皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究 

文献情報

文献番号
201231139A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究 
課題番号
H24-難治等(難)-一般-038
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 隆(久留米大学 医学部・皮膚科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部・皮膚科学)
  • 森脇 真一(大阪医科大学・皮膚科学)
  • 米田 耕造(香川大学 医学部・皮膚科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
65,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水疱性類天疱瘡,ヘイリーヘイリー病・ダリエ病,自己炎症性症候群,早老症,角化症の5疾患群はいずれも生命予後やQOLの観点から重要な皮膚疾患であり,緊急な研究の推進が必要である。5疾患を検討する4名の班員はそれぞれの疾患において我が国の皮膚科のリーダーとして活躍している。各班員が(エ)研究奨励分野⑩皮膚・結合組織の希少難治性疾患群に関する調査研究の主要な7課題の内,東京医科歯科大学皮膚科の横関博雄教授を班長とする発汗異常症・遺伝性色素異常症を除いた5課題について,これまでの研究成果を発展させる形で遺伝関連性希少難治性疾患群を網羅的に研究することを目的とする。
研究方法
本研究は主として遺伝関連性皮膚疾患の研究を行うが,かなり異なった領域をカバーしている。そのため,研究代表者が4名の班員の異なった施設の研究を総括する。研究代表者の施設,久留米大学皮膚科では類天疱瘡とヘイリーヘイリー病・ダリエ病の研究を,自己炎症性症候群,早老症,角化症に関しては,それぞれ和歌山医科大学,大阪医科大学,香川大学で研究分担者がその施設の研究協力者と研究を進める。その経過を研究代表者とe-mailや電話で密に連絡を取りながら進め,年に1-2回の斑会議で総会を行い,その検討をもとに最終的な目的を達成する。初年度である本年度は,まず完全な診断基準を作成し,その原因遺伝子・細胞内シグナル伝達・病因自己抗体・自己抗原解析などの基礎研究を行った。
結果と考察
1水疱性類天疱瘡とその類縁疾患
抗ラミニンγ1類天疱瘡のpassive transfer modelの蛍光抗体直接法でネズミのラミニンγ1 C末端の107アミノ酸塩基のリコンビナントタンパクに対するウサギIgGが真皮表皮境界部に沈着していたが,水疱は形成されなかった。
2ヘイリーヘイリー病・ダリエ病
ヘイリーヘイリー病患者のケラチノサイトではATPによる細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出能低下がみられ,さらにSPCA1の機能異常を有する細胞においてカルシウム濃度の恒常性を保つべき他の遺伝子群や角化に関連する遺伝子群の発現の変化が認められた。
3自己炎症性症候群
中條-中西症候群(NNS)の鑑別を要する2症例においてPSMB8遺伝子全エクソンの変異検索を行った結果,c.129T>C(A43A)とc.145C>A(Q49K)変異をヘテロに見出した。いずれも非機能的なSNPと考えられた。和歌山県とその近郊の49名分のゲノムDNAについてPSMB8 c.602G>T変異を検索した結果1名にヘテロ変異が見出され,当地での変異アリル頻度は1/98と算出された。
4早老症
9例の新規コケイン症候群(CS)患者中,6例で遺伝子変異を同定し(CSA2例,CSB2例,XPD/CS1例,XPG/CS1例),うち4例で新規変異を確認した。CSモデルマウスとしてXPG-nullマウス中枢神経系を中心に詳細に病理組織学的に検討したところ,大脳皮質,海馬に髄鞘不全を認めた。CS患者の分子遺伝学的解析はCS患者の多彩な臨床症状を予測する上で重要である。またCSの病態を検討する上で,マウスモデルは有用である。
5角化症
遺伝性掌蹠角化症の1種である古典型ボーウインケル症候群のモデル細胞ではコントロール細胞に比較して種々のStat(シグナル伝達兼転写活性化因子)がリン酸化されていた。GM-CSF,VEGF,IL-6,CCL-5/RANTESなどの産生亢進も観察された。Aktの活性化ならびにp44/42 MAP kinaseの活性化も見られたので,Aktあるいはp44/42 MAP kinaseの阻害剤が古典型ボーウインケル症候群の治療薬として使用出来る可能性がある。
結論
1 今後,哺乳類の皮膚からラミニンγ1を抽出して用いるなど実験系の改良を行い,抗ラミニンγ1類天疱瘡におけるラミニンγ1の抗原性を明らかにしたい。
2 ヘイリーヘイリー病はカルシウムポンプの異常で起こる疾患であるが,遺伝子異常は多数あり,その違いによって,異なるメカニズムで症状が引き起こされている可能性が示唆された。
3和歌山地域でのPSMB8変異をヘテロに持つ健常者の存在が確認され,今後も患者が出現しうることが実感できた。NNSの病態解明,治療法の開発を進めたい。
4 CS細胞はヌクレオチド除去修復のみならず酸化的DNA損傷の修復の機能が低下している可能性が高い。CSモデルマウスの解析も詳細に行い,CSに発現する諸症状の病態を解明し,ひいてはCS治療法の探索につなげたい。
5 古典型ボーウインケル症候群のモデル細胞において,種々のシグナル伝達の変化が観察され,この変化は古典型ボーウインケル症候群の病態に深く関与しているものと考えられた。今後,二次調査による詳細な症状の集積と遺伝子検索を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-06-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231139Z