リンパ浮腫治療へのbreakthroughを目指して II

文献情報

文献番号
201231163A
報告書区分
総括
研究課題名
リンパ浮腫治療へのbreakthroughを目指して II
課題番号
H24-難治等(難)-一般-062
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福田 尚司(国立国際医療研究センター 心臓血管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 浜崎辰夫(国立国際医療研究センター研究所)
  • 記村貴之(国立国際医療研究センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リンパ浮腫は100年以上におよぶ治療法開発の経緯があるが、現在に至ってさえも有効な治療法がない。
原発性リンパ浮腫の原因は未解明で、その患者は5千人と推定されている。一方、癌外科の進歩に伴い、癌手術症例数は増加してきている。このため、癌術後患者におけるリンパ浮腫が増加している。
治療法は弾性ストッキングの着用や、リンパドレナージのためのマッサージ、リンパ管-細静脈吻合術が行われるが、いまだ根治的に有効な治療法は確立されていない。
症例報告ではリンパ浮腫にCilostazolが効果的であったという報告が見られ、同薬剤のPDE3(Phosphodiesterase-3)阻害作用による内皮細胞活性化効果が期待される。当科でも、同薬剤が2次性リンパ浮腫患者の症状緩和に、効果を示す症例を経験した。これは、同薬剤の持つ、抗血小板作用ばかりではなく、PDE3阻害作用による、内皮細胞活性化効果の影響と推測できる。リンパ浮腫が改善する機序について、分子レベルで明らかにすることが可能であれば、臨床的に、より効率的で有用なリンパ浮腫の治療法の確立が可能になる。
今研究では、原発性および2次性リンパ浮腫患者を対象に、Cilostazolを投与し、その効果を検討する。また、細胞および動物実験において、その作用機序を明らかにする。
研究方法
【臨床研究】
22年度からの先行研究において、完全寛解群以外の患者の中で、アスピリン治療群の患者は内服薬をアスピリンからCilostazolに変更し、マッサージ器を6ヶ月間使用する。Cilostazol治療群の患者は、Cilostazolの内服に加え6ヶ月間のマッサージ器使用を追加する。治療後6カ月で単純CTを施行し、両下腿(上腿)皮下面積(腓骨あるいは尺骨中枢端から20cm遠位側の部位)を評価する。
【基礎研究】
以下についてCilostazolの効果を検討する。
リンパ管内細胞の増殖能および遊走能、トランスジェニックリンパ浮腫マウスの生存率、同マウス組織の免疫染色および電子顕微鏡所見、同マウスのリンパ管輸送能、リンパ浮腫モデルマウスの浮腫改善度および組織所見。
結果と考察
【臨床研究の結果】
2012年度末、患者登録数14名に対し6名のデータ追跡が完了している。
研究期間を完遂した6名の患者の患者は全て女性で平均年齢は73.3歳、リンパ浮腫の平均罹患期間は6.2年、リンパ浮腫の原因は5名が先行する癌に対する手術で、1名が関節置換術であった。また、4名が片側肢リンパ浮腫で、2名が両側肢であった。片側肢リンパ浮腫患者4名中、2名に著明な改善を認めた。
【基礎研究の結果】
ヒトリンパ管内皮細胞の増殖能について、Cilostazolによる有意な増殖促進効果が確認された。同細胞の遊走能がCilostazolの存在下で促進されることが示された。本研究においてはPKA阻害薬を添加することでCilostazolの増殖促進効果は部分的に阻害される傾向がみられた。
トランスジェニックリンパ浮腫マウスでは全身のリンパ管の障害のためリンパ浮腫および胸水貯留により短命となることが知られている。Cilostazol投与群において生存率の改善傾向がみられた。このマウスにCilostazolを投与して免疫染色を行ったところリンパ管の増加がみられ、電子顕微鏡ではリンパ管内皮細胞の異常が減少するのが観察された。またリンパ管輸送が改善されたことも示された。
野生型マウスの尾のリンパ浮腫モデルを用いた。Cilostazol投与群のマウスでは尾の腫脹が軽度であった。また尾の皮膚においてはリンパ管の拡張が軽減されている像が観察され、リンパ浮腫が改善していることが示唆された。
結論
治療抵抗性リンパ浮腫患者に対し、Cilostazolの内服および波動式電動マッサージ器を6カ月間利用する強化リンパ浮腫療法の有効性は33.3%(6名中2名)の患者において認められた。これは、リンパ浮腫治療へのbreakthroughを示唆するものと考えられる。
基礎研究部分においては、ヒトリンパ管内皮の培養細胞を用いたin vivoの実験系で、Cilostazolは細胞の増殖を促進するとともに遊走を促進する効果がみられた。また、リンパ流障害を有するトランスジェニックマウスを用いたin vivoの系において、Cilostazolは生存率をわずかに改善し、リンパ管の増加とリンパ管機能の改善がみられた。さらに尾のリンパ浮腫モデルマウスにおいて、Cilostazolは浮腫を軽減する傾向が認められた。
これらの結果より、Cilostazolはリンパ管障害の条件下でリンパ管新生を促進することでリンパ管輸送を改善することが示唆され、リンパ浮腫の有効な治療薬の選択肢となりうると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231163Z