医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究

文献情報

文献番号
201232002A
報告書区分
総括
研究課題名
医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究
課題番号
H23-医療-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 修平(社団法人全日本病院協会 同上)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部 社会医学講座 社会医学)
  • 小谷野 圭子(練馬総合病院 質保証室 医療の質向上、電子カルテシステム等の情報システム関連担当)
  • 西澤 寛俊(社団法人全日本病院協会 医療管理)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内事故調査は、当該医療事故について最も情報を知りうる立場にある病院内において、最初に行われる活動である。背景要因を含めた原因を明らかにし、再発防止に直接寄与することが期待される。しかし、医療事故の標準的な院内調査手法は確立されておらず、検討すべき課題が数多く存在する。本研究では、重大医療事故に遭遇した場合に行う院内事故調査の現況・課題を明らかにして、院内医療事故調査の指針を作成することを目的とした。
研究方法
本年度は、(1)3年以内に重大医療事故を経験した医療施設を対象にしたヒアリング調査、(2) 他産業の専門家へのヒアリング調査、(3)院内事故調査の指針の作成を行った。(1)重大医療事故の経験病院へのヒアリング調査では、アンケート調査にてヒアリング調査への協力を募り、協力すると回答した100病院のうち17病院を対象に半構造化面接を行った。(2)他産業へのヒアリング調査では、船舶・航空・鉄道産業の各専門家を対象に非構造化面接を実施し、組織構成、調査方法、調査結果の利用可能性、予算規模と財源、システム運営等を調査した。(3)院内事故調査の指針の作成では、医療安全管理者養成研修会に参加した216名を対象にアンケート調査を実施し、院内事故調査の実施にあたり困った点、医療事故防止や安全管理に必要な支援策を調査した。また、本研究事業で実施した調査結果および、既存の院内医療事故調査の手引きなどを参考に指針を作成した。
結果と考察
(1)重大医療事故の経験病院へのヒアリング調査では、半数以上の病院が外部委員を招聘しており、専門的な原因究明と法的な判断が招聘理由として多く挙げられた。望ましい外部委員としては、①病院とは利害関係を有さない、②当該領域の専門家、③実地医療に精通していること、が要件として多く挙げられたものの、実際には、外部委員の確保が困難であることが示唆された。報告書は全病院で作成されていたものの、院内資料、患者・家族への説明資料に大別された。報告書の内容・作成基準は明確では無く、統一基準の策定が有用と考えられた。(2)他産業へのヒアリング調査では、これらの産業では、国土交通省の外局として運輸安全委員会が設置され事故調査等に当たっていた。運輸安全委員会は、運輸安全委員会設置法で、事故等の原因究明、再発防止対策の立案、事故調査官の権限等が明確にされていた。(3)院内事故調査の指針の作成では、アンケートの結果、①安全管理者の活動内容を明確化、②事故調査報告書の標準化、③安全管理者以外への周知が必要とされていた。本研究で作成した指針の項目は、以下の16項目であった。大項目として抽出されたのは、①諸言、②対象、③用語の定義、④事故調査の流れ、⑤事故発生直後および24時間以内の対応、⑥院内事故調査委員会の設置、⑦原因究明と対策の立案、⑧診療記録の整備、⑨事故報告書の作成、⑩患者・家族への対応、⑪当事者の職員への対応、⑫警察への対応、⑬マスコミへの対応、⑭その他、⑮提言、⑯参考資料の16項目であった。
結論
ヒアリング調査を実施することで、院内事故調査の現状および課題を検討した。当事者である当該病院が行う事故調査の中立性・公明性の担保、最終的な報告書の取りまとめ方法など、依然課題として残されていることが伺える。今後は、原因究明時に必要な人材を紹介できるような病院外の支援体制を構築すること、医療安全管理の専門家を育てるための教育・研修などを活発化させること等が重要であると考えられる。これまでの調査により得られた知見に基づいて、院内事故調査の指針を作成した。指針は、重大な医療事故経験の少ない病院が、事故直後から利用できる様に、活動内容を時系列に沿って詳細に記載した。本指針を使用することで、日本における医療事故調査の手法及び報告方法の標準化が進むことが期待される。参考資料に加えた院内事故調査のひな形を使用することで、報告書作成の簡便化および質の向上が進むばかりでなく、報告書の標準化が進むことでデータの集積、類似事例の比較検討などが可能になることが考えられる。今後、医療機関が医療事故調査組織の整備を行う際には、この指針が参考になると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201232002B
報告書区分
総合
研究課題名
医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究
課題番号
H23-医療-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 修平(社団法人全日本病院協会 同上)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 友紀(東邦大学医学部 社会医学講座 社会医学)
  • 小谷野 圭子(練馬総合病院 質保証室 医療の質向上、電子カルテシステム等の情報システム関連担当)
  • 西澤 寛俊(社団法人全日本病院協会 医療管理)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 院内事故調査は、当該医療事故について最も情報を知りうる立場にある病院内において、最初に行われる活動である。背景要因を含めた原因を明らかにし、再発防止に直接寄与することが期待される。しかし、医療事故の標準的な院内調査手法は確立されておらず、検討すべき課題が数多く存在する。本研究では、重大医療事故に遭遇した場合に行う院内事故調査の現況・課題を明らかにして、院内医療事故調査の指針を作成することを目的とした。
研究方法
 本研究では、(1) 医療事故報告書の作成過程についてのアンケート調査、(2) 安全管理体制および医療事故経験に関するアンケート調査、(3)重大な医療事故を経験した17の医療機関代表者へのヒアリング調査、(4)船舶・航空・鉄道産業の専門家へのヒアリング調査、(5)院内事故調査の指針の作成を行った。
結果と考察
 (1)医療事故報告書の作成過程についてのアンケート調査では、ほぼ全ての病院で医療事故の概要を記載していたが、①当事者・関係者の匿名化の程度、②事故調査委員会の匿名化の程度、③過失の有無等の有責判断、④再発防止策の実施状況および評価方法などについては、病院間で一定の傾向は認められず、標準的な手法がいまだ確立していないことがうかがえた。(2)安全管理体制および医療事故経験に関する調査では、2004年と2011年の2時点比較を行い、①約20%の病院が3年以内に重大な医療事故をしており、その割合は変わらないこと、②医療安全管理の実務担当者を配置している病院の割合が約20%増加した。(3)重大な医療事故経験病院へのヒアリング調査では、半数以上の病院が外部委員を招聘しており、専門的な原因究明と法的な判断が招聘理由として多く挙げられた。望ましい外部委員としては、①病院とは利害関係を有さない、②当該領域の専門家、③実地医療に精通していること、が要件として多く挙げられたものの、実際には、外部委員の確保が困難であることが示唆された。報告書は全病院で作成されていたものの、院内資料、患者・家族への説明資料に大別された。報告書の内容・作成基準は明確では無く、統一基準の策定が有用と考えられた。(4) 船舶・航空・鉄道産業の専門家へのヒアリング調査に関しては、これらの産業では国土交通省の外局として運輸安全委員会が設置され事故調査等に当たっていた。運輸安全委員会は、運輸安全委員会設置法で、事故等の原因究明、再発防止対策の立案、事故調査官の権限等が明確にされていた。(5)院内事故調査の指針の作成に関しては、以下の16項目が大項目として抽出された。①諸言、②対象、③用語の定義、④事故調査の流れ、⑤事故発生直後および24時間以内の対応、⑥院内事故調査委員会の設置、⑦原因究明と対策の立案、⑧診療記録の整備、⑨事故報告書の作成、⑩患者・家族への対応、⑪当事者の職員への対応、⑫警察への対応、⑬マスコミへの対応、⑭その他、⑮提言、⑯参考資料。
結論
 医療安全管理体制に関しては、医療安全対策加算の基準が緩和されたこと等により、2004年から2011年にかけて専従者または専任者を配置する病院が増加したが、報告された事例の活用状況に変化はなく、重大な医療事故を経験した病院の割合も減少しなかった。診療報酬による政策誘導は、専従者や専任者の配置の推進に寄与したが、具体的な医療安全活動の推進への寄与は限定的であった可能性、もしくはそれを評価するにはもう少し時間を要する可能性があると考えられた。院内事故調査に関しては、公明性の問題は残るが、同一病院グループで調査委員を派遣する制度を持つ場合、同病院内の職員で当該領域の専門家をカバーできる場合などもあった。外部の専門家を紹介できるような病院外の支援体制の構築が検討される必要があるだろう。本研究事業により得られた知見に基づいて、院内事故調査の指針を作成した。指針は、重大な医療事故経験の少ない病院が、事故直後から利用できる様に、活動内容を時系列に沿って詳細に記載した。本指針を使用することで、日本における医療事故調査の手法及び報告方法の標準化が進むことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201232002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療安全管理体制および院内事故調査体制を明らかにして、院内事故調査の指針を作成した。中小規模病院は大規模病院と比べて専従・専任の医療安全管理者を配置する割合が低く、財源面等の更なる支援が必要である。全日本病協会等の支援団体が、原因究明時に必要な人材を紹介できるような体制を構築しつつある。院内事故調査の指針を参考にして、研修会を実施し、その結果を反映して教材を改善し、省令・通知を反映して、『院内医療事故調査の指針 第2版』を出版した。医療事故調査の手法及び報告方法の標準化を進めている。
臨床的観点からの成果
本研究の調査結果に基づき院内事故調査の指針を作成し、省令・通知を反映して、『院内医療事故調査の指針 第2版』を出版した。指針は、重大な医療事故経験の少ない病院が、事故直後から利用できる様に、活動内容を時系列に沿って詳細に記載した。しかし、本制度の対象事例の判断に問題が多く見られる。本指針を参考にして、医療事故調査の適切な手法及び報告方法の標準化が進むことが期待される。参考資料の院内事故調査のひな形を使用することで、報告書作成の簡便化および質の向上、報告書の標準化が進むことが考えられる。
ガイドライン等の開発
院内事故調査の指針を作成した。指針は以下の16項目から構成されている。①諸言、②対象、③用語の定義、④事故調査の流れ、⑤事故発生直後および24時間以内の対応、⑥院内事故調査委員会の設置、⑦原因究明と対策の立案、⑧診療記録の整備、⑨事故報告書の作成、⑩患者・家族への対応、⑪当事者の職員への対応、⑫警察への対応、⑬マスコミへの対応、⑭その他、⑮提言、⑯参考資料。学会等で、本制度の対象事例の判断の論理的枠組みを提案した。
その他行政的観点からの成果
平成24年7月「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」および厚生科研費研究「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究(研究代表者:西澤)」(2014/7)で、平成23年度の総括研究報告書および『院内医療事故調査の指針』を使用した。また、本研究のアンケート及びヒアリング調査結果は、「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」で複数回引用された。
法令の解釈とは異なる対象事例の判断をする団体があるので、「適切な判断と委員会運営」の教材を作成中である。
その他のインパクト
本研究成果に基づいて作成した指針を参考にして、日本における医療事故調査の手法及び報告方法の標準化が進むことが期待される。指針は冊子としてまとめ、出版した。アンケート及びヒアリング調査結果の普及・啓発活動として、全日本病院学会でのシンポジウム企画、日本品質管理学会及び日本医療マネジメント学会での発表、医療安全管理者養成講習会の開催、毎日新聞による調査結果の掲載などがある。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
シンポジウム:匿療事故発生後の院内調査のあり方と方法に関する研究報告, 第54回全日本病院学会, 横浜, 2012年9月

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
飯田修平
各科曼陀羅(vol.73) 外科医会 医療事故発生後の院内調査の在り方
練馬区医師会だより , 532 , 35-39  (2012)
原著論文2
飯田修平
院内医療事故調査の指針
院内医療事故調査の指針  (2013)
原著論文3
飯田修平
院内医療事故調査の指針 第2版
院内医療事故調査の指針 第2版  (2015)
原著論文4
公益社団法人 全日本病院協会
医療事故調査制度に係る指針
医療事故調査制度に係る指針  (2015)
原著論文5
飯田修平、西澤寛俊
医療事故調査制度 対応マニュアル
医療事故調査制度 対応マニュアル  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
2017-06-05

収支報告書

文献番号
201232002Z