診断未定多発奇形・発達遅滞の実態把握と病因・病態の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201231157A
報告書区分
総括
研究課題名
診断未定多発奇形・発達遅滞の実態把握と病因・病態の解明に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-056
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
研究分担者(所属機関)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター)
  • 小崎 里華(国立成育医療研究センター第1専門診療部 遺伝診療科)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター遺伝科)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター遺伝診療科)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院)
  • 山本 俊至(東京女子医科大学統合医科学研究所)
  • 川上 紀明(国家公務員共済組合連合会名城病院整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天異常は一般集団の3-5%に認められ、その原因解明と治療法の開発は医療における重要な課題である。難治性疾患克服研究事業奨励研究分野の67%が遺伝性疾患(福嶋、2011)でその多くが先天異常に分類される。また、我が国における乳児死亡原因の第1位は、先天異常・変形・染色体異常で35.7%を占める(国民衛生の動向2010)。小児の難病症例が集中する小児病院において遺伝的要因・先天異常例は全入院の54%を占める(Soneda, Kurosawa、2012)。診断技術の向上や医療の発展によっても先天異常の比率は変わらない。特に診断未定の多発奇形・発達遅滞症例MCA/MR(multiple congenital anomalies/mental retardation)、あるいは、MCA/DD・ID(developmental delay・intellectual disability)は研究としても医療施策としても対象とされることがほとんどなかった。しかし、総体としての頻度は極めて高く、生涯にわたる医療負担は勿論、家族の負担も極めて大きい。この研究の目的は、こうした診断未定の多発奇形・発達遅滞の診断法の確立と原因を解明し、病態を把握し、発生頻度の推定評価を行うことである。当研究班は先天異常・多発奇形・精神遅滞症例の診断・医療管理・患者サポートの専門家から構成した。
研究方法
1)診断未定多発奇形・発達遅滞の医療実態の把握・自然歴
多発奇形・発達遅滞の診断と医療管理は専門知識が不可欠であり、症例の集中がある小児病院に解析を進めた。
2)診断未定多発奇形・発達遅滞例の発生頻度の推定
神奈川県は先天異常モニタリングの26年にわたるデータを基本とした発生頻度の推定が可能であり、発生頻度推定として遺伝外来受診傾向と合わせて解析を行った。
3)診断未定多発奇形・発達遅滞例の診断アルゴリズムの確立
臨床症状の正確な把握から種々の遺伝学的検査の組み合わせによる診断方法は、極めて専門的知識と経験が必要である。診断アルゴリズムを経験と海外の状況を視野に入れて検討した。
3)マイクロアレイ染色体検査の診断ガイドライン作成
マイクロアレイ染色体検査は、診断未定多発奇形・発達遅滞の診断において極めて有用となることが予想されるが、その情報量ゆえに診断医療として用いるには細心の注意が必要である。海外の実践ガイドラインを参考にしつつ我が国においても実践可能で臨床レベルで有用なマイクロアレイ染色体検査ガイドラインを検討した。
4)診断未定多発奇形・発達遅滞例の生体試料保管
診断確定と生体試料保存を並行して進めた。
結果と考察
 MCA/DD・IDは遺伝的異質性が極めて高く、結果として全ゲノムを対象とするマイクロアレイ染色体検査での解析が診断検査として最も有用であった。マイクロアレイ染色体検査適応症例(需要)、つまりMCA/DD・IDは少なくとも500出生に1例と考えられ、遺伝外来受診集団を手掛かりとした場合、2つの小児病院での推定はほぼ一致したものであった。マイクロアレイ染色体検査を実際に診断として用いた場合の陽性検出率も、施設やプラットフォームが異なりながらも、海外報告および国内施設での実施結果がほぼ一致(10-15%)したことは、臨床検査としての普遍性を証明した。病態の把握では、実施施設から報告された各症例はゲノムベースで疾患の成り立ちが検討可能となった。診断のみならず病態の把握の点でもマイクロアレイ染色体検査は極めて有用であることが判明した。さらに、これまでメンデル遺伝病と考えられていた複数の疾患の病因解明の手掛かりとなる情報もえることができた。マイクロアレイ染色体検査は我が国においても早急に臨床検査として導入すべき遺伝学的検査であることを確認した。原因が依然として明らかとなっていない約9割におよぶ症例集団への対応、生体試料を用いた分子レベルでの病態解明などが今後の課題となる。
結論
診断や原因が明らかにされていない、しかも遺伝的異質性が極めて高く、その医療負担が決して少なくない診断未定の多発奇形・発達遅滞の臨床検査としてマイクロアレイ染色体検査は早期に導入すべきである

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231157Z