傍シルビウス裂症候群の病態に基づく疾患概念の確立と新しい治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201231176A
報告書区分
総括
研究課題名
傍シルビウス裂症候群の病態に基づく疾患概念の確立と新しい治療法の開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-075
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 光広(山形大学 医学部付属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 白石 秀明(北海道大学病院)
  • 遠山 潤(国立病院機構西新潟中央病院)
  • 小倉 加恵子(国立障害者リハビリションセンター研究所)
  • 荒井 洋(社会医療法人大道会森之宮病院)
  • 鳥巣 浩幸(九州大学病院)
  • 川村 孝(京都大学環境安全保健機構 健康科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々は2002年から脳形成障害に対する相談システムを構築し、画像解析と古典型滑脳症に対する遺伝子解析を行なってきた。その結果、古典型滑脳症の次に多い疾患がシルビウス裂周辺の多小脳回であることを明らかにし、新たな研究の必要性を感じた。多小脳回以外にも脳血管障害による構造異常や原因不明の機能異常によって構語障害や嚥下困難、知能障害、てんかん発作などの類似症状を示す疾患が複数報告されている。我々は昨年度の研究事業で、傍シルビウス裂症候群として総括し、1)先天性もしくは後天性両側性傍シルビウス裂症候群、2)先天性核上性球麻痺、3)非定型良性小児部分てんかん、4)悪性ローランド・シルビウスてんかんの4疾患に整理し、難病の疫学調査班と共同で診断基準を作成した。患者数調査のために、層化無作為抽出と特別階層病院として選ばれた3947機関に対し一次調査を行なった。その一方、多小脳回の責任遺伝子として複数の遺伝子が報告され、前年度に既知遺伝子変異解析のための高感度融解曲線分析(HRM)法を整備した。今後、原因遺伝子と臨床情報の比較による疾患概念の確立と、分子レベルでの病態解明が必要である。また、適切な薬剤選択もしくは脳磁図を用いたてんかん発作焦点の正確な同定と手術によって一部は治癒可能であることが示された。滑脳症では我々と慶應義塾大学との共同研究でiPS細胞の樹立と神経系細胞への分化に成功し、傍シルビウス裂症候群においても画像診断とゲノム医学、iPS細胞など先端技術を応用した病態解明、診断・治療法の確立が急務である。
研究方法
 本研究では疫学調査の結果を基に、画像や脳波、脳磁図の資料収集とDNAの試料収集を行い、既知遺伝子の解析後に次世代シークエンサーを用いた遺伝学的原因解析をさらに進めて、新規原因遺伝子を同定し、原因遺伝子同定例ではiPS細胞作成と神経系細胞への分化誘導を行い、病態に基づく疾患概念の確立と遺伝子診断の普及を行い、新しい治療法の開発に向けた基盤整備を行う。
 平成24年度は、前年度に行った疫学調査の二次調査結果の詳細な解析(臨床症状 認知・高次脳機能:小倉、運動機能:荒井、てんかん発作:白石・遠山・大坪、統計管理:川村)を行なう。既存の脳形成障害およびてんかん性脳症の体制を拡充して、症例登録・データ管理の体制を整備し、MRIやSPECT, PETなどの画像検査と、脳波、脳磁図などの電気生理検査の資料収集を依頼する(加藤:現有83例 目標150例)。血液などの生体試料から得られたDNAを収集する。先行研究で確立した費用対効果に優れる高解像度融解曲線分析(HRM)法で既知遺伝子(GPR56, SRPX2, SNAP29, EOMES, TUBA8, TUBB2B, TUBB3)の変異スクリーニングを行なう。変異同定例には必要な遺伝相談を行う。臨床情報、画像病変の範囲と性状、脳波・脳磁図所見と遺伝子変異との関連性について有機的に解析を行なう。
結果と考察
 平成24年度は、層化無作為抽出と特別階層病院として選ばれた3947機関に対する疫学調査の一次調査結果の解析が終了し、4疾患合計の国内の推計患者数は確診例が496(95%信頼区間202-792)名、疑診例が167(95%信頼区間85-248)名であり、各疾患毎の推計患者数を明らかにした。2次調査および3次調査としての症例登録・データ管理の体制整備については、既に101例の臨床情報資料が集積され、てんかん焦点の診断に脳磁図が有用であることが示された。非定型良性小児部分てんかんの治療法としてエトスクシミドの有効性が示されつつある。
 原因遺伝子解析のために70検体を収集した。37検体について高解像度融解曲線分析(HRM)法で7個の既知遺伝子の変異スクリーニングを行ない、常染色体劣性遺伝形式のGPR56変異例を同定し、遺伝相談に寄与した。大頭症を伴う多小脳回3家系については、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析を行い、2家系でAKT3とPIK3R2に変異を同定し、原因遺伝子を明らかにすることができた。
結論
 国内における傍シルビウス裂症候群4疾患の推計患者数は36-210名とまれである。傍シルビウス裂症候群の多くは臨床検査では原因不明だが、国内でも遺伝素因が認められ、適切な遺伝カウンセリングが必要である。てんかん主体の傍シルビウス裂症候群の診断には脳磁図が有用であり、非定型良性小児部分てんかんの治療にはエトスクシミドが有効である可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231176Z