遺伝性脳小血管病およびその類縁疾患の診断基準の確立と治療法の研究

文献情報

文献番号
201231148A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性脳小血管病およびその類縁疾患の診断基準の確立と治療法の研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-047
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(新潟大学 脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 水野 敏樹(京都府立医科大学 神経内科学)
  • 吉田 邦広(信州大学 医学部 神経難病学講座・神経内科学)
  • 豊島 靖子(新潟大学 脳研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年,脳小血管に首座をもつ病態が高頻度で指摘されるようになった(leukoaraiosis:LA).LAは認知症,脳梗塞,出血性脳梗塞の発症に関わる.しかし病態機序は不明であり,有効な治療方法も確立されていない.さらに抗血小板薬の使用による脳出血が危惧されているが,抗血小板剤使用の是非も明らかではない.本病態の中に,家族性に LA を起こす遺伝性脳小血管病がある.本症には,常染色体性優生遺伝形式をとるCerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CADASIL) や,劣性遺伝形式をとるCerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CARASIL) 等がある.申請者は難治性疾患克服研究事業症例研究分野で両疾患の全国調査を行った.その結果,本邦ではCADASILが100家系以上,CARASILが6家系あることを明らかにした.さらに,CARASILのヘテロ接合体で脳小血管病を起こす症例を4症例見いだした.一方,両疾患が陰性である,家族性脳小血管病や類縁疾患が存在することも明らかとなった.中でも,病理学的にspheroidを伴う若年性認知症(HDLS)に注目している.本疾患はCARASIL,CADASILにとの鑑別が必要となる.本年,本疾患の遺伝子が単離された.本邦でも類似例を集積し,今までに剖検例2例,疑い例5例にて遺伝子変異を見いだした.本申請では,これらの知見をもとに,若年性の脳小血管障害を疑った場合に,常に,有用な情報を与え続け,診断について提案を続けるコアステーションを形成することにある.
研究方法
本邦におけるCARASIL,CADASILの現在行われている薬物治療などの実態調査と生体資料収集を行う.遺伝性脳血管障害班で作製した診断基準について,学会承認をえて,英文での公表を行う.また脳小血管病を疑う症例を広く集め,遺伝子診断を進め,診断基準の感度,特異度を前向きに検討する.さらに症例追跡研究のため,同一のプロトコールを各施設に依頼し,前向き自然史研究の基盤を確立する.本年はCARASILに関してMRI画像を集積した.来年度はHTRA1変異ヘテロ接合者の臨床像を集積し,その病態機序について明らかとする事を目標とする.
病理診断で確定しているsheroidを伴う若年性認知症の臨床,病理学的特徴を検討する.同様の疾患がないか,類縁疾患の経験がないか,全国の長期療養型施設を中心とした調査を行い症例の掘り起こしを進める.本疾患は原因不明のてんかんを伴う若年性認知症としてフォローされている可能性があるが,画像所見が比較的特徴的であり,特徴的な画像所見を提示することで,類縁疾患の掘り起こしが可能となる.すでに病理標本の集積を開始しHDLSの4例を集めた.来年度も引き続き集積に努める.得られた症例の情報を元に診断基準を作製し日本神経学会での承認を得る.
結果と考察
難治性神経疾患の症例の集積,追跡は多年にわたる地道な集積とシステムの構築が必須である.本研究により,全国の脳外科医,神経内科医に,若年性の脳小血管障害を疑った場合の遺伝子診断を提供している.さらに,いままで未解明であったspheroidを伴う若年性認知症の臨床症状を明確にしている.加えてCARASIL,CADASILの臨床的多様性を見いだした.今後,本研究班の知見により,さらに非典型例の症例の蓄積が推進すると考えられる.これらの研究は,遺伝性のみならず,孤発性の脳小血管病の解明にも寄与する.
結論
当初計画ではCARASIL, CADASILの臨床像,Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids (HDLS)の実態を明らかにする事であった.これらについて,初年度の目標は十分に達成した.本研究により,遺伝性脳小血管病(SVD),および,原因不明の若年性認知症の一群が認識され,その疾患概念が確立されれば,診断,有効な治療方法の開発に向けた提言が可能となる.これは希少疾患の克服に向けた,厚生行政の目的と合致し,臨床の現場にて正確な診断と病態の把握の面から活用される.さらに,本研究班で収集した生体資料は,横断的研究班との連携により,新規原因遺伝子の同定に向けた有力なリソースとなる.本研究の間接的な成果としては,本症の病態解明により,より多くの患者さんのいる孤発性SVDに対する新たな治療方法の提案が期待できる.

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231148Z