新しいがん薬物療法の研究

文献情報

文献番号
199800148A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいがん薬物療法の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西尾和人(国立がんセンター研究所)
  • 桑野信彦(九州大学医学部)
  • 秋山伸一(鹿児島大学医学部)
  • 杉本芳一(財団法人癌研究所癌化学療法センター)
  • 佐々木琢磨(金沢大学がん研究所)
  • 福岡正博(近畿大学医学部)
  • 南博信(国立がんセンター東病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
49,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「新しいがん薬物療法の研究班」はわが国における抗がん剤開発を推進するための最も重要な研究班であり、わが国の抗がん剤治療がどうあるべきかの方向性を示す。多剤耐性に関与する細胞膜のABCスーパーファミリー遺伝子群や薬剤感受性・耐性に関わる分子標的のヒト腫瘍での発現様式を把握する。臨床的に抗がん剤感受性の有用な診断マーカーとなるか否かを明らかにすることによって適切な抗がん剤の選択ならびに新しい治療薬、治療法の開発に貢献する。抗がん剤耐性に関係した蛋白質の機能を阻害するsmall moleculeを同定したり、これらのトランスポーターの輸送基質とならない新抗がん剤の開発によって、癌化学療法効果の向上を目指す。新しい発想で開発された核酸代謝系酵素を分子標的とした新規抗腫瘍性ヌクレオシドの臨床導入は既に開始されており難治性固形がんの治療戦略に必須と思われる。新しい手法の導入により臨床における抗がん剤の併用効果の予測性を高めることにより、より適切ながん化学療法が可能となる。移入する自己造血幹細胞に抗がん剤耐性遺伝子を導入することにより、骨髄抑制の軽減化、治療効果の向上と更なる副作用の軽減を追求する。また、実際に新しい抗がん剤を効率よく臨床導入することは極めて重要と思われる。この研究班で臨床第I相試験のモデル的研究体制を確立することによって抗がん剤の第I相試験の空洞化を防ぎわが国の抗がん剤開発を活性化する。
研究方法
SMRP遺伝子配列の一部はM.Koolらによって報告されたMRP5の部分配列と同一の配列を有していたが、MRP5の全長は報告されていない。SMRPの5'-UTRの検討を行うとともに、特異的配列部位を用いたRNaseプロテクション法によりSMRP、MRP5の分別定量を試みた。さらに構造解析の5`末の確定および、膜貫通構造の推定を容易するため、またノックアウトマウスによる機能解析を可能にするため、ゲノムPCR法によるゲノムレベルの解析、マウスホモログのクローニングをマウス脳ライブラリーよりおこなった。さらに各種抗がん剤による発現誘導を、培養細胞および臨床検体におけるmRNA発現レベルをRT-PCRおよびRNaseプロテクション法により測定、解析した。
P-糖蛋白質とMDR1遺伝子のヒトがんにおける特異的発現制御を検討した。転写因子YB-1がMDR1遺伝子プロモーターの活性化に関与するか否かについてアンチセンスを用いて検討し、ヒト臨床がんにおいてYB-1の抗体を用いて核内局在とP-糖蛋白質の発現の有無を調べた。MDR1遺伝子のプロモーター領域のCpGサイトのメチル化の有無を、HpaIIとMsp Iの制限酵素を用いたサザンブロットならびに、CpGサイトをはさんだPCR法を用いて白血病患者の骨髄細胞を用いて検討した。MDR1遺伝子の5'-flanking領域における遺伝子再編成と上流プロモーターの活性化の有無とを検討するために、再編成部位のゲノムを単離し塩基配列を決定した。
ヒトcMOAT/MRP2やMRP3について、完全cDNA導入株を単離し各れの抗がん剤に感受性を示すか否かさらに抗がん剤の輸送機構について膜ベジクルを用いて検討した。cMOATの抗体やノーザンブロット法を用いて同ABCトランスポーターの発現が各々のヒトがんで亢進しているかを検討した。cMOATが遺伝性黄疸疾病Dubin-Johnsonにおいて突然変異が生じているか否かを末梢血を用いてゲノムDNAを対象にして検討した。
トポイソメラーゼIIαの発現はヒトがん細胞では、熱処理によって上昇する。この上昇に関与するプロモーター上の部位を様々な長さで欠失したプロモーターを用い、レポーター活性を調べた。ヒト乳がんでトポイソメラーゼIやIIα またMRPなどの発現をがんと非がん部位でRT-PCR法を用いて比較した。
MRPcDNAをトランスフェクトしてMRPを高発現させたKB細胞とADM耐性C-A120細胞を用い、CPT-11、SN-38に対する耐性へのMRPの関与、耐性克服薬剤による感受性の増加をMTTアッセイで調べた。MRPによるCPT-11、 SN-38の輸送を調べるため、細胞内、培地中のCPT-11、 SN-38濃度をHPLCで測定した。cMOATcDNAをブタ腎臓細胞LLC-PK1にトランスフェクトして作成したcMOAT高発現細胞からmembr ane vesicleを調整し、cMOATによるLTC4の能動輸送、耐性克服薬剤による輸送阻害の実験に用いた。ヒト大腸がんSW-620細胞にLRP特異的リボザイムを発現させ、NaBで処理する。リボザイムを発現していない細胞ではLRPが誘導され、発現している細胞では誘導されない。これらの細胞の抗がん剤感受性をMTTアッセイで調べ、蛍光顕微鏡でADMの細胞内局在を調べた。また、核を単離してADMの蓄積を調べた。
ヌードマウスの腹腔内で継代したMKN-45P細胞を腹腔内に移植後、3日目にシトシンヌクレオシド誘導体を10 mg/kg腹腔内投与し、延命効果により胃がんの腹膜播種に対する治療効果を判定した。
がん抑制遺伝子p53の表現型が異なる3種のヒト胃がん培養細胞(MKN-45/野生型、MKN-28/点突然変異、KATO III/欠損)を用いて、DMDC、CNDACおよびEUrdによるin vitroでのアポトーシス誘導作用をDNA-fragmentationにより検討した。また、in vivoにおけるアポトーシス誘導作用は、ヌードマウスの腹腔内にMKN-45P細胞を107個移植後、3日目にEUrdを腹腔内投与し、8、24、48および72時間後に腹腔内洗浄により回収した細胞形態をギムザ染色法により観察した。
耐性遺伝子治療の臨床研究のために臨床用ロットのHaMDR レトロウイルスを作成し、これを用いてヒトCD34抗原陽性細胞にMDR1遺伝子導入を行う、いわゆるパイロットランを行った。MDR1遺伝子導入は、ヒトP-糖タンパクに特異的な抗体MRK16のビオチン標識F(ab')2フラグメントを用いた。FACS解析、およびビンクリスチン存在下でのメチルセルロースコロニーアッセイにより評価、遺伝子導入された細胞について、増殖性レトロウイルス(RCR)試験、エンドトキシン試験などを行い、安全性を確認した。
533番目のAspがGlyに変異してCPT抵抗性を示すGly-533変異型topo I cDNAとneomycin耐性遺伝子を共発現するbicistronic retrovirus vectorを構築してHeLa細胞に導入し、G418で選択された遺伝子導入細胞のCPT感受性の変化と、細胞内topo Iに対するCPTの阻害作用について調べた。
3-D 法は、①単剤処理時の増殖率から median effect equation 公式により、期待値を計算し、この値を Z 軸、A および B 剤濃度を X および Y 軸にプロットし増殖率期待値3次元グラフを得る。②期待値ー実測値間の差の3次元グラフを作る。③各々単剤での実験誤差から併用時予想される95%信頼限界を計算し、各剤濃度 X および Y 軸とした3次元グラフを作る。④実測値および期待値の差が95%信頼限界を超えれば、つまり、前者を後者で除し、1を超えれば5%有意水準で相乗あるいは拮抗作用と定義し、併用効果を3次元的に判定した。
TOP-53のマウスLD10の1/10を開始投与量として3例を治療し、蛋白非結合薬物の血中濃度が測定できること、薬物動態のバラツキが小さいこと、活性代謝物がないことなどPGDEを適応するための条件を満たすことを確認した。次に、PGDEに基づいて蛋白非結合薬物のAUCがマウスLD10のAUCの40%を越えるまでは100%の増量を行った。AUCのバラツキおよび薬物動態の線形性を確認する目的で、各投与量で2例ずつ治療した。安全性を確保するために、CRMを用いて次の投与量における用量規定因子の出現確率が一定レベルを越えないことを確認し、さらに、次の投与量のAUCも推定しながら増量を行った。マウスLD10のAUCの40%を越えた後は、CRMで推定した用量規定因子の出現確率が33%となる投与量で治療するが、前の投与量から33%以上は増量しないこととし安全性を確保した。用量規定因子が観察されれば用量規定因子の確率分布が変わり、CRMにより患者ごとに投与量を増量したり、減量したりすることになる。推奨用量および最大耐用量の推定は用量規定因子の出現確率を推定することにより行った。
DMDC臨床第1相試験:DMDCは、1日1回、14日間連日経口投与にて投与された(14日休薬)。海外でのデータを参考にして12 mg/m2/dayより開始し投与量を増量することとした。ZD1839臨床第1相試験: EGFRを過剰発現していると考えられる癌腫を対象として、1日1回、14日間連続投与、14日間休薬50 mg/m2/dayより漸次増量することとし、腫瘍組織を採取可能な症例についてはc-fos mRNAの発現量、Ki-67の発現量の変化を一つの指標として参考にすることとした。CPT-11とDOCの臨床第I相試験:前治療のないIIIB、IV期の非小細胞肺癌を対象としてCPT-11、day 1、8、15に、DOCをday 2に点滴静注し、CPT-11は40 mg/m2、DOCは30 mg/m2より増量した。CPT-11とPACの臨床第I相試験:前治療のないIIIB、IV期の非小細胞肺癌を対象としてCPT-11、day 1、8、15に、PACをday 2に3時間点滴静注し、CPT-11は50 mg/m2、PACは135 mg/m2より増量した。
結果と考察
SMRP遺伝子のさらに5'上流の長いクローンMRP5をヒト及びマウスからクローニングし、全長MRP5とした。ヒトcDNAのプライマー伸張法を用いた解析から転写開始の推定、ヒト及びマウスの推定アミノ酸配列の比較、翻訳開始点の推定を行った。その結果、ヒトMRP5は1437アミノ酸、マウスmrp5は1436アミノ酸から構成されることが予想され、全長で94.1%の高い相同性を示した。これらMRP5は従来のMRPファミリーより若干短く、ハイドロパシー解析から、N末端側の膜貫通領域がMRP1やcMOATと異なった構造をしていることが示唆された。 また、ゲノムレベルでの解析によりSMRPはMRP5のSplicing Variantである可能性をしめした。RNaseプロテクション法を用いて各種細胞株とその抗癌剤耐性株における発現レベルの検討およびシスプラチンおよびアドリアマイシンによるIn vitroでの誘導実験を行った。MRP5遺伝子のmRNAの発現は、アドリアマイシン、シスプラチン耐性細胞において増加しているが、シスプラチンによる発現上昇は短時間接触による細胞レベルでは、明確でなかった。しかし、臨床材料を用いた検討では、シスプラチンを含む化学療法を施行された患者の腫瘍において、シスプラチンを含まない化学療法を施行された群に比較して有意に高かった。また消化管腫瘍において、正常組織における発現に比して腫瘍組織において、有意に発現の増加を認める症例が集積しつつある。
転写因子YB-1の細胞内レベルはシスプラチンやエトポシドによるMDR1プロモーターの活性化に極めて大切であることを示した。69症例の骨肉腫の臨床検体について検討したところ、YB-1の核内局在がP-糖蛋白質の発現上昇と80%の相関を示した。YB-1 はそのC-末端領域において核局在のPCNAと結合していることが明らかになった。
MDR1プロモーターの-100bp付近のCpGサイトのメチル化の有無が同遺伝子の発現上昇に大切であった。42症例の骨髄性白血病患者において、このCpGサイトのメチル化の有無が骨髄細胞のP-糖蛋白質の発現と相関を示すとともに、寛解率とともに関連していった。ヒトMDR1遺伝子を含む約1.5Mbのエキソントラッピングと転写地図作成に成功し、幾つかの新しい遺伝子を単離した。
cMOATのヒトゲノムDNAを単離し、幾つかのDubin-Johnsonの家系も含めた患者末梢血で変異が第1と第2のATP結合領域に集中していることを示した。cMOAT・cDNAのCHOやLLCK-PK細胞への導入株を用いてビンクリスチンやシスプラチンに対して耐性を示すことを観察した。MRP3の完全長cDNAを単離し、cMOAT/MRP2と45%の相同性を示したがシスプラチン耐性株での過剰発現は見られなかった。ヒト肝や腸や前立腺に発現していた。ヒト脳腫瘍の8症例の臨床検体について、がん化学療法と放射線療法後、P-糖蛋白質およびMRPの発現誘導が見られた。
トポIIのプロモーター上の逆向きCAATボックス(Y-ボックス)が高温で上昇することが大切であることを見い出した。27症例の乳がん患者のがん部位で有意にトポIIαのmRNAレベルが上昇しているが、再発の症例では有意に減少していた。
MRPを高発現した多剤耐性細胞C-A120がCPT-11およびその活性化体であるSN-38に対性であり、CPT-11とSN-38の細胞内蓄積が減少しており、ATP依存性排出が亢進していた。これらの結果から、MRPはCPT-11とSN-38に対する耐性に関与しており、これらの薬剤をATP依存性に輸送すると考えられる。また、KB細胞由来シスプラチン耐性細胞KCP-4もCPT-11とSN-38に交差耐性を示し、CPT-11とSN-38を能動的に排出した。KCP-4細胞にはP-糖蛋白質、MRP、cMOATのいずれも発現しておらず、未知のポンプの発現が強く示唆された。ブタ腎臓細胞LLC-PK1にcMOATcDNAをトランスフェクトしたLLC-PK1/cMOAT細胞はVCR、シスプラチン、SN-38に耐性になった。この耐性を多剤耐性克服薬剤であるシクロスポリンA、PAK-104Pが完全に克服した。シクロスポリンA、PAK-104PはcMOATのLTC4結合部位に拮抗的に結合して輸送機能を阻害することを明らかにした。ヒト大腸がんSW-620細胞をNaBで2週間処理すると抗がん剤ADM、ビンクリスチン(VCR)、VP-16、グラミシジンD、タキソールに対して耐性となり、P-糖蛋白質(P-gp)、MRP、LRPの発現が誘導された。LRPmRNAに特異的なリボザイムを導入したSW-620細胞をNaBで処理すると、P-gpとMRPは誘導されるがLRPは誘導されず、抗がん剤耐性にならなかった。また、ADM、VCR、タキソールの蓄積はNaB 処理細胞で減少しておらず、耐性へのABCトランスポータの関与は考えにくい。蛍光顕微鏡を用いてADMの細胞内分布を観察したところ、未処理の細胞では核に蓄積しているのに対し、NaB処理細胞では主に細胞質に蓄積していた。単離核を用いた実験でもNaB処理細胞由来の核にはADMが蓄積しなかった。ピリジン誘導体、PAK-104PはNaB処理細胞の抗がん剤耐性を克服したが、PAK-104P存在下ではNaB処理細胞においてもADMが核内に蓄積した。LRPが核と細胞質間のADMの輸送に関与していること、PAK-104PがLRPの作用を阻害する可能性を示した。抗がん剤耐性克服薬剤開発を進めると同時に、血管新生阻害剤を開発し抗がん剤と併用して治療効果を高める研究も行い、チミジンホスホリラーゼ阻害剤が血管新生を阻止し、腫瘍増殖、転移を抑制することを見出した。
MKN-45Pの腹膜播種モデルでCNDAC、 DMDCおよびEUrdの抗腫瘍活性を試験した結果、Ara-Cは効果を示さないが、新規ヌクレオシドは著しい延命効果を示し、特にEUrdは6匹中4匹が60日以上延命し、うち1匹には完全治癒が認められた。
CNDAC、DMDCおよびEUrdは、腫瘍細胞の持つp53の表現型に依存してin vitroでアポトーシスを誘導し、野生型p53を有するMKN-45細胞でのみアポトーシスが観察された。このアポトーシス誘導においては、p53の安定化と共に、CPP32/Caspase-3およびPARPのプロセッシングが観察され、またICE/ Caspase-1およびCPP32/Caspase-3の阻害剤によりDNA-fragmentationが阻害されたことにより、他のアポトーシス誘導刺激と同様なシグナリングカスケードが存在することが示唆された。
腹膜播種モデルを用いてin vivoにおけるEUrdのアポトーシス誘導作用を検討した結果、アポトーシス細胞は薬剤投与24時間後より急激に増加し、50%以上の細胞が典型的なアポトーシス細胞として検出された。腹膜播種細胞におけるアポトーシス細胞をTUNEL法により検出する共に、p53タンパクの発現を免疫染色法により解析した結果、腹膜播種細胞でも薬剤投与24時間後よりアポトーシス細胞が増加し、これに伴ってp53タンパクの発現も増加したことからin vivoでもp53タンパクがアポトーシス誘導に重要であることが示唆された。
遺伝子治療の臨床研究の実施計画書は1998年2月24日に財団法人癌研究会遺伝子治療臨床研究に関する審査委員会で承認され、同年7月14日に文部大臣、厚生大臣に申請された。現在、国の審査委員会で審議中である。
この臨床研究のために臨床用ロットのHaMDRを用いてCD34抗原陽性細胞の精製とMDR1遺伝子導入のパイロットランを行った。その結果、30%から50%の細胞にMDR1遺伝子が導入されることが示された。また、増殖性レトロウイルス否定試験を含む全ての安全性検査において問題はなかった。コモンマーモセットを用いた系でも、MDR1遺伝子治療の安全性が示された。
Gly-533変異型topo I cDNAとneomycin耐性遺伝子を共発現するbicistronic retrovirus vectorを構築してHeLa細胞に導入したところ、遺伝子導入細胞は親株に比して約2倍のCPT耐性を示した。遺伝子導入細胞の核抽出液中のtopo I酵素(野生型topo Iと変異型topo Iのmixture)は見かけ上野生型topo Iに比して4倍のCPT抵抗性を示した。以上より、Gly-533変異型topo Iはdominantな抗癌剤耐性遺伝子として働くことが示された。
CDDP-Gemicitabine 併用において、Combination index 評価では各々の薬剤濃度比が1:50で相加以上、1:2000で相加以下と判定された。また Isobologram 分析では判定効果が IC80、 IC50 および IC20の時、各々相加以上、相加、および相加以下と判定された。従来法では濃度比あるいは判定効果のレベルの取り方により相反する結果が導かれた。
一方、3-D 法は両薬剤ともに低濃度での併用で相乗作用、高濃度で拮抗作用が観察された。このように3-D 法は、濃度依存性の複雑な併用効果を明瞭に図示することができた。
抗癌剤に無効あるいは耐性となった各種固形癌患者24例(男性11例、女性13例、年齢30-70歳、中央値60歳)が本試験で治療された。最初の投与量(5.7 mg/m2)で蛋白非結合の薬物濃度を検出でき、AUCの変動係数(45%)も許容範囲内と判断した。また、ヒトにおいても活性代謝物が存在しなかったため、PGDEを適用することとした。以後は各投与量で2例ずつを治療しながら100%の増量を行い、3回の増量(45.6 mg/m2)でマウスLD10のAUCの40%のAUCが得られた。その後33%の増量を4回行い、143.1 mg/m2で用量規定因子である骨髄抑制が観察された。それまでは、用量規定因子の出現確率分布は患者が治療されるたびに右(高用量)へ移動していたが、143.1 mg/m2で用量規定因子が観察されたため分布は左へ移動し、次の患者を一レベル下の107.2 mg/m2で治療した。その後107.2 mg/m2で患者を追加し、合計9例中3例で用量規定因子が観察された時点で、用量規定因子の出現確率分布の幅が狭くなり、MTDの推定精度が十分向上したと判断し本試験を終了した。
用量規定因子は骨髄抑制(好中球減少、血小板減少)の他に、肺障害、肝障害が観察された。用量規定因子の出現確率(平均値)は80.4 mg/m2、107.2 mg/m2、143.1 mg/m2でそれぞれ20%、39%、66%であり、用量規定因子の出現確率が33%を越える割合はそれぞれ、7%、70%、97%となり、推奨用量は80.4 mg/m2と107.2 mg/m2の間にあると推定した。抗腫瘍効果はドキソルビシンおよびドセタキセルに耐性となった乳癌患者でPRがみられた。
DMDC臨床第1相試験:合計15例の症例が12 mg/m2/dayと18mg/m2/dayの2つのステップに登録された(13 NSCLC、1 colon cancer)。MTDは18 mg/m2/dayであり、その時のDose limiting toxicity(DLT)は好中球減少、血小板減少、貧血であった。ZD1839臨床第1相試験:50 mg/m2/dayより開始し、第2ステップの100 mg/m2/dayを終了したところである。これまでのところDLTと判定される毒性を認めていない。CPT-11とDOCの臨床第I相試験:Level 1(CPT-11/DOC: 40/30 mg/m2)、Level 2 (40/40)、Level 3 (50/40)、Level 4 (50/50)、Level 5A (60/50)、Level 5B (50/60)に合計32例が登録された。Level 5AおよびLevel 5Bにおいて、それぞれ6例中3例、3例中3例にDLTを認めたためこれらの投与レベルがMTDと決定された。主なDLTはGrade 2以上の下痢と3日以上持続するGrade 4の好中球減少であった。抗腫瘍効果は31症例で評価可能であり、11例(35.4%)にPRが認められた。CPT-11とPACの臨床第I相試験:CPT-11 50 mg/m2、PAC135 mg/m2の第1ステップに3例の症例が登録された。3例中2例にDLTを認めたため、この投与量をMTDと判断し本試験を終了した。この時のDLTは5日間以上持続するGrade 4の好中球減少であった。興味深いことに、PAC投与時間中にCPT-11、およびSN-38の血中濃度の明かな上昇を認めた。
本年度の研究にてmrp5の全長クローニングに成功した。SMRPはMRP5のスプライシングバリアントであると考えられた。MRP5遺伝子のmRNAの発現は、各種耐性細胞において増加しているが、その発現誘導機構は明確にならなかった。しかし、臨床材料を用いた検討で、シスプラチンを含む化学療法を施行された患者の腫瘍において発現誘導を認めること、同一症例で腫瘍でのMRP5の発現が正常組織より高いことが明らかになり、臨床レベルでの耐性との関わりが明らかになりつつある。今後、臨床検体における抗がん剤との関わりを解析するうえで、抗体の作成が重要になると考えられ、作成中である。また、本年度研究によりMRP5の翻訳開始点が確定したため、遺伝子導入細胞による機能解析が可能となった。またクローニングしたマウスmrp5のゲノムクローニングをすすめ、ノックアウト細胞、マウス作成を目指す。このような手法によるMRP5の機能解析により、他のABCスーパーファミリー遺伝子との機能比較をすることにより、薬剤輸送における、MRP5の特異性を明らかにすることが必要である。
多剤耐性を担うABCトランスポーターファミリー遺伝子のうち、P-糖蛋白質の発現誘導に関して、ヒトがん細胞で転写因子YB-1やプロモーター領域のCpGのDNAメチル化の関与を示した。骨髄性白血病や骨肉腫のみならず他の臨床腫瘍においてP-糖蛋白質発現の診断マーカーとしての有用性を検討する。さらに、MRP1、cMOAT/MRP2、MRP3、MRP4、MRP5などについてもヒト腫瘍における感受性を制御する新しい分子標的となるか否かを検討していく。さらにゲノム不安定性とも関連して遺伝子再編成の分子機構を明らかにし、ヒトがんでのP-糖蛋白質の過剰発現との関連性について明らかにする。他方、DNAトポイソメラーゼIIαの発現レベルが再発乳がん症例で減少することはエトポシド治療に対する低感受性の一因である可能性を示した。
MRPがCPT-11とSN-38を能動的に細胞外へ輸送することを明らかにした。CPT-11とSN-38に対する耐性腫瘍が出現したとき、MRPの発現レベルの測定を行い、MRPが高発現しているときは、MRPの輸送基質にならない抗がん剤を選択したり、MRPの機能を阻害する薬剤を抗がん剤と併用することを考慮すべきと思われる。cMOATが抗がん剤耐性を担っていることが明らかとなった。耐性薬剤のスペクトラムはMRPの場合と異なること、cMOATの輸送機能がCsAで強く抑制されることが判った。これらの結果はcMOATとMRPの輸送基質が異なっていることを示している。cMOATが臨床でどの程度耐性に関与しているかを検討する必要がある。LRPが多剤耐性に関与していることが、LRPmRNA特異的リボザイムを用いた実験で確認された。今後、LRPがどのように細胞質と核の間の輸送、小胞輸送に関与しているか、また、LRPの腫瘍での発現と予後との関係について調べたい。 
CNDAC、DMDC、Eurdなどの新規シトシンヌクレオシドはいずれもin vitroおよびin vivoにおいてヒト固形腫瘍に対して抗腫瘍作用を示し、その作用機序としてアポトーシス誘導が重要であることを明らかにした。しかし、抗腫瘍活性とp53遺伝子の表現型との間に明らかな関連性は認められず、変異型p53を有するヒトがん細胞に対するin vivo抗腫瘍活性とアポトーシスを含めた細胞死誘導機序との関連性など、検討すべき課題はあるが、これら新規シトシンヌクレオシド誘導体は従来の核酸代謝拮抗剤とは異なった作用機構を持ち、ヒト腫瘍に対して広い抗腫瘍性と高い腫瘍選択性を示す化合物であり、抗がん剤として今後の臨床応用が期待される。
抗癌剤による骨髄抑制は癌化学療法において最も問題となる副作用である。MDR1遺伝子をレトロウイルスを用いて癌患者の血液細胞に導入することは、患者の臨床状態を改善して治療に関連する障害を防止するとともに、治療強度の増大も望みうると期待される。本年の研究成果により、耐性遺伝子治療の臨床研究の遂行性が示された。また、こうした治療法に使用できる耐性遺伝子はMDR1遺伝子を含めて5つ程度しか知られていなかったが、今回、Gly-533変異型topo Iをこうした治療に応用する可能性が示された。
今回確立した3-D 法は、統計学的処理の導入により従来曖昧だった相加以上あるいは以下の併用効果現象を相乗および拮抗作用の概念で定義可能となり、また再現性の高い結果が見出せる。3-D 法により相乗、相加あるいは拮抗などの併用効果を表わす薬剤濃度から臨床での投与濃度決定に資するものと思われる。
本試験では24例の患者で効率良くMTDを決定でき、MTDの25%の範囲内で全体の50%にあたる12例を治療することができた。治療関連死はなく用量規定因子も24例中4例(17%)にみられただけで、安全性も損なわれていなかった。もし、従来のFibonacciの変法で増量し1用量あたり3ないし6例を治療していたら、MTDの決定までに30例以上を必要とし、MTDの25%以内で30%以下の患者しか治療できなかったはずである。今後、前臨床試験と薬力学を比較するとともに、PGDEでの100%増量から33%増量への移行時期や、CRMでの用量規定因子以外の毒性情報の利用方法などを検討する必要がある。
DMDC臨床第1相試験:本臨床試験において1例の腫瘍縮小効果を認めたものの、海外での臨床第2相試験の結果にて有効率が極めて悪かったため本薬剤の日本ロッシュによる開発は中止に至った。しかしながら、日本で実施された臨床第1相試験としては少ない施設数にもかかわらず短期間に症例を集積することができ、予定通りにMTDを決定することができた。今後の抗悪性腫瘍剤の第1相試験の試金石となるものと考える。
ZD1839臨床第1相試験:現在、ステップ2を終了した段階であるが、新しい概念により装薬されたnon-cytotoxic drugの範疇に入る新薬である。海外同時開発で欧米の臨床試験を参考に第1相試験のスピードを上げる試みが現在考慮されている。Non-cytotoxic drugのデザインという観点からも注目されると考える。
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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