メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明

文献情報

文献番号
201231162A
報告書区分
総括
研究課題名
メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明
課題番号
H24-難治等(難)-一般-061
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
升野 光雄(川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤 健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 松井 潔(神奈川県立こども医療センター 総合診療科)
  • 大山 牧子(神奈川県立こども医療センター 新生児科 )
  • 相田 典子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
  • 二宮 伸介(倉敷中央病院 遺伝診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メビウス症候群は、先天性顔面神経麻痺、外転神経麻痺、四肢異常を特徴とし、多くは孤発例であるが、30家系ほどの家族例の報告がある。他の脳神経麻痺を伴う例もあり、類縁疾患も含めた日本の実態は明らかではない。本研究の目的は、1)メビウス症候群の診断基準を作成し、関連学会の承認を得る。2)健康管理指針の基になる正確な自然歴を明らかにする。3)中枢神経画像と臨床像との関連を明らかにする。4)原因解明のためゲノム解析による責任遺伝子同定をめざす。5)患者の生体試料を収集(ゲノムDNA・細胞株の樹立)・保存し、将来の治療開発への基盤を整備することである。
研究方法
1)診断基準の改訂
メビウス症候群の類縁疾患も含めた全国二次調査(過去5年間)と小児専門病院(過去24年間)における典型例の臨床像と医療管理の調査をもとに昨年度本研究班で作成したメビウス症候群の診断基準について日本小児遺伝学会の承認を得るために、診断基準に更に文献的考察を加えて改訂した。
2)自然歴の把握
正確な自然歴を明らかにするために、昨年度の全国二次調査症例を対象に周産期歴と発達歴を収集した。さらに改訂した診断基準に基づき昨年度の全国二次調査症例を詳細に見直し、再集計を行った。
3)中枢神経MRI画像所見の検討
本研究班の全国二次調査で、典型例12例と不全例3例の中枢画像解析に患者家族の同意が得られ、提供されたMRIの所見を、脳幹形態と第6・第7神経の異常について検討した。
4)責任遺伝子同定に向けた戦略
メビウス症候群責任遺伝子は、脳幹形成および中枢神経系形成に関わる細胞骨格形成因子や転写因子であると仮説を立て、次世代シークエンサーによる候補遺伝子解析のシステムを整備した。候補遺伝子の選択には、国立遺伝学研究所が開設しているGenome Network Platformに属するPPI Networkから関連する遺伝子をさらに絞り込む手法とした。解析方法として、PCRベースでのカスタムアンプリコン(HaloPlex)によるターゲットエンリッチメントを行った。
結果と考察
1)診断基準の改訂
診断基準の記載の診断のポイントに先天性外転神経麻痺と眼球運動失行との鑑別を追加した。さらに鑑別診断としてpontine tegmental cap dysplasiaを追加した。日本小児遺伝学会へ改訂したメビウス症候群の診断基準の承認を申請した。
2)自然歴の把握
メビウス症候群の典型例13例と不全例5例の周産期歴と発達歴を明らかにした。NICU入院例では退院時に過半数が在宅医療を要していた。粗大運動発達と知的発達は正常から重度障害までみられた。少数例を除き、成長障害は認めなかった。
先天性外転神経麻痺を伴わず、四肢異常の頻度が低い不全例7例では、典型例20例と比べて、患児出生時の父平均年齢が高く、四肢異常として片側の内反尖足を1例に認めるのみで、遺伝的要因を含めて病因的に異質な疾患の可能性が示唆された。典型例ではCT施行例の6割に脳幹石灰化を認め、これらの症例では病因として胎生期の血流障害が示唆された。
3)在宅医療管理支援のためのツール作成
気管切開が必要な病態生理、気管切開の目的、気管切開術後のケアについて、家族が理解できるようなパワーポイントによる説明ファイルを作成した。気管切開カニューレ交換の実際は、人形による動画を挿入した。本研究班のホームページにクイックタイムプレイヤー形式で閲覧可能とした。
4)中枢神経MRI画像所見の特徴
第6・第7脳神経をthin sliceで評価できた13例(典型例10例、不全例3例)全例で異常が認められ、第7脳神経の片側または両側の低形成/無形成が全例で、第6脳神経の異常は9例で認められた。このうち不全例3例では第6脳神経の異常は明らかではなかった。
5)責任遺伝子同定に向けた戦略
メビウス症候群類縁疾患で変異が確認されているHOXA1やHOXB1遺伝子などを含めた51候補遺伝子とメビウス症候群に時に伴う自閉症・発達遅滞の関連遺伝子を含めた総数138遺伝子を次世代シークエンサーにより網羅的に解析するシステムを整備した。
結論
1)本研究班による診断基準を改訂し、日本小児遺伝学会へ承認を申請した。
2)改訂診断基準に基づき、周産期歴・発達歴も含めた典型例と不全例の自然歴を明らかにした。
3)気管切開について、家族が理解できるように動画を含めた説明ファイルを作成し、本研究班のホームページから閲覧可能とした。
4)新生児科・小児科受診例では、第6・第7脳神経の低形成/無形成が高頻度で、特に第7脳神経異常はほぼ全例で認められることが示唆された。
5)責任遺伝子同定のためのゲノム解析システムを整備した。病因解明のためゲノム解析を継続する。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231162Z