大規模孤発性ALS患者前向きコホートの遺伝子・不死化細胞リソースを用いた病態解明、治療法開発研究

文献情報

文献番号
201231113A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模孤発性ALS患者前向きコホートの遺伝子・不死化細胞リソースを用いた病態解明、治療法開発研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科((現)横浜市立大学 大学院医学研究科) )
  • 勝野 雅央(名古屋大学 大学院医学系研究科 )
  • 渡辺 宏久(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 熱田 直樹(名古屋大学 医学部附属病院 )
  • 池川 志郎(理化学研究所 ゲノム医学研究センター)
  • 飯田 有俊(理化学研究所 ゲノム医学研究センター)
  • 中野 今治(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ALSは代表的な神経難病であるが、孤発性ALSの病態関連分子を同定し、病態解析を進める道筋は未確立である。全国28施設が参加するALS患者前向きコホートであるJaCALSでは、孤発性ALS患者の縦断的臨床情報、DNA、B cell lineを蓄積しており、1000例規模を目指してさらに拡大する。また、SNPs、rare variants解析によりALSの病態関連遺伝子を同定し、その遺伝子型を持つ患者由来のiPS細胞ライブラリーを構築して、病態的意義の検証、治療薬スクリーニング体制の整備を行うことを目的とする。
研究方法
JaCALS参加施設においてALS患者から文書同意を得て登録を行い、臨床研究コーディネーター(CRC)による電話調査を3カ月おきに実施し、代表的なALS重症度スケールであるALSFRS-R日本版スコアおよび侵襲的処置の有無などの予後情報を調査した。登録時に血液検体からDNA抽出およびB-cell line作製を行い、連結可能匿名化した。参加施設をベースにJaCALS運営委員会を組織し、検体は運営委員会の管理のもとで解析研究に供する形とした。患者と血縁が無く、文書同意が得られた人からも静脈採血を行ってコントロール検体とし、連結不可能匿名化した。運営事務局は名古屋大学に設置した。全参加施設で倫理委員会承認を得た。
 孤発性ALS患者ゲノムの60万SNPsを用いたゲノムワイド多型解析を行った。孤発性ALS対コントロールの関連解析に加え、進行速度などALS患者の臨床像に影響を与えている可能性のある多型も探索した。Human Exome Beadchipsを用いて、エクソン内25万ヶ所のvariantsタイピング解析も実施した。SNPs解析によってALSに関連する可能性がある遺伝子および、これまでの病態解析研究の中でALSとの関連が示唆される遺伝子すべてについて、次世代シークエンサーを用いて網羅的シークエンスを行い、ALS関連遺伝子変異の検索を行った。さらに、孤発性ALS患者ゲノムを全エクソームシークエンス解析して、ALS発症リスクおよび臨床像に影響するrare variantsを探索した。
探索されたALS関連遺伝子多型、遺伝子異常を持つ患者由来のiPS細胞作製を行い、iPS細胞ライブラリーはJaCALS運営委員会の管理、審査のもと、解析担当施設倫理委員会の承認を前提に研究資材としての提供を行える体制を構築することとした。iPS細胞ライブラリー構築は主に平成25年度に推進を予定している。
結果と考察
 JaCALSのALS患者登録数は、平成25年3月の時点で760例、コントロールは226例である。このリソースでは、前向き臨床情報、DNA、B cell lineを蓄積しており、この3点が結び付けられた大規模リソースは世界的にも類を見ない。孤発性ALSの次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析については、220例のエクソームシークエンスを完了している。得られたシークエンスリードを標準配列にマッピングし、多型・変異の検出を進めている。また、家族性ALSの病因遺伝子や、孤発性ALSの病態に関与することが報告されている既知の病態関連遺伝子について、Ion PGM™システムを用いて網羅的に解析するシステムを構築した。ゲノムワイド大規模SNPs情報と臨床像との相関について、220例60万SNPsを用いた解析により、ALS患者生存期間との関連を示すSNPsをp値10-7台を一つと10-6台を15個見出し、追加検体による検証を進めている。連携する岡野研ではB cellからのiPS細胞作製に成功した。
 明確な原因遺伝子の存在する遺伝性疾患と異なり、孤発性疾患では疾患モデルの作製、病態解析にはこれまで困難が大きかった。本研究では、孤発性ALS患者の臨床像、遺伝子多型ごとにiPS細胞ライブラリーを作製することにより、病態関連分子の検証、病態解析研究が飛躍的に進むことが期待される。孤発性ALSの病態関連分子のいくつかは他の神経変性疾患にも関連すると想定され、病態関連分子の同定から創薬にいたる研究開発は、他分野にわたる研究の進展につながりうる裾野の広いものになることが強く期待される。
結論
大規模ALS患者前向きコホートと蓄積された遺伝子を基に、病因(発症)に関わる遺伝子および病態(経過、予後、病型など)に関わる遺伝子の探索が可能である。また株化細胞からそれぞれの遺伝子型を持つiPS細胞ライブラリーの作成が可能である。これらは孤発性ALS病態解明の重要な戦略になりえると同時に、創薬に向けた分子標的の同定とその検証を行う新しい枠組みになりえる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231113Z