地理的境界を超えた安全な医療情報連携に関する研究

文献情報

文献番号
201232040A
報告書区分
総括
研究課題名
地理的境界を超えた安全な医療情報連携に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-033
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松本 武浩(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 廣瀬 弥幸(長崎大学病院、医療情報部)
  • 岡田 みずほ(長崎大学病院、看護部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多数の医療機関に分散している診療情報をICTを使って地域内の医療機関で共有する診療は極めて有用である。これまで政府は様々な補助金事業によりこのようなネットワーク構築を支援してきたが、多くは中断あるいは頓座しており、実際の運用は難しいとされている。しかしながら今後主流となっていく地域完結型医療の中で高品質な医療を提供するためには、医療機関間での密な診療情報共有は必須であり、広域に渡るICTを使った医療連携システムの確立が急務である。本研究の目的は、全国どこでも運用可能でかつ安全な地域医療ICT連携を構築する条件について検討するものである。
研究方法
1.臨床現場で利用される連携システムとしての条件の検討
「あじさいネット」は、平成16年に長崎県で始まったICTを使った医療情報連携であるが、当時より順調に運用を続け約2万6千人の患者情報が共有されている。県内の主要な17病院の診療情報が約180医療機関から利用できる全国最大規模のICTネットワークであるため、「あじさいネット」の特徴を調査し他の取り組みと比較することで臨床現場で活用される条件を検討した。
2.全国アンケートによる地域医療ICT連携の取り組み状況と医療圏を超えた連携ニーズの評価
47都道府県の健康福祉関連部署と県医師会に対し自県の地域医療IT連携の取り組みに関するアンケート調査を実施し、県境を超えた連携ニーズおよび運用可能な条件等について検討した。
3.医療情報連携システム事例の検討とその比較による医療情報連携に求められる安全性と県境を超えるための必要条件に関する検討
関連する学会、研究会の発表および抄録集等より実際に稼働している地域医療ICTネットワークを抽出し、関連論文、報告書等によりそれぞれの特徴を調査し、「県境を超えた連携を進めるための課題」と医療ICT連携の前提となる「セキュリティ」対策に関し検討した。
4.長崎市近郊における継続看護の情報連携に関する検討
長崎大学病院と長崎市近郊の中核病院が転院時に使用している退院調整連絡票等に設定されている項目を調査し、看護・介護・ケア連携に関する情報共有の現状と課題を検討した。
結果と考察
「あじさいネット」では、情報提供病院の診療情報を他の医療機関から閲覧する運用を基本に、県外の中継サーバを経由して同意取得が得られた患者情報に暗号化されたインターネットを経由して利用するもので病診連携が中心であるが、他県の取り組みも同様の運用が最も多いことが判明した。また全国アンケート調査の結果、医療圏を超えた連携の必要性に対し、ネットワークを運用中の15地域中9地域が「県境であれば必要」、5地域が「県境ででなくても必要」と回答したが、県境に隣接していない医療圏との連携を実際に運用中と回答したのは1地域だった。以上により、地理的境界を超えた安全な医療情報連携を実現する上で、「あじさいネット」はICT連携のモデルとして有効であること。県境を超えた連携ニーズは存在するが、県境に隣接していない医療圏との連携は運用例が乏しいことが判明した。次に関連学会等の発表や論文等をもとに運用中のICTネットワークを抽出し、県境を超えた連携のための課題と必要なセキュリティ対策を検討した結果、県境を超えた実質的な運用事例は無く、実現に向けては、運用方法やセキュリティポリシー等の共通化が必要と判断した。さらに長崎市近郊の中核病院において、地域継続看護のために必要な「看護・介護情報」の共有状況について使用している退院調整連絡票等の連絡票を調査した結果、設定項目は施設毎の違いが大きく、質の高い継続看護・ケアに必要な看護・ケア情報の標準化と情報共有が不十分であることが判明した。
結論
「地理的境界を超えた連携」の対象は①県内の他の医療圏、②県境の他県の隣接医療圏、③県境を越えた隣接していない医療圏の3つに分けることができる。①、②の運用事例は存在するが、③の県境を超えた隣接していない医療圏との連携事例ほとんど存在しないことが判明した。①、②に関しては自ネットワークの運用ルールを適用することで運用しているものと思われるが、③の運用ではシステム構成、運用方法、セキュリティ対策のいずれにおいてもその相違が課題であり、アンケート結果上、連携ニーズも高くないことから、実現のためには政府主導での検討とガイドライン等のルール化が新たに必要と考えられる。一方、地域完結型医療の中では、医療(治療)と看護・介護(ケア)は両輪であるにもかかわらず、看護・介護情報の共有は医療情報に比し著しく遅れており、これらの情報項目の標準化と共有が急務であることも判明した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232040Z