早老症の病態解明、診断・治療法の確立と普及を目的とした全国研究

文献情報

文献番号
201231182A
報告書区分
総括
研究課題名
早老症の病態解明、診断・治療法の確立と普及を目的とした全国研究
課題番号
H24-難治等(難)-指定-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
横手 幸太郎(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 孝彦(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 竹本 稔(千葉大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早老症は全身に老化徴候が早発する疾患の総称である。ハッチンソンギルフォード症候群(以下、HGPSと略)、ウエルナー症候群(WSと略)、コケイン症候群(CSと略)など、早老の程度に差のある約10疾患を含むが、それぞれ希少であり、治療法はもとより我が国における患者実態も不明である。うちWSは思春期以降に発症し、がんや動脈硬化のため40歳半ばで死亡する常染色体劣性疾患で、国内推定患者数は約2,000名、世界の報告の6割が日本人と我が国に多い。原因遺伝子は1994年に同定されたが、早老機序は未解明、根治療法も未確立であり、多くの患者が難治性皮膚潰瘍に伴う下肢切断、悪性腫瘍や糖尿病のため、生命の危機や重篤な後遺症に苦悩している。平成21~23年度の厚生労働科学研究により、我々は385症例のWS患者を新規に同定、その解析成果を基に治療ガイドラインを完成した。これを普及・検証・発展させ、真に患者の予後改善に役立てる必要がある。さらに、他の早老症についても、WSの経験をもとに、日本における実態解明と診断・治療法確立を全国規模で進めることが肝要である。本研究では、日本の早老症の実情と病態を解明、患者の生命予後とQOL改善に取り組むことを本研究の目的とした。
研究方法
①海外に比べ日本に頻度の高いWSを中心に、小児期発症のHGPSや皮膚に症状の強いCSなど、早老症全般の頻度と実態を解明する。②前年度までの研究で、既に治療指針を作成したWSについては、その普及を図るとともに、内容改善へ向け、治療のアウトカムを検証する。③革新的治療への糸口として患者由来iPS細胞を樹立、発症機序の究明や再生治療など根治療法開発の扉を開く。これらの研究成果をもとに④WSの原因であるReqQ型DNAヘリケースWRNの遺伝子変異に関し、日本人の約1%と推定されるヘテロ接合体の頻度と表現型の精査、⑤樹立したiPS細胞による分化系の確立とこれを用いた老化関連遺伝子の探索へとつなげる。
結果と考察
①全国の200床以上の病院の小児科を対象に一次アンケート調査を行い、HGPS患者数の把握を行った。アンケート調査は各診療科に過去10年間に経験された症例のうち、遺伝子診断が行われた症例を「確定」例、臨床症状から診断された症例を「疑い」例として回答をお願いした。1173施設にアンケート調査を郵送し、768施設からの回答を得た (回答率65%)。確定は男性2名、女性3名、不明1名、疑いは男性3名、女性5名、不明1名の計15名であった(表1)。今後この15名の患者の詳細な臨床経過を検討することによりHGPSの実態を解明してゆく予定である。さらにCS等の他の早老症に関しても調査を進めてる。
②平成24年度に作成したWS診断・診療ガイドライに関して国内外における学会にて発表し、その普及につとめた。
③ WSの皮膚由来線維芽細胞にOct-4, Sox2, Klf4, c-Mycの山中4因子を導入し、無限分裂能の獲得した細胞の樹立に成功した。この細胞を免疫不全マウスの精巣への移植により三胚葉系細胞への分化(奇形腫形成)を確認した。リプログラミングによりWS患者由来iPS細胞を得ることができた。今後は研究方法に記載してあり④、⑤を遂行すべく準備を進めている。
結論
我々が作成したWSの診断・治療ガイドラインが普及することにより、これまで見過ごされてきた患者が正確に診断され、そのQOLや生命予後の改善が期待される。さらにHPGSなど、その数さえ把握されていなかった早老症に新たな光を当てることは、人知れず苦しみ命を落としていく患者への救いとなる。加齢やアンチエイジングが広く興味を集めている今日、早老症の病態・診断・治療の包括的研究を世界に先駆けて推進することの一般社会に与えるインパクトも大きいと考える。

公開日・更新日

公開日
2013-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231182Z