医療の質・安全の向上をめざしたシミュレーション教育・研修システムの開発および遠隔教育への応用についての研究

文献情報

文献番号
201232019A
報告書区分
総括
研究課題名
医療の質・安全の向上をめざしたシミュレーション教育・研修システムの開発および遠隔教育への応用についての研究
課題番号
H24-医療-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井田 雅祥(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 リハビリテーション科)
研究分担者(所属機関)
  • 中西 成元(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンター)
  • 池上 敬一(獨協医科大学越谷病院救命救急センター)
  • 鈴木 克明(熊本大学大学院社会文化科学研究科)
  • 澤 智博(帝京大学医療情報システム研究センター 帝京大学本部情報システム部 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)
  • 松本 尚浩(東京慈恵会医科大学麻酔科)
  • 武田 聡(東京慈恵会医科大学救急科・循環器内科)
  • 鹿瀬 陽一(東京慈恵会医科大学麻酔・救急治療学)
  • 石川 雅巳(国家公務員共済組合連合会呉共済病院 麻酔・救急治療科)
  • 松本 みどり(国家公務員共済組合連合会立川病院  麻酔科)
  • 大森 正樹(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 国家公務員共済組合連合会虎の門病院 国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンター)
  • 荒井 直美(国家公務員共済組合連合会虎の門病院 国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,584,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、医療の質・安全、地域医療の水準の向上を目指して、シミュレータを用いた教育研修システムの構築を進めている。2000年頃から医療事故の報道が相次ぎ、国民は医療者の知識や技能に不安を抱いている。医療への信頼性を高めるには、標準化された実践的な医療教育とともに、チーム医療に適切に対応できる教育を行い、医療者の知識や技能を確保することが必要である。その手段としてシミュレータを用いた教育研修システムが有効と考えられる。このシステムは、e-learningを用いた知識の確認と学習支援、タスクトレーニングによる技術習得があり、さらに実際の臨床場面に即して設計されたフルスケール・シミュレータ教育がある。フルスケール・シミュレータ教育では、体験後の受講者に指導者が行うデブリーフィングの技術が重視される。これらが一連の流れとしてシステム化されることにより、設定した医療水準の確実な習得、受講者ごとに習得状況の把握が可能となり、人材管理にも活用できる。習得状況に応じて資格を与えることも可能である。こうした教育システムの整備はまだ本邦では行われておらず、早期に具体化することが求められる。今回、この目標を達成するための要件について研究した。
研究方法
医療シミュレーション教育に関する国際学会の動向調査、教育設計学(教育工学Instructional Design:ID)の導入とe-learningへの応用、国際標準の指導者技能記述であるibstpi instructor competency (IIC) の指導者養成への応用、遠隔教育支援システムの活用、学会認定研修への活用、シミュレーション施設のアウトカムについて、それぞれ研究を行った。
結果と考察
国際学会の動向として、フィードバック・デブリーフィングの技術、IDに基づく研修の重要さが指摘されている。IDは、人材育成を分析・設計し、必要な教材や学習環境を整備し、評価しながら改善する手段をシステムとみなす問題解決手法であり、医療分野でも多忙な勤務時間かつ制約されたコストの中で計画的に人材を育成することが期待できる。今回、e-learningに応用した結果、科学的な教育理論に基づくプログラムとして医療分野でも有用と考えられた。シミュレーション教育では、受講者、指導者のそれぞれにSimulated Learning Environment (SLE)を活用する能力が要求される。本邦におけるシミュレーション教育の問題点として、現場との環境解離が挙げられた。 SLEに基づいて可能な限り実際の臨床現場に即した環境下で研修を行った結果、有用性が示唆された。
研修が拡散、浸透していくためには戦略的な指導者養成が欠かせない。インストラクターの手腕向上の目的で、IICの18項目のコンピテンシーを指導者養成に応用する研究を行った。達成を明確にするチェックリストを作成し、教育活動の現場で試用した結果、有用性が示唆された。
遠隔教育支援システムは様々な医療教育研修へ応用でき、地域医療の質と安全性の向上に大きく貢献できる可能性を持っている。今年度は、①遠隔教育に利用するインターネット回線は簡易的なVPN回線でも実用性があることを実証した。②遠隔地で起案したシナリオに応えて、中央にいる専門家がシミュレータへのインストール、動作確認を含めて、教材作製のすべての工程を遠隔で行うことができた。その結果、遠隔地にあっても、自施設にいながらフルスケール・シミュレータ研修プログラムの作製から開催まで実施することが可能となった。③学会認定のシミュレータ研修を遠隔で行い有効性を確認した。現在、遠隔教育でも学会の認定を受けられるように働きかけている。遠隔教育支援システムのネットワークを、平時は教育ネットワークとして活用し、災害時にはネットワーク上で医療機関同士が情報を共有しあう、災害医療のネットワークソリューションとして活用することも可能と思われる。
患者安全のアウトカムとして、海外では多くのevidenceが紹介されている。自院における患者安全のアウトカムを調査した結果、シミュレーションセンターの設立から4年後に医療事故の減少傾向が見られたものの、有意の変化として捉えることは困難であった。
結論
シミュレータを用いた教育研修システムの構築にあたり、e-learning、シミュレータ教育、デブリーフィングなどの有用性が示された。また、IICの指導者養成への有用性、遠隔教育の効果も示唆された。今後、教育研修システムの構築を進めるとともに、IDに基づく研修の充実、指導者の育成、遠隔の利用による地域医療の向上、災害医療への応用、さらに国際貢献も視野に入れて、医療の質と安全の向上に貢献していく方針である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232019Z