スマートフォンを用いた安全な外来化学療法実施に関する研究

文献情報

文献番号
201232059A
報告書区分
総括
研究課題名
スマートフォンを用いた安全な外来化学療法実施に関する研究
課題番号
H24-医療-若手-052
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大島 久美(金子 久美)(広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線災害医療研究センター 血液腫瘍内科研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 細谷 要介(聖路加国際病院 小児科)
  • 石丸 博雅(聖路加国際病院 腫瘍内科)
  • 扇田 信(聖路加国際病院 薬剤部)
  • 黒柳 貴子(聖路加国際病院 看護部)
  • 宮尾 桜(聖路加国際病院 看護部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,640,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国でも、抗がん剤治療の診療形態が入院治療から外来治療に移行している。外来化学療法では、患者が日常生活を可能な限り維持しながら治療を続けられるためQuality of Life (QOL)を維持できる反面、患者・家族による体調管理(自己管理)と有害事象出現時の医療機関の迅速な対応が必須であるという難点もある。本研究では、スマートフォンを中心とした携帯情報端末を用いて、外来化学療法時に患者・家族と医療機関を緊密に結ぶ患者状態と副作用報告システムを確立することを目的とする。
研究方法
研究計画・方法は下記とする。1年目にシステムを確立し、2年目にシステムを用いた臨床研究を行うことを計画している。(1)外来化学療法における患者の離院後の自己管理や緊急時の対処方法についての現状と問題点を把握・整理する。(2)スマートフォンを用いた患者状態と有害事象報告システムを開発する。(3)開発したシステムを用いて臨床試験を行う。(4)化学療法終了後、患者または報告を担当した家族に対して、システムに関するアンケート調査を行う。システムの問題点とシステムに対する患者の満足度を検討する。(5)臨床研究に関わった医療従事者へのアンケート調査を行い、システムの問題点を把握する。(6)臨床試験の結果とアンケート調査の結果をもとに、システムの改善を行う。(7)汎用性のあるシステムを確立する。
結果と考察
平成24年度は予定通り、研究計画・方法の(1)、(2)と(3)の臨床試験計画の作成を行った。(1)の外来化学療法中の患者の離院後の自己管理や緊急時の対応に関する問題点の調査の結果、下記の結果があきらかになった。診療録の後方視的な調査では、外来化学療法を受けている患者からの当院への電話相談は4か月で1000件以上、内容としては症状相談、受診相談、内服相談が多く、離院後の自己管理に不安を感じていることが考えられた。外来化学療法患者の離院後の問題と対処方法についてのアンケート調査では、離院後に、約半数の患者が電話で、約一割の患者がメールで医療従事者に相談をしている現状が明らかとなった。内容としては体調と服薬に関してが多く、予定外の受診や緊急受診が必要な状況も含まれた。相談をしなかった場合はインターネットなどで検索をして情報を入手し、患者ブログなどを参考に自己対処している場合も認められ、その時に相談または受診が必要であったと考えられる状況も含まれた。これらの結果より、患者の自己管理を支えるための情報提供や相談窓口が不足していることが考えられ、システムの開発と並行して、当院の外来化学療法室であるオンコロジーセンターのホームページ作成し、情報提供を充実させることを検討した。調査結果を参考にして、(2)のスマートフォンを用いた外来化学療法時の患者・家族からの有害事象報告システムの開発を行った。株式会社エイルの在宅医療用のアプリケーションをベースとして、聖路加国際病院の外来化学療法用のシステムとして開発を行った。株式会社ソフトバンクテレコム社のクラウド環境を利用し、患者、医師、看護師、薬剤師がクラウド環境に登録された情報を参照することで、リアルタイムに情報を共有し迅速な対応が可能なシステムである。患者の個人情報流出の危険を減らすため、病院の電子カルテとは切り離した。さらに、緊急対応が必要な可能性のある状況に対しては、医療従事者の持つスマートフォンにアラート機能を設定し、速やかな緊急対応が可能なシステムとした。このシステムはWEB上からも閲覧・操作が可能である。また、開発したシステムを用いた臨床研究計画を作成中であり、今後開発したシステムを用いた臨床試験を施行する予定である。本システムを活用することで、軽微な段階で副作用情報が把握でき、重篤な副作用の軽減につながり、治療成績の向上が期待できる。また、患者にとっては治療における安心感と医療機関に対する信頼感の増加、医療スタッフにとっては多職種が患者情報とそれに対する対応をリアルタイムに共有できることによる医療安全の向上につながる。さらに、本システムは、システム構築が安価で実現可能性は極めて高い。このような利点があるものの、一方では今後の課題も多い。医療機関内でシステムの運用体制を整備する必要性、開発したシステムを用いた臨床研究の評価の難しさ、個人情報に配慮した上での院内の電子診療録との連動、高齢患者などスマートフォンの使用になれていない患者・家族に対する適応のための工夫、対象患者の疾患や治療毎のシステムの対応などがあげられる。
結論
結論に至るには臨床試験の結果が必要であり、課題も多いと考えられるものの、スマートフォンなどの新通信システムを外来化学療法に導入することは時代の要求にも応えており、我が国の医療水準の向上と患者の満足度の向上に寄与することが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201232059Z