被災後の子どものこころの支援に関する研究

文献情報

文献番号
201232063A
報告書区分
総括
研究課題名
被災後の子どものこころの支援に関する研究
課題番号
H24-医療-指定(復興)-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(独立行政法人国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 眞紀子(独立行政法人国立成育医療研究センター病院)
  • 立花 良之(独立行政法人国立成育医療研究センター病院)
  • 中板 育美(公益社団法人日本看護協会)
  • 福地 成(みやぎ心のケアセンター)
  • 藤原 武男(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所成育社会医学研究部)
  • 舟橋 敬一(埼玉県立小児医療センター)
  • 本間 博彰(宮城県子ども総合センター)
  • 柳澤 正義(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども総合家庭研究所)
  • 植田 紀美子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター )
  • 亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)
  • 小平 雅基(独立行政法人国立国際医療研究センター 国府台病院)
  • 杉山 登志郎(浜松医科大学)
  • 西田 佳史(独立行政法人産業総合技術研究所デジタルヒューマン工学研究センター)
  • 本間 生夫(東京有明医療大学)
  • 本村 陽一(独立行政法人産業総合技術研究所サービス工学研究センター)
  • 八木 淳子(岩手医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
76,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災により子どもはトラウマ体験、喪失体験、環境の変化、放射能汚染不安などによるストレスが重なっており、次世代を担う子どものメンタルヘルスへのケアは重要でかつ長期的な問題となっている。本研究は、①被災後の子どものメンタルヘルスケアに関して中長期のケアの実態を検討し、②外部からの支援のあり方および、③エビデンスのあるケアや治療の標準化とトレーニング方法の提示という3つを目的に行われた。
研究方法
支援を行いながら、目的に合わせて、実証できる方法で研究を行った。具体的には、観察研究としては、受診児童の症状分析、ケアシステムの分析、研修の分析に加え、保健機関および保育機関への質問紙調査、全国市町村への避難児童に関する質問紙調査が行われた。また、保育園で被災した児童への面接調査も行われた。介入調査に関してはそれぞれのレベルで必要な介入方法に関して、被災児童への介入が行われその前後で効果が判定された。一部は非被災児童との比較が行われた。国際的にエビデンスが示されている治療法に関しては開発者と連絡を取って、手引書とワークブックの翻訳を行い、外傷性悲嘆に関する治療トレーニングを受講し、実践できる準備を整えた。支援者支援に関してはWebサイトを立ち上げ、被災地および支援に係る医師・心理士が海外で研修を受けそれをまとめた。また、海外との連携によりトレーニングカリキュラム案を作成した。
結果と考察
【結果】岩手、宮城、福島の各県でのメンタルヘルスケアの現状が明らかになった。それぞれの県での状況に合わせてシステムが構築されて対応がなされていたが、子どものメンタルヘルスを担う専門家の少なさや専門家に繋がらない子どもにも症状を抱えている子どもがいることも示された。また、時期によるメンタルヘルスニーズの変化として、初期にはトラウマ症状への対応が多かったが、現在はトラウマに脆弱な発達障害の問題や家族機能の問題での受診が多くなっていた。更に被災県内外の避難が現時点でも増加していることが明らかとなった。障がい児保育に対して被災児も含めた支援ツールの骨格が作成された。ネットワークの要の一つである子どものメンタルヘルスに関する保健業務の被災後の状況が明らかとなった。
外部支援に関しては支援者支援の重要性から支援者用のWebサイトを立ち上げた。SNSの利用の基礎が検討され、外部からの視点で、家族機能低下の問題が明らかになり、そのアセスメント方法が提示された。
支援内容の標準化に関しては、広く普及できるリラクセーションプログラムを被災地の小学生に行い、その有効性が明らかになった。保育園等で低年齢児に行えるPlaymakingも多くの保育園で行なわれ、有用性が示された。遊び場の少ない被災地で発達を支援する遊具も開発された。災害での心理教育の方法も提示され、配慮すべき点も明らかになった。また、トラウマにより専門家を受診するような子どもを対象としたエビデンスのあるプログラムとしてトラウマフォーカス認知行動療法(TF-CBT)の手引きとワークブックが翻訳された。14人の現地の医師や支援に入っている医師が実際に海外で研修を受け、報告書がまとめられた。海外での災害支援に造詣の深い専門家とともに、3レベルの研修のカリキュラムが示された。
【考察】専門家の不足、専門家に繋がらない子どもの症状の存在が明確になり、この時期の家族機能の問題も明らかになったことなどから、子どものメンタルヘルスケアがシステムとして行われることの重要性が示された。保健師はその状況に応じて対応しているが、広い連携が求められる。また、避難者の多さから広域の連携も必要と考えられた。更に、今回明らかになったメンタルヘルスニーズの変化に対応するシステム構築が必要と考えられた。支援者のためのWebサイトは今後有効性を判断し、他の支援と組み合わせることが求められる。
被災後に様々なレベルでの子どものメンタルヘルスケアに関して標準化されたエビデンスのあるツールが示され、基礎が築かれたが、今後はそれらをプログラムとして提供し、実践を広げる必要がある。また、災害に対する準備として、3レベルの研修の骨格を提示したが、今後は、前記のプログラムを含めて、カリキュラムとして実際に提供して、そのあり方を提示する必要がある。
結論
被災後の子どものメンタルヘルスに関しては、トラウマ症状から発達の問題や家族機能の問題に中心が移りつつあるが、ケアの必要性は決して低下していない。被災各地では限られた社会資源でケアシステムを構築しているが、外部支援も必要である。特に支援者支援は欠かせない。一般の子どもから精神的問題を持った子どもへの様々なレベルでのエビデンスのある支援ツールを提供できたが、引き続きの実践と普及が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201232063C

収支報告書

文献番号
201232063Z