micro RNA解析による間質性膀胱炎病態の解明

文献情報

文献番号
201231184A
報告書区分
総括
研究課題名
micro RNA解析による間質性膀胱炎病態の解明
課題番号
H24-難治等(難)-指定-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
本間 之夫(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
研究分担者(所属機関)
  • 野宮 明(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 西松 寛明(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 鈴木 基文(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
  • 新美 文彩(東京大学医学部附属病院 泌尿器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間質性膀胱炎は、頻尿・知覚過敏・尿意切迫感・膀胱痛などの症状を呈する難治性疾患であり、有効な治療法の開発のため、その病態の解明が強く求められている。
これまでの研究で、潰瘍の有無で間質性膀胱炎の病態が異なる可能性が示唆されている。例えば、潰瘍の有る症例で一般に症状は重症で、膀胱粘膜でのCXCL9, ASIC1などのmRNAの発現が大きく異なる(J Urol 183:1206-12, 2010)。
しかし、この疾患が比較的稀であるために潰瘍の有無に着目した病態研究はきわめて限られている。
そこで、我々は潰瘍病変の有無に着目し、間質性膀胱炎の病態を解明することを企図し、間質性膀胱炎患者から採取した膀胱粘膜組織のmessenger RNA(以下、mRNAと略す。)を解析し、さらにその発現を調整しているmicro RNA(以下、miRNAと略す。)まで解析を進めて潰瘍の有無で発現の差異を臨床像と併せて検討していくことを計画した。

研究方法
 平成24年度は、膀胱水圧拡張術に際して膀胱粘膜組織検体を採取し、それらからのRNA抽出とmRNAの解析、臨床情報を含めたデータベースの作成を行った。
膀胱水圧拡張術に際して採取した膀胱粘膜検体は、-80℃にて凍結保管して、さらに対照として膀胱癌に対する経尿道的膀胱腫瘍切除術に際しても正常膀胱粘膜の一部を採取、凍結保管している。
サンプルはRNA抽出時に解凍し、total RNAの抽出を行い、品質確認後にcDNAを逆転写合成、続いてmRNAの変動量をqRT-PCR法にて網羅的に解析した。なお、今年度は内外の先行研究を参考に膀胱粘膜におけるTransient receptor potential channel (TRPチャンネル)の発現を検討した。
 
平行して、症例のデータベース作成を行った。データベースには、患者の診断時年齢、発症時年齢、性別、既往症・依存症、1日排尿回数、夜間排尿回数、1回平均排尿量、1回最大排尿量、拡張時膀胱容量、潰瘍の有無、潰瘍の程度、間質性膀胱炎の自覚症状の程度を評価するO’Leary and Santの症状スコア・問題スコア、疼痛スコア、国際前立腺症状スコア、下部尿路主要症状スコア、過活動膀胱スコアをそれぞれ記入した。
結果と考察
1.結果
A.mRNA 解析
 膀胱粘膜におけるTransient receptor potential channel のmRNA分析の結果、対照と比して潰瘍型でTRPA1、TRPM2、TRPM8、TRPV1、TRPV2、の有意な発現増加、TRPV4の有意な発現低下を認めた。非潰瘍型ではTRPV2のみ有意に発現が増加していた。また、TRPM2が間質性膀胱炎の症状の指標と相関していることも確認された。
 平成25年度はこの研究結果に基づいて発現に変化を認めているmRNAの発現を調整しているmicroRNAの発現の解析を実施していく予定である。

 B. データベース
サンプルを採取した症例については、先に述べた種々のデータをそれぞれ採取し、データベースに記載した。
 詳細は次年度の研究報告に委ねるが、非潰瘍型に比して潰瘍型のほうが有意に高齢で症状が強い傾向にあった。また潰瘍の有無を問わず、間質性膀胱炎の症状が対照に比して有意に強く、患者の生活の質にも影響していることが示された。

2.考察
間質性膀胱炎の膀胱粘膜組織におけるmRNAの発現を検討した結果、TRP チャンネルのmRNAの発現様式に潰瘍の有無で違いを認めている。
miRNAの機能は遺伝子発現を制御することであり、一部のmRNAと相補的な塩基配列を有し、これらが結合することで翻訳を阻害しており、潰瘍形成に代表される慢性的な炎症性疾患の病態に深く影響していることが考えられている。違う血管床では細動脈レベルでの血管炎や潰瘍の治癒過程においてmiRNAが深く関与していることが示唆されており、間質性膀胱炎における潰瘍性病変の有無でmiRNAの発現や抑制の形態も異なるために、我々の検討したmRNAの発現に変化が出た可能性が示唆される。

以前より潰瘍の有無で間質性膀胱炎の臨床像が異なることが論じられていたが、今回の研究成果は、その病態の違いの一端に迫る手がかりになると考えられる。

平成25年度の研究事業においては、平成24年度研究で明らかになったmRNAのデータをもとに、その発現を調整しているmiRNAを解析し、潰瘍の有無での発現の差異などを明らかにしていく。


結論
 2年度研究の1年目の報告のため、現時点では最終結論ではないが、予備研究の結果、潰瘍の有無でTRPチャンネルのmRNAの発現に差異を認めており、それらの発現を調整しているmiRNAの発現にも違いがある可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231184Z