間葉性異形成胎盤の臨床的・分子遺伝学的診断法の開発を目指した基盤研究

文献情報

文献番号
201231178A
報告書区分
総括
研究課題名
間葉性異形成胎盤の臨床的・分子遺伝学的診断法の開発を目指した基盤研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-077
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
副島 英伸(佐賀大学 医学部 分子生命科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 片渕 秀隆(熊本大学大学院医学薬学研究部産婦人科学 )
  • 大場 隆(熊本大学大学院医学薬学研究部産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉性異形成胎盤(placental mesenchymal dysplasia, PMD)は、原因不明の胎盤形態異常で、妊娠中の超音波断層法にて部分胞状奇胎や胎児共存奇胎と類似した嚢胞状変化を呈する。誤診されると無用の人工流産を招くこと、高率に妊娠高血圧症候群・早産・胎児発育不全(FGR)・胎児死亡(IUFD)を合併することが問題である。しかし、鑑別のための臨床診断基準や臨床的ケア・治療法は確立していない。本研究では、PMDの臨床診断基準を確立し、原因遺伝子の同定による病因・病態の解明および遺伝子診断の開発基盤を整え、臨床的ケア・治療法の開発を目指す。また、日本胎盤学会および日本産科婦人科学会の支援を受けて絨毛性疾患取り扱い規約に掲載されることを目指す。
研究方法
今年度は7例の新規症例を得、症例数は31例の臨床情報と22例の検体となった。このうち、解析可能なDNAを抽出できた症例について以下の解析を行った。
1. 臨床情報解析
31例の臨床情報から、PMD症例の臨床像を解析した。
2. 病理組織学的解析
p57KIP2の発現を免疫組織化学染色にて解析した。
3. エピゲノム解析
凍結組織4例を用いてHumanMethylation450 BeadChipによるメチル化解析を行った。妊娠週数が合致した5例の正常胎盤を加えることでより正確なデータを取得することを試みた。また、11p15に存在するインプリンティング制御領域KvDMR1のメチル化解析を行った。
4. 全ゲノムSNP解析
PMDでは11番染色体の父性片親性ダイソミー(patUPD11)が関連することがあるため、凍結組織計6例のDNAを用いてAffymetrix社SNPアレイ6.0で全ゲノムのSNP解析を行った。
5. エクソーム解析
「難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業」の一般研究班長崎大学吉浦教授との共同研究で、凍結組織5例についてエクソーム解析を行った。
結果と考察
1. 臨床情報解析
平均年齢は30.3±5.0歳、女児90%、早産83%、FGR30%、IUFD17%、出生時の低体重80%という現状が明らかとなった。
2. 病理組織学的解析
PMD症例では、細胞性栄養膜細胞にp57KIP2の発現が認められるものの、絨毛内間質や血管を構築する細胞では発現が消失していた。p57KIP2発現異常には複数のパターンがみられた。HE染色にて明らかにPMDと診断できる場合は、p57KIP2は上述のPMD型発現パターンを示した。HE染色でPMD所見が軽度である場合は、PMD型発現パターンと正常発現パターンが混在していた。さらに、HE染色で明らかにPMDと診断できるにもかかわらず、正常発現パターンをとる場合が認められた。HE所見あるいはp57KIP2発現が正常を呈する領域が混在することはPMDとしての病態が比較的軽いことと関連していることが示唆された。
3. エピゲノム解析
HumanMethylation450 BeadChipによるメチル化解析に、妊娠週数が合致した5例の正常胎盤を加えることにより、preliminaryながらメチル化異常を示す候補遺伝子(低メチル化3遺伝子、高メチル化7遺伝子)を見いだすことができた。また、KvDMR1のメチル化解析では、KvDMR1のほぼ完全な脱メチルを示す症例を初めて同定した。
4. 全ゲノムSNP解析
解析した6例のうち5例では、ゲノムワイド父性片親性ダイソミーを認めた。残る1例ではPMD部で全染色体に分布する部分父性片親性ダイソミー(少なくとも29領域)と8番染色体短腕部分トリソミーを認め、8番染色体短腕部分トリソミーは正常部でも認めた。
5. エクソーム解析
シークエンスデータは取得できたので、現在in silico解析中である。
結論
臨床的特徴として、女児に好発し、早産、FGRやIUFDの危険が高いことがわかった。病理組織学的には、胎盤におけるPMDの病変は肉眼的にも組織学的にも均質ではないことが判明した。HE所見あるいはp57KIP2発現正常を呈する領域が混在することはPMDとしての病態が比較的軽いことと関連していた。一方、エピゲノム解析では、preliminaryながらメチル化異常を示す候補遺伝子(低メチル化3遺伝子、高メチル化7遺伝子)を見いだすことができた。また、KvDMR1脱メチル化を示すPMD症例を初めて同定した。ゲノム解析では、各染色体に分布する部分片親性ダイソミーを同定した。現在進行中のエクソーム解析の結果をあわせることにより、PMD原因遺伝子同定の可能性が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231178Z