救急外来に特化した電子カルテシステムと臨床診断意思決定支援システムの開発による医療安全の向上に関する研究

文献情報

文献番号
201232021A
報告書区分
総括
研究課題名
救急外来に特化した電子カルテシステムと臨床診断意思決定支援システムの開発による医療安全の向上に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中島 勧(東京大学医学部附属病院 救急部・集中治療部)
研究分担者(所属機関)
  • 矢作 直樹(東京大学医学部附属病院 救急部・集中治療部 )
  • 松原 全宏(東京大学医学部附属病院 救急部・集中治療部 )
  • 軍神 正隆(東京大学医学部附属病院 救急部・集中治療部 )
  • 佐藤 元(国立保健医療科学院 政策技術評価部)
  • 上村 光弘(国立病院機構災害医療センター 呼吸器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,032,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、救急医療現場における医療関係者の負担を軽減しかつ救急医療における診療の質を担保することで医療の安全性を高めるシステムを開発することである。初年度は開発に先駆け、諸外国で開発が進んでいる救急外来に特化した電子カルテシステム(EDIS)やその中に含まれる機能に関する論文の収集、日本における電子カルテに関する論文の収集、医療安全を目指した電子カルテシステム構築に関する論文の収集、日本の救急医療における電子カルテシステムアンケートを行った。その後、救急外来の安全を目指した電子カルテと救急現場において見逃しを減少させる臨床診断意思決定支援システム(CDSS)の構築を行った。
研究方法
 本研究は、研究者代表者の下に、救急医療の実際、また安全管理に関わる制度に豊かな経験と知識を有する過期の研究分担者と共に実施する。
 初年度(平成24年度)は、(1)諸外国で開発が進んでいる医療情報技術(以下HIT)、EDIS、CDSSに関する論文の収集、(2)日本におけるEDIS、CDSSに関する論文の収集、(3)医療安全を目指した電子カルテシステム構築に関する論文の収集、(4)日本の救急医療における電子カルテシステムの実際、(5)救急外来の安全を目指した電子カルテ構築、(6) 救急外来の安全を目指した臨床診断意思決定支援システムの構築を行った。また、現在諸外国で出版されている医療技術の安全性に関する本を翻訳し知識の共有を図った。
結果と考察
  EDISやCDSSといったHITの開発は、 医療主導の大型予算でHIT政策が行われるイギリス、 カナダ、 デンマークなどと異なり、 HIT政策が急には実現できず既存の電子カルテシステムにEDISシステムを導入する米国が参考になると考えられ、 米国におけるEDISやCDSSの開発の経緯と現状、 そして導入を阻む要因を吟味した。米国におけるEDIS,CDSS開発の歴史を鑑みると,EDISにおいては既存の病院システムとの互換性ならびに複数の医療機関との互換性や使いやすいインターフェースが必要となり,CDSSにおいては診療行為を妨げないように臨床医に注意喚起やアドバイスするデザインが必要であると分かった。
 電子カルテの安全性に関しては、導入したことにより医療の質が低下し患者の死亡率を上昇させる報告がある。それらに対しては、救急現場に即したオーダリングシステム、救急医療のワークフローを阻害しない臨床意思決定システムの開発が必要であることが分かった。そして医療情報システムの安全性の評価は軽視されてきた分野であり、アメリカやイギリスにおいても機能性、相互運用性、安全性、有用性などにおいて臨床情報システムを認定する試みは、未だ初期段階であることが分かった。よって開発した電子カルテの導入後は、診療時間や経過観察時間の短縮、処方ミスや重複オーダーの改善など導入した後評価する項目を立てておくことが必要であることが分かった。
 日本救急医学会認定・救急科専門医指定施設 466カ所に対して行ったアンケート調査では、日本において救急外来で使いやすい様に開発している施設は非常に少なく、現場では救急外来で使いやすい電子カルテを希望する施設は非常に多いことが分かった。しかし導入する際の資金やメンテナンス費用に不安が多いことから、このような費用を押さえることを留意してシステムの開発に当たる必要があることが判明した。
 電子カルテに掲載する臨床意思決定支援システムの一つの機能として、見逃してはならない鑑別疾患表ならびに身体所見を各症状ごとに作成した。
 開発した電子カルテシステムに対して使用調査を行ったが、現状では救急のワークフローを阻害する可能性が非常に高いことが判明した。
 EDISを開発するに当たり、現在各病院に導入されているシステム全てを入れ替えることは非常に大がかりとなり、費用的や情報漏洩を考えると現実的ではない。よって、我々は診療記録を入力しやすいインターフェースならびに見逃しては成らない疾患の表示をさせる電子カルテシステムの開発に重点を置くことにした。この電子カルテの利点は、救急隊の情報、来院時の患者の情報、重症度や緊急度、主訴、主訴から取るべき身体所見、主訴から見逃してはならない鑑別疾患の表示があることで、救急医療の安全性を高めるだけでなく、主訴による患者の疾患や身体所見のデータ蓄積が行えることである。これにより日本人の主訴と身体所見や疾患を結びつけた疫学調査が可能となることが期待される。
結論
 次年度(平成25年度)は、初年度の準備(研究)を踏まえて、電子カルテの使用を開始し、実際に診療効率が改善したのか、医療過誤は実際減少したのか、現在の標準的治療に沿って治療が行われているのか、医師の診断過程に影響を与えたのかを評価したい。

公開日・更新日

公開日
2013-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232021Z