肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究

文献情報

文献番号
201231158A
報告書区分
総括
研究課題名
肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-057
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
植田 初江(独立行政法人国立循環器病研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 広己(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター循環器科)
  • 佐藤 徹(杏林大学医学部 循環器内科)
  • 羽賀 博典(京都大学医学部附属病院 病理診断部)
  • 田邉 信宏(千葉大学大学院医学系研究院 呼吸器内科学)
  • 平野 賢一(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学)
  • 坂尾 誠一郎(千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科)
  • 岡 輝明(公立学校共済組合関東中央病院 病理科)
  • 高木 弥栄美(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 木曽 啓祐(国立循環器病研究センター 放射線部)
  • 岸 拓弥(九州大学大学院医学研究院 先端心血管治療学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,580,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺静脈閉塞症(PVOD)は病態として肺高血圧症を呈し、難治性で肺移植のみが根治的治療である稀な難病である。臨床症状は肺動脈性肺高血圧症(PAH)に類似するが、PVODは肺内の静脈閉塞が病変の首座であり、現行のPAHの治療に抵抗性である。通常の診療でのPVODの臨床診断は極めて困難であり、潜在する患者数は不明である。本研究班は全国のPVOD症例を集積・検討し、病理病態を解明することで、臨床診断法の確立と有効な治療方針の構築を目的としている。また、膠原病合併肺高血圧症の中からPVOD類似症例を発掘し、さらに肺移植以外の有効治療の検討も行う。PVODにおける肺移植の必須症例と内科治療可能症例を鑑別できるよう治療選択のための指針を発表し、全国の医療機関に周知させることで、早期診断治療につながるものと期待される。
研究方法
1.肺移植、剖検、生検により病理でのPVOD確定診断を得た症例について、生存例では患者同意を取得後、臨床データ(肺動脈楔入圧、胸部CT像、%DLCO、動脈血ガス分析データ、肺血流シンチグラフィー画像所見等)をデータベースに登録し、これらを特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)と比較、解析した。肺静脈病変やPVOD肺移植例の摘出肺についても検討を行い、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)からのPVOD病態の考察も行った。
2.膠原病合併肺高血圧症例の調査
22年-23年度施行した全国216主幹施設への「膠原病合併肺高血圧症について」の回答と、本年度の当研究班からのアンケートの回答を加えて、膠原病合併肺高血圧症の中からのPVOD類似症例の存在について検討した。
3.肺移植以外の有効治療の探索
PVOD症例に抗腫瘍剤ソラフェニブを投与し、有効性を検討した。
結果と考察
1. PVOD症例の臨床データ収集と解析
1)2012年12月までの期間に、肺移植・剖検から病理学的にPVODと確定診断した18症例をPVODデータベースに登録し、IPAH剖検例のデータと比較した。%DLCO, PaO2がPVODとIPAHで有意差を持って異なっていることが示唆された。また肺静脈病変について、単位面積あたりの閉塞数を求め、閉塞の定量を行い、約60%の区域間静脈の閉塞を認めた。
2)PVOD肺移植例からの摘出肺を病理学的に解析した。肺静脈の閉塞に加え、肺動脈にもHeath-Edwards 3度までの狭窄性病変を認めた。京都大学では肺移植の4.7%がPVOD例であった。
3) 岡山医療センターでは2012年12月までの期間に、PVOD症例(疑い例を含む)5例の診療を行い、うち1例が肺移植となった。過去に診療を行ったPVOD症例の臨床データと治療成績等の結果を解析し論文を発表した。(Ogawa A, Matsubara H, et al. Circ J. 2012;76)
4) CTEPHの肺動脈内膜平滑筋培養(PA-SMC)において、PA-SMCでは細胞増殖能、遊走能が低下していた。CTEPH患者肺末梢組織を手術時に摘出した組織から、肺動脈のリモデリングを確認した。また、CTEPH例においても肺静脈肥厚が起こっていることを認めた。
2.これまで得られたアンケート調査結果から、膠原病合併肺高血圧症の約10%で%DLCO 55%以下の低値を認め、これらはPVOD類似症例と考えられる。死亡例は報告例の8.6%であった。%DLCO低下、PaO2低値、胸部CT像などの臨床データからは、強皮症(SSC)が最もPVODに類似している結果を得た。一方、全身性エリテマトーデス(SLE)合併肺高血圧症では肺静脈閉塞と類似する項目はなかった。
3. 肺移植以外の有効治療の探索と検討
 イマチニブ以外にも抗腫瘍剤ソラフェニブをPVODの症例に投与し、血行動態やNYHA心機能などの改善を認め発表した。(Kataoka M, Satoh T, et al. Cardiology. 2012;123)
 
PVODとIPAHとの臨床データを比較した結果から、PaO2、PH、%DLCO、SaO2がIPAHと有意差を持って低値であり、PVODの診断基準として有用である。膠原病合併肺高血圧症において、臨床診断項目がSSCでPVODに最も近い値を来したが、SSC肺は間質の線維化が主体であり、かつ、心筋病変の合併が多いことから、今後はSSC以外の膠原病合併肺動脈性肺高血圧症の剖検肺から、どの程度の割合の肺静脈閉塞が起こっているかを検証する必要がある。
結論
1.PaO2、PH、%DLCO、SaO2、胸部CTがPVODの臨床診断に有用である。
2.膠原病合併肺動脈性肺高血圧症の中の約10%が肺静脈閉塞(PVO)を合併していると考えられ、特に難治性PVOの存在が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231158Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,930,000円
(2)補助金確定額
6,930,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,395,106円
人件費・謝金 271,000円
旅費 343,550円
その他 570,402円
間接経費 1,350,000円
合計 6,930,058円

備考

備考
支出に利息分が含まれているため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-