難治がん治療のための新技術開発

文献情報

文献番号
199800147A
報告書区分
総括
研究課題名
難治がん治療のための新技術開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山口 建(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田輝彦(国立がんセンター研究所)
  • 若杉尋(国立がんセンター研究所)
  • 高上洋一(国立がんセンター中央病院)
  • 佐々木康綱(国立がんセンター東病院)
  • 荻野尚(国立がんセンター東病院)
  • 福島雅典(愛知県がんセンター)
  • 小原孝男(東京女子医科大学)
  • 望月徹(静岡県立大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
128,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、難治がん治療成績の向上を目指し、がんの生物学的特性に関する研究を進め、その成果を診断・治療技術の開発に応用し、とくに新しい生物学的治療法の臨床応用を目指すことを目的としている。がんの超早期診断技術として家族性腫瘍症候群の一つである多内分泌腺腫瘍症1型(MEN1)及び2型(MEN2)の遺伝子診断法と、それを用いた早期発見、早期治療法を確立する。なお、遺伝子多型と考えられていたものの中に低浸透度変異があると考えられるため臨床的にこのような家系の同定につとめる。新しい抗腫瘍薬としては、モノクロナール抗体を用いた悪性リンパ腫、進行乳がん治療の臨床第Ⅰ相試験を開始し、臨床薬理学的立場から検討を加える。プロスタグランディン誘導体については、臨床第1相試験のための準備を進め、生理活性ペプチドのがん治療への応用に関しては、高カルシウム血症の原因因子に対する拮抗薬の臨床応用に向けた活性の増強に関する検討を行う。HLA部分適合血縁者をドナーとし、純化血液幹細胞を用いる同種末梢血幹細胞移植術について、副作用や治療効果を含む長期観察結果を検討する。新しい免疫細胞療法の開発を目指し、樹状細胞の臨床応用に関する研究を進め、NK様T細胞については、その機能、抗腫瘍効果に関する基礎研究を進める。遺伝子治療技術に関しては、膵がんの特徴的な遺伝子異常であるK-ras点突然変異を標的とした、有効で安全な遺伝子治療法を可能にするin vivo遺伝子導入法の確立を目的とした研究を進める。陽子線治療については、デジタル画像撮影技術を用いた回転照射ポート用の位置照合システムの開発を行う。
研究方法
がんの遺伝子診断の臨床応用について、診断、治療、倫理など、診療全体についての方法論を確立するため、本邦のMEN1の20家系とMEN2の48家系について、それぞれの原因遺伝子であるMEN1及びRETの胚細胞変異の分析技術を確立し、変異様式と臨床病態との関連を検討した。さらに、MEN1遺伝子については、その機能を探る研究を行った。新しい抗がん剤に関する研究としては、単クローン抗体IDEC-C2B8およびMKC-454の第一相試験をそれぞれ抗がん剤耐性B細胞型リンパ腫、免疫組織学的にc-erbB2陽性が確認された進行・再発乳がんを対象として行った。プロスタグランディン誘導体lipo-TEI-9826については、in vivoでの抗腫瘍効果が得られた投与量80mg/kgで、ラットにおける各種投与ルート(急速静注,腹腔内,皮下)における血中濃度推移を測定し,薬物速度論的パラメータを求めた。生理活性ペプチドのがん治療への応用については、アンタゴニストの基本骨格ペプチドに持続的作用を付加する直鎖脂肪酸としてミリスチル酸を導入し、さらにペプチドの溶解性を考慮して3種類の PTHrP(8-34)あるいは PTHrP(8-36)誘導体を設計し、固相法により化学合成した。同種末梢血幹細胞移植法に関する研究においては、HLA部分一致血縁者間の末梢血幹細胞移植を、骨髄バンクでドナーが見つからない予後不良の難治性白血病患者を対象として試み、長期生存症例を分析した。遺伝子治療に関する基礎検討では、アンチセンスK-rasRNA発現ユニットを強力な組織非特異的融合プロモーターCAGの下流に組み込んだアデノウィルスベクターAxCA-AS-Krasを構築し、in vivoの腫瘍抑制効果をAsPC-1細胞の腹腔内移植の系で検討した。新しい免疫療法に関する研究では、U5A2-13モノクローナル抗体を始め、市販のヒトリン
パ球表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いてNK様T細胞を中心に機能の分析を行い、新しい免疫療法への応用を検討した。陽子線治療のための画像診断技術の開発については、デジタル・ラディオグラフィ(DR)システムで取得された画像を用い、陽子線治療システムの回転照射ポートの位置照合のためのシステム構築を行った。
結果と考察
がんの遺伝子診断に関する研究では、本邦のMEN1症例20家系のうち18家系でMEN1遺伝子の胚細胞遺伝子変異を同定し得た。このうち2家系では、遺伝子多型として報告されていたイントロンの塩基置換が病因的意義を有する変異であることを、腫瘍中RNAの解析により明らかにした。MEN2については、48家系中46家系でRET遺伝子の胚細胞遺伝子変異を認め、その一部の家系の分析で、RET遺伝子codon768の変異が、臨床的に浸透度が低く悪性度も低い病態を呈することを明らかにした。新しい抗がん剤に関する研究では、悪性リンパ腫、進行乳がんに対するモノクロナール抗体療法の有効性を確認した。プロスタグランディン誘導体lipo-TEI-9826に関する動物実験においては、本剤の毒性が投与速度と深く関係していることが判明した。また、本剤による用量規制毒性としての肝毒性が示唆された。高カルシウム血症治療薬PTHrP拮抗薬については、PTHrP(8-36)誘導体が強いアンタゴニスト作用を発現するためには8、10、11及び12位のアミノ酸残基の置換が重要であり、同時に分子C端部に導入された脂肪酸は受容体との結合を低下させないことが示唆された。HLA部分一致の血縁ドナー(両親または兄弟)を用いた純化幹細胞移植は国内外でもほとんど行われていないが、施行した13例のうち5例が2年以上生存し、臨床応用可能な技術であることが明らかにされた。本技術を用いれば、ドナーを捜すことなく、移植の必要な患者の90%以上に直ちに移植を行うことが可能となる。遺伝子治療に関する基礎検討においては、in vivoの腫瘍抑制効果の検討により、AsPC-1細胞の腹腔内移植の系において、アンチセンスK-rasベクターにより有意に腫瘍形成が抑制された。膵がんに特徴的な遺伝子異常を標的とする遺伝子治療法の開発に必要な次のステップは、安全性の確認と生存率改善の有無の検定であるため、正常な免疫能を備え、AxCA-AS-Krasが発現するアンチセンスRNAに対応するK-ras遺伝子配列がヒトと同一であるハムスターの膵がんの腹膜播種・肝転移モデルを用いて解析し、将来の臨床応用への可否を決定する予定である。新しい免疫療法に関する研究においては、マウスという系統を越えて、NK様Tカウンターパート細胞を認識できるラット・モノクローナル抗体U5A2-13を樹立した。この抗体を用い、U5A2-13抗体が認識するT細胞のサブセットはNK1.1抗体で認識されるT細胞群とほぼ一致するが、U5A2-13抗体が認識する抗原はNK1.1抗原とは異なることを明らかにした。また、U5A2-13抗体をマウスに静注すると二週間程度マウス体内からU5A2-13+T細胞を除去できる事を利用して、U5A2-13陽性T細胞はがんの増殖や転移に深く関与する細胞群であることを明らかにした。陽子線治療のための画像診断技術の開発については、DR画像を用いた回転照射ポート用の位置照合システムについて、一連の作業がDR装置で実施可能なハードウェアおよびソフトウェアの設計作製を行い、5症例について実際に検討を行った。その結果、0.5mmの精度で位置ズレが検出可能で、位置照合に要する時間を約10分に短縮しうるシステムが開発された。
結論
家族性腫瘍症候群のうち、MEN1, MEN2について、遺伝子診断技術を確立し、さらに、原因遺伝子の低浸透度変異を持つ家系を発見した。新しい抗がん剤については、濾胞リンパ腫、進行乳がんに対するモノクロナール抗体療法の有効性を確認し、プロスタグランディン誘導体lipo-TEI-9826に関する動物実験においては、前臨床試験を行い、用量規制毒性としての肝毒性が示唆された。高カルシウム血症治療薬PTHrP拮抗薬については、直鎖脂肪酸であるミリスチル酸を分子C端部に導入した誘導体に強力なin vitro活性を認めた。血液幹細胞移植術については、HLA部分一致の血縁ドナーを用いた
純化幹細胞移植を施行した13例のうち5例が2年以上生存し、この方法が臨床応用可能な技術であることが明らかにされた。新しい免疫細胞療法については、樹状細胞の収集と増殖に関する検討を進め、さらに、新しいイフェクター細胞としてのNK様T細胞を認識できるモノクローナル抗体U5A2-13を樹立し、この抗体を用いて、NK様T細胞ががんの増殖や転移に深く関与することを示唆する成績を得た。遺伝子治療に関しては、アンチセンスK-ras RNA発現ユニットを組み込んだアデノウィルスベクターを構築し、in vivoの腫瘍抑制効果を確認した。陽子線治療については、DR画像を用いた回転照射ポート用の位置照合システムを確立した。

公開日・更新日

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