先天性免疫不全症候群の病態解明と予後改善に関する研究

文献情報

文献番号
201231128A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性免疫不全症候群の病態解明と予後改善に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
峯岸 克行(国立大学法人徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高田英俊(九州大学大学院医学研究院成長発達医学・小児科学)
  • 小原 收(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター)
  • 玉利真由美(理化学研究所   ゲノム医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
31,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性免疫不全症は代表的な病型だけでも40種類以上存在する多彩な疾患である。本研究は、先天性免疫不全症を対象とし、その臨床症状、免疫能、遺伝子多型を詳細に検討することにより、予後因子を明らかにし、各症例に適切な個別化医療を提供する基盤を整備することを目的とする。まず、研究代表者がその原因遺伝子を世界に先駆けて発見した高IgE症候群を対象とする検討を行う。これをモデルとして、先天性免疫不全症全体で、同様の疾患の予後予測因子の発見を行い、先天性免疫不全症全体に対する個別化医療の基盤を構築する。
研究方法
#1 高IgE症候群の全国調査と診断基準の策定
 全国の高IgE症候群症例を診療している施設にアンケート調査を行う。

#2 Genotype-phenotype correlationの検討
日本人の高IgE症候群症例においてGenotype-phenotype correlationの詳細な検討を行う。

#3 高IgE症候群症例においては、STAT3の変異によりIL-6, IL-10, IL-21, IL-23などのサイトカインのシグナル伝達異常が認められる。高IgE症候群の重症度・予後とこれらのサイトカインシグナル伝達障害の程度の間に相関がないかどうかを検討する。

#4 高IgE症候群症例において、全エクソンシークエンス解析を行い、その重症度や予後を規定する遺伝子多型を見出す。

#5 原因不明の高IgE症候群の原因遺伝子の検索 原因不明の高IgE症候群症例に対して全エクソン塩基配列解析とRNAシーケンシングを行い、その原因遺伝子を同定する。

#6 高IgE症候群の病態形成機構の解明
高IgE症候群の病態形成機構はほとんど明らかにされていない。特に骨粗鬆症の発症メカニズム、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムを解明することは、高IgE症候群の病態形成機構の解明にとどまらず、一般の骨粗鬆症・アトピー性皮膚炎の診断・治療に有用である可能性がある。モデルマウスを用いて高IgE症候群の病態形成機構を明らかにする。
結果と考察
#1 高IgE症候群の全国調査と診断基準の策定
高IgE症候群の全国調査を行い、研究成果報告書に記載したような結果を得た。

#2 Genotype-Phenotype correlationの検討
上記の全国調査を基に、遺伝子変異部位により、その臨床症状に差異がないかどうかを詳細に検討した。日本人症例においてはこの2群間で臨床症状に差異を認めなかった。

#3 免疫学的所見と臨床症状の関連
これまでに20例の高IgE症候群症例において、IL-6, IL-10, IL-23などの各種サイトカインのシグナル伝達障害の程度を検討した。これまでに検討した全例ですべてのサイトカインで同等のシグナル伝達障害が見られた。

#4 遺伝的検討
これまでにSTAT3遺伝子に変異がある症例11例の全エクソン塩基配列の検討を行い、詳細な検討を行っている。

#5 原因不明の高IgE症候群の原因遺伝子の検索
血族結婚の高IgE症候群症例に注目し、32例の高IgE症候群患児の全エクソン塩基配列の検討を行った。

#6 高IgE症候群の病態形成機構の解明
研究成果報告書に記載したように、STAT3の分子異常が骨粗鬆症を引き起こすメカニズムを明らかにした。
結論
これまでの研究成果により、日本人高IgE症候群症例の臨床症状の詳細が明らかになった。さらに、頻度の高い合併症が明らかになったので、それに対する早期発見・早期治療開始などの対策をとることが可能になった。また、これまでの諸外国の報告では、高IgE症候群の予後は比較的良好とされていたが、今回の調査で明らかになった患児の年齢分布をみると10歳台と30歳台で患者数が急激に減少しており、この時期に本症患児の予後に重大な影響を及ぼすイベントが起こる可能性が示唆された。これらの知見は、国際的にも全く新規のもので、今後の先天性免疫不全症の予後を改善していくための重要な第一歩である。この発見を通じて本疾患の予後を改善できる可能性があることより社会的な意義も大きい。当初の予定通り本免疫不全症の予後良好群と予後不良群を早期に鑑別するための基礎となる知見である。
さらに、感染症の種類や起炎菌が統計的に明らかにされ、予防投薬が行われていない症例が約4分の1いることが明らかになったので、これを改善するため患者教育、医療関係者の啓蒙を行っていくことの重要性が明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231128Z