シトリン欠損症患者における臨床像の多様性の解明と致死的脳症の発症予防法の開発

文献情報

文献番号
201231146A
報告書区分
総括
研究課題名
シトリン欠損症患者における臨床像の多様性の解明と致死的脳症の発症予防法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-045
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(国立大学法人信州大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 呉 繁夫(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
  • 栗山 進一(国立大学法人東北大学 災害科学国際研究所)
  • 早坂 清(国立大学法人 山形大学 医学部)
  • 小松 通治(国立大学法人信州大学 医学部 )
  • 佐伯 武頼(国立大学法人熊本大学 生命資源研究・支援センター)
  • 乾 明夫(国立大学法人鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
シトリン欠損症は、新生児胆汁うっ滞性肝炎(NICCD)を引き起こし、その後、成人型シトルリン血症(CTLN2)を引き起こす常染色体劣性遺伝性疾患である。NICCDと成人期のCTLN2の間の一見健康な時期(無-脳症期)の臨床像や分子病態は不明な点が多いが、この臨床病期の解明により、シトリン欠損症の全容の解明と、更にはCTLN2の発症促進・抑制機構が解明できる可能性がある。本研究の目的は、無-脳症期の臨床像を明らかして疾患の全容を解明し、またCTLN2の発症機序の解明と治療・予防法を確立することである。
研究方法
今年度は、無-脳症期の臨床像の解明、CTLN2患者に対する内科的治療法の改良、高齢発症者の臨床像の解明、脂肪肝の成因検索、小児用食事摂取調査票の探索―学童期シトリン欠損症患者スクリーニングへの応用、遺伝子診断法の改良、モデル動物を用いた疾患マーカーの検索、疾患モデル細胞としてのiPS細胞の樹立―肝細胞への分化を重点的に行った。
結果と考察
平成24年度の研究では、1) 無-脳症期の臨床像の解明、2) CTLN2患者に対する治療法の確立、3) 高齢発症者の臨床像の解明、4) 脂肪肝の成因の同定、5) 遺伝子診断法の改良、6) 新規疾患マーカー探求、7) 疾患モデル細胞としてのiPS細胞の樹立を行った。1)に関しては、新たな無―脳症期の臨床像として、十ニ指腸内分泌腫瘍の合併患者や、慢性腎不全合併患者、学童期神経性食思不振を呈する患者について報告し、非常に多彩な臨床像を呈することを明らかにした。また学童期シトリン欠損症患者のスクリーニングの目的で、本疾患に応用できる小児用食事摂取調査票の探索を行った。2)に関しては、本症患者に対し、本邦での脳死体肝移植療法を初めて導入した。内科的治療に関しても、低炭水化物食による食事療法とピルビン酸ナトリウムの有効性について、15名の患者の治療経験を報告し、11名で脳症発作の軽減・消失を観察しえた。またNICCD患者1名とCTLN2患者3名に対し、中鎖脂肪酸(MCT)を投与し、その有効性を明らかにした。4)に関しては、CTLN2患者の肝組織について、脂肪酸取り込み・脂肪酸輸送・分解・分泌をコントロールするPPAR(peroxisome proliferator-activated receptor-)のmRNA発現レベルを検索した。その結果、患者では有意に発現が低下していることが明らかになり、本症における脂肪沈着のメカニズムにPPARの発現低下が関与していることが示された。5)に関しては、病因遺伝子であるSLC25A13における高頻度変異の11種に対して、Real-time PCR法を用いて簡便かつ迅速に診断する方法を確立した。この方法を用いて、全国諸施設の本症患者が疑われる114名の患者に対し遺伝子診断を実施し、本解析法の変異アレル検出率は89%と、大多数の患者で、本解析法で迅速に診断可能であることを明らかにした。6)に関しては、モデルマウスにおいて尿中グリセロール値が上昇していることを見出し、新規疾患マーカーの候補として検索をすすめている。7)に関しては、CTLN2患者2名の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞への分化誘導を行った。
無-脳症期の臨床症状・病態については、未だ不明な点が多いが、非常に多彩な臨床病型をとり、診断を困難にしている可能性がある。CTLN2の治療に関しては、本邦においても脳死肝移植が可能であり、本症に対しての移植医療の適応をさらに拡大することができた。また内科的治療法として、ピルビン酸だけではなく、MCTの有効性も確立でき、治療法の選択肢が広がった。
遺伝子診断法の確立で、多くの患者の確定診断が可能になったが、約10%の患者では、変異が同定されていないのも実状である。よって変異が同定できなかった患者や、高齢発症患者、多彩な臨床像を呈する無-脳症期患者に対しては、血清や尿中で測定可能な診断マーカーが必要である。今後、尿中グリセロールが、診断マーカーとして確立できれば、更に多くの患者について診断が可能になり、正確な診断とともに的確な治療を提供できることが期待される。
結論
シトリン欠損症における治療法は、肝移植療法や複数の内科的治療法が確立されてきており、treatable(治療可能)な疾患になってきている。このため、より簡便・的確に診断が可能になれば、多くの患者を救命出来る可能性が示された。
また疾患細胞モデルとしてシトリン欠損症患者由来のiPS細胞が確立できれば、今後新規治療薬の探求や、より正確な病態解明・予防法の確立につながるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-04-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231146Z