中枢・末梢連合脱髄症の診断基準作成と臨床疫学調査の実施による治療指針の確立

文献情報

文献番号
201231156A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢・末梢連合脱髄症の診断基準作成と臨床疫学調査の実施による治療指針の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-055
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 錫村 明生(名古屋大学環境医学研究所神経免疫学)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科学)
  • 飛松 省三(九州大学大学院医学研究院臨床神経生理学分野)
  • 河村 信利(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
  • 松瀬 大(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢・末梢連合脱髄症(CCPD)は,原因不明の希少な難治性疾患である.本症は,脱髄性疾患の中でも中枢神経と末梢神経を同時に侵すのが大きな特徴であるが,我が国では調査されたことがない.世界的にみても診断基準は存在せず,大規模な臨床疫学調査が実施されていない.大量ステロイド療法が無効で血漿交換が著効した症例を認めることから,中枢神経と末梢神経に共通して存在する分子に対する自己抗体等の液性因子の 関与が示唆されているが,原因は全く不明である.私たちは,最近,多数の脱髄性疾患患者血清の自己抗体探索により,中枢神経と末梢神経と同時に脱髄をきたした患者でのみ,中枢・末梢神経に共通して存在するneurofascinに対する抗体価が極めて高いことを発見した.このような高力価の抗neurofascin抗体は,多数例の多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎,ギランバレー症候群(GBS),慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーCIDP,その他の神経疾患,健常対照ではみられず,CCPDに特異的な自己抗体と考えられた.そこで,本研究ではCCPD症例で血清抗neurofascin抗体を測定し,その有用性を確認するとともに,CCPDの臨床症状,血液・髄液検査所見,画像・生理学的検査所見,治療,予後の実態を明らかにするため,CCPDの暫定的な診断基準を作成して,全国臨床調査を実施した.
研究方法
1) CCPD診断における抗neurofascin抗体の有用性の検討
炎症性脱髄性疾患における抗neurofascin抗体の陽性率を,HEK293細胞にヒトリコンビナントneruofascin 155蛋白を強制発現させたcell-based assayおよびラットリコンビナントneurofascin蛋白を用いたELISAで確認した.
2) CCPD全国臨床調査
暫定的な診断基準を定め,平成19年1月1日から平成23年3月31日の期間に,神経内科専門医および小児神経内科医が在籍する1332施設に一次調査票を送付した.回答率は 50.3% (672/1332)で,施設 41施設において,55症例が確認された.症例を有する施設に,詳細な情報を得るためのアンケート用紙を送付したところ,38施設 (92.7%)から返信があり,結果,52症例 (94.5%)の臨床情報を得た.その後,神経伝導速度検査の適格基準を満たさない14例を除外し,最終的に38症例で検討した.
結果と考察
結果としては、CCPD基準を満たす7例でにおける抗neurofascin抗体を測定したところ,cell-based assayでは71%(5/7),ELISAでは86% (6/7)が陽性であった.また全国臨床調査では,発症時の平均年齢は32.3±14.2歳で,男女比は1:2.8であった.初発症状は中枢神経症状,末梢神経症状,同時または連続発症は,それぞれ34%(13/38),45%(17/38),21%(8/38)であった.経過は,単相性26% (10/38),再発性47% (18/38),慢性進行性21% (8/38),不明5% (2/38)であった.臨床症状については何らかの筋力低下,感覚障害が約90%で確認され,視力低下を45% (17/38)に認めた.その他,病的反射は47% (18/38),膀胱直腸障害は44% (16/36),視神経以外の脳神経症状は41% (15/37),小脳失調は22% (8/36),呼吸障害は9.2% (3/38)に認めた.髄液蛋白は71 % (27/38)で上昇していた一方で,オリゴクロナールバンドの陽性率は7.7%(2/26),IgG index高値は15% (4/26)にとどまった.MRI上,大脳病変は71% (27/38),脊髄病変は74% (28/38)に認めた.治療はステロイドおよび,大量免疫グロブリン療法を中心に行われ,限定的であるが効果を認めた.症例数は限られているが,血漿交換も有効率は88% (7/8)と高かった.これらの結果では,若年女性に好発する,視神経炎が好発部位であるなどの点はMSと類似していた.一方で,OCBやIgG indexの陽性率は低く,またインターフェロンβの再発予防効果は11%(1/9)と低く,増悪例が2例確認された点等はCCPDがMSと異なる特徴であった.視神経障害が45%にみられたが, LESCLが10 % (3/28)に留まることからNMOとは異なる病態生理と推察する.
結論
 抗neurofascin抗体はCCPDの有用な診断ツールになりうる.CCPDの全国調査を行い,現在までに38例の症例を確認した.引き続きデータの解析や,抗体の測定を行っていく予定である.

公開日・更新日

公開日
2013-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231156Z