先天性大脳白質形成不全症の診断と治療を目指した研究

文献情報

文献番号
201231173A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性大脳白質形成不全症の診断と治療を目指した研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-072
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井上 健(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター神経内科)
  • 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター遺伝科)
  • 高梨潤一(亀田総合病院 小児神経科)
  • 山本俊至(東京女子医科大学統合医科学研究所)
  • 出口貴美子(慶應義塾大学解剖学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性大脳白質形成不全症は、遺伝性の中枢神経系髄鞘の形成不全を本態とする重篤かつ稀な神経疾患の一群である。代表的疾患のPelizaeus-Merzbacher病(PMD)以外にPelizaeus-Merzbacher-like病、基底核および小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症、18q欠失症候群、Allan-Herndon-Dudleys症候群、Hsp60シャペロン病、Salla病、小脳萎縮と脳梁低形成を伴うび漫性大脳白質形成不全症、先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症、失調、歯牙低形成を伴う髄鞘形成不全症、脱髄型ニューロパチー・中枢性髄鞘形成不全症.・ワーデンバーグ症候群・ヒルシュスプルング病をあわせた11疾患が本疾患群に含まれる。このうち10疾患で原因遺伝子が同定されているが、詳細な分子病態はほとんど明らかになっていない。遺伝子解析で診断のつかない症例は3割ほどあり、未同定の疾患原因遺伝子が存在すると考えられる。対症療法以外の治療法はない。本研究は、これらの疾患の臨床や研究に関わってきた臨床医と研究者を取りまとめ、臨床・基礎研究一体型の研究組織を構築し、先天性大脳白質形成不全症の患者の身近なサポートから診断、治療に関する研究までを一体的に推進することを目的とする。
研究方法
臨床研究面では、患者に寄添った実態把握と診断および治療の推進のため、1)患者家族間ネットワーク構築のためのアウトリーチ活動、2)疾患分類・診断基準と治療指針の学会承認と周知、3)MRI画像データベースシステムの確立と公開、4)遺伝子診断と遺伝子カウンセリングの整備推進を、基盤研究面では、基盤整備と基礎研究の推進のため、1)リンパ芽球および皮膚線維芽細胞など生体試料の登録・保存、2)新規疾患遺伝子の同定に向けた遺伝子解析研究の推進、3)動物や細胞などを用いた病態解明研究の推進、4)モデル動物や細胞を用いた治療薬の基礎開発研究を行った。
結果と考察
臨床研究面では、アウトリーチ活動として第5回市民公開セミナーを開催し、27家族78名が参加した。疾患分類・診断基準等に関する情報発信として、H24年5月に行われた日本小児神経学会総会において、先天性大脳白質形成不全症に関するシンポジウムを開催した。MRI画像データベースシステムの確立と公開のため、国立精神・神経医療研究センターで確立した統合的画像データプラットフォームIBISSを利用し、37例の本疾患のMRI画像と臨床情報を収集した。遺伝子診断と遺伝子カウンセリングの整備推進として、1年間に班全体で16例(保因者診断を含む)を実施した。基盤研究面では、横浜市大松本教授らとの共同研究により、エクソーム解析による新規遺伝子の検索を実施している。PMD患者の皮膚線維芽細胞から樹立されたiPS細胞を用いた遺伝子発現解析が行われ、成果の一部が論文として報告された。細胞を用いた解析でPMDの新規小胞体ストレス病態を見出した。また、PLP1点変異に対する治療薬候補として、クロロキンを同定し、その細胞分子機序を明らかにした。
結論
本研究は、先天性大脳白質形成不全症の診断と治療に大きな進歩をもたらすことを目的とする。一稀少疾患に焦点を当て、診断あるいは疫学といった臨床の基盤的な研究、遺伝子診断などの応用医療、そして治療法開発に向けた基礎研究といった幅広い領域についての縦断的な研究を継続的に行なっている。本研究で得られた成果は、次に挙げるような重要な意義を持つと考える。短期的には、非常に稀少な疾患であり、また生化学的検査による診断法がない本疾患は、これまで臨床現場での認知度が低く、患者家族が得られる情報も極めて限られていた。しかし、前研究班で実施した疫学調査や疾患分類と診断基準の作成と公表により、医療情報が充実し、臨床現場での認知度も上がってきた。この流れを継続し、さらに市民公開セミナーや家族会のサポート、ウェブサイトでの情報発信による患者家族に寄添う形での様々な医療情報ネットワークの確立、そして遺伝子診断や画像診断と連動した疾患分類や診断基準の確立による本疾患の更なる認知度の向上と医療、福祉の向上が期待される。本疾患について克服すべき長期的課題は、3割を占める遺伝子解析にて診断つかない症例に関する新規の疾患遺伝子を同定すること、治療法開発への足がかりとなる分子病態を解明すること、そして基礎研究による知見に裏打ちされた新規治療法を確立することである。本研究では、次世代型シーケンシングによる新規疾患遺伝子探索、iPS細胞やモデル動物を用いた病態解析、そして臨床応用を目指した治療法の発見などの医療面での本疾患の根本的な克服への進歩が期待される。前二者については5年以内の克服、後者については、5~10年で実用化を目指す。

公開日・更新日

公開日
2013-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231173Z