
  • 白波瀬 丈一郎(慶應義塾大学 医学部精神・神経科学教室)
  • 梶木 繁之(産業医科大学 産業生態科学研究所・産業保健経営学)
  • 團 泰雄(近畿大学 経営学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,764,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①諸外国の産業精神保健法制度の背景・特徴・効果を解明し、②わが国への適応可能性を探ること。
研究方法
昨年度の「調査報告書の基本的な構成」に修正を加え、法制度調査班を構成する分担研究者及び研究協力者に呈示した。調査対象国にオランダを加えたほか、アメリカについては障害者差別禁止法以外の関連法制度も調査対象に加え、関連領域の専門家から必要な視点について示唆を得つつ、文献調査および渡航調査を実施した。
結果と考察
1)1次予防施策のあり方
現行安衛法第28条の2を準用する第88条に規定されるメリットを産業精神保健対策にも発展的に拡充するような施策により、実質的に性能要件化(:一律的な規準への適合性審査ではなく、現場で実効性のあがる方策の許容と国の法政策への積極的な吸収)を図る方途が望まれる。
要件となる性能の指標としては、デンマークなどが採用している、休業率、作業関連疾患罹患率、自発的離職率、職務満足感、業務パフォーマンス、守秘条件下での意見聴取の結果などが参考になるが、メンタルヘルス問題の特性を考慮し、梶木報告書が示した中間指標等を重視する必要がある。
2)強制的方策と誘導的方策のいずれが適当か
直ちに一律的な強制的方策(ヨコの方策)を採ることには困難が伴うが、全てを当事者の任意に委ねる誘導的方策(タテの方策)が適当とも言い切れない。タテの対策を講じる中で、①嫌悪感に基づく差別的取扱いの禁止、②各労働時間単位の間の休息時間の確保、③急激かつ大幅に労働条件が変化した場合の支援体制の構築など、一般的条件が判明すれば、一律的な義務規定の設定が求められる。
3)就労経験を持たないか、特別な配慮を受けずに就労した経験を持たない、真正精神障害者対策と、過重なストレス要因へのばく露により不調に陥った仮性精神障害者・不調者対策の関係
イギリス、アメリカの例からは、両者を連続的に捉える必要性がうかがわれる。ただし、真性障害者への対策では、回復の可能性や回復のゴール設定をはじめ、多くの点で対応に違いが生じ得るため、イギリスのJobcentre PlusやRemploy社、ソーシャル・ファーム等が果たしている役割を参考に、産業と福祉の窓口兼バッファーとなる組織の創設について検討する必要が生じる。ただし、コントロール・タワーとしての機能を確保するため、情報を一元的に管理する必要があり、そのために障害となる医療個人情報の取扱い規制などは、合理的な範囲で排除される必要がある。
4)発症・増悪事由の業務上外による対策の区別の可否と是非
発症・増悪事由による対応の区分は、実施してもしなくても良いが、実施する以上、早期の適正な業務上外認定が求められ(かつ、官公署とは別に、症例の業務上外について気軽に判断を求められる第三者機関を設ける必要がある)、実施しないなら、私傷病罹患者に対する手厚い雇用・賃金保障をなし、かつ作業関連ストレスの1次予防策を講じるべきと考える。
5)メンタルヘルス情報の保護のあり方
労働能力・適性に関する情報は使用者による取扱いが可能だが、疾患名など、ダイレクトに医療個人情報に相当する情報については、それを許すべきではない、というのが比較法の示唆だが、症例対応の窓口やコントロール・タワーとなるべき機関や人物には、適正範囲で情報の取扱いが認められなければならない。また、情報の取得に労働者の同意を得られない場合について、取扱いが正当性される要件と手続をルール化する必要がある。
結論
1次から3次予防施策の全てにわたり、①個別性、②(連携的)専門性、③多面性、④柔軟性、⑤継続性、⑥人間性(心理的特性の考慮)、⑦客観性の7要素が求められる。
1次予防面では、メンタルヘルス問題の特性を考慮し、中間指標等を重視しつつ効果指標を開発し、性能要件的な規定(現行安衛法第28条の2を準用する第88条を発展的に拡大した規定等)の下で各組織独自の取り組みを支援する体制を整え、①教育訓練、②動機付け、③採用・配置等における人選、適材適所、④職務の設計と割当等、人事管理の適正化を「促す」法政策の構築が望ましい。その際、リスク・アセスメント手法にグッドポイント・アセスメント手法を加えるなど、介入方法の柔軟化も求められる。
また、予防効果の議論を離れ、基本的人権の保護の観点から、ハラスメント防止や雇用平等の充実化を図る必要がある。障害者差別禁止法も、障害、その差別、妥当な介入法に関する社会的な秩序的価値判断を示すものとして、メンタルヘルスに貢献する可能性がある。
3次予防面では、産業と福祉の窓口兼バッファーとなる組織の創設が求められる。ただし、コントロール・タワーとしての機能を確保するため、情報を一元的に管理できるよう法的条件整備を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-10-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201233006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,177,000円
(2)補助金確定額
6,177,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 41,381円
人件費・謝金 2,114,549円
旅費 1,892,515円
その他 715,555円
間接経費 1,413,000円
合計 6,177,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2014-06-16
更新日
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