発がん・進展とがん免疫機構の解析に基づいた新しい分子診断法の開発と臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
199800133A
報告書区分
総括
研究課題名
発がん・進展とがん免疫機構の解析に基づいた新しい分子診断法の開発と臨床応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
杉下 匡(佐々木研究所附属杏雲堂病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本優(佐々木研究所附属杏雲堂病院)
  • 大屋敷一馬(東京医科大学)
  • 加藤絋(山口大学医学部)
  • 和気徳夫(九州大学医学部)
  • 伊東恭悟(久留米大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、婦人科癌の発癌・進展機構の解明および癌免疫機構の解析に基
づく新しい分子診断法の開発と臨床応用を目指している。
(1)子宮頚癌の遺伝子診断
子宮頚部発癌・進展過程での遺伝学的変化をCGH、LSC等により検出し、それらを指標とする異形成、早期癌の遺伝子診断法、進行癌の悪性度診断法を確立する。また頚部発癌とテロメラーゼ活性との相関を解析し、癌診断指標としての同活性の有用性を検討する。また微量検体につき正確に同活性を測定するため、検出法の改良を試みる。さらにasymmetric semi-nested PCRによる末梢血SCCA2mRNAの定量により、末梢血中の扁平上皮癌細胞検出を試みる。
(2)子宮体癌の遺伝子診断
1番染色体上子宮体癌抑制遺伝子単離を試みる。
(3)婦人科癌における血管新生とその阻害
婦人科癌における血管新生の特徴を解析し、血管新生阻害による制癌法開発を試みる。(4)婦人科扁平上皮癌退縮抗原の同定と癌ワクチン分子開発
ヒトHLA拘束性癌特異的CTL株を作製し、その認識する癌退縮抗原遺伝子を
単離し、臨床応用可能な癌ワクチン標的分子の開発を試みる。
研究方法
(1)a. 子宮頚部発癌浸潤過程の遺伝学的解析
子宮頚部発癌の各段階の細胞株、臨床検体に対しCGHを行い、発癌・浸潤・転移に関わる遺伝学的変化を抽出し、統計学的解析を用い変化の推移を考察した。
(1)b. LSCによる子宮頚癌の判定
子宮頚部擦過検体につきLSC にて核DNA量を測定、リンパ球DNA量を対照としてDI値を算出し、同時に作成したパパニコロウ標本につき細胞診断し、両者判定を比較検討した。
(1)c. 発癌とテロメラーゼ活性の関連の検討
臨床検体88症例(正常7、良性病変12、異形成28、上皮内癌22、浸潤癌19)の子宮頚部採取細胞より2枚標本を作成し、1枚につきin situ TRAP法にてテロメラーゼ活性陽性細胞を検出し、後に同一標本につきパパニコロ染色を行い、同活性の有無と細胞形態を個々の細胞につき比較検討した。もう1枚は通常のパパニコロ染色による細胞診断を行い、細胞内テロメラーゼ活性の成績と比較検討した.また同活性測定の際、PCR反応阻害物質の存在が問題となるため、伸長反応後、DNAの純化および濃縮を目的としカラム法を適用した。
(1)d. 子宮頚癌におけるSCC抗原の発現の検討
健常女性、良性疾患患者、子宮頚部扁平上皮癌患者の末梢血よりRNAを抽出し、asymmetric semi-nested PCRによりSCCA2mRNAを定量した。さらにSCCA2上流プロモーター領域を単離、塩基配列を決定し、プライマー伸張法により転写開始点を検索した。SCCA2プロモーター領域約4kbpをレポーター遺伝子上流に配置し、5'側上流域の欠損体を4種類作成し子宮頚癌細胞SKGIIIaへ遺伝子導入し転写活性を測定した。
(2)子宮体癌の遺伝子解析
様々な断片長のヒト1番染色体断片を微小核融合により子宮体癌細胞へ単一移入し、造腫瘍性、増殖特性、および細胞表現型の変化を検索し、同遺伝子座乗領域を特定した。
(3)婦人科癌における血管新生とその阻害
血管新生因子bFGF、VEGF、 PD-ECGFの発現様式や機能を検討し、各腫瘍の特徴に合わせて血管新生の制御を検討した。
(4)婦人科領域扁平上皮癌退縮抗原の同定と癌ワクチン分子開発
HLA拘束性扁平上皮癌拒絶抗原遺伝子SART-1~3のもつ生理的機能の解析、ならびに同抗原の婦人科領域癌とくに子宮頸癌における発現および同ペプチドの癌ワクチンとしての可能性を検討した。
結果と考察
(1)a. 坂本・平井らは、子宮頚癌のCGH解析により、組織型と遺伝子コピー数の変化(CNA)との相関を検討し、扁平上皮癌に特異的なCNAとして染色体1番長腕および11番長腕のコピー数の増加を認め、これらの領域に扁平上皮癌特徴的癌遺伝子の存在する可能性を示唆した。また子宮体癌において、遺伝的不安定性を認めた9症例中6例にPTEN遺伝子変異を認め、同時に施行したCGH解析では対側alleleの欠失が示唆され、同遺伝子が子宮体部発癌において重要であることを示唆した。さらに卵巣癌のCGH解析により、X染色体短腕のコピー数減少、19番長腕のコピー数の増加が抗癌剤自然耐性に関与することが示唆された。
(1)b. 杉下・坂本らはLSCを用い、63症例の子宮頚部擦過検体につき核DNA量を測定し、その測定意義と細胞診所見とを比較検討した。 LSC判定の癌診断に対する感度は28/28例(100%)であり、False Positiveは 10/38(26%)であった。また、特異度は21/24例(88%)であり、False Negativeは 0/25(0%)であった。LSC判定と細胞診断とに良好な相関を認めたことからLSC判定を細胞診の補助診断に応用できる可能性が示唆された。
(1)c. 坂本らは子宮頚部臨床検体(88例)に対しin situ TRAP 法を施行し、テロメラーゼ陽性細胞を正常子宮頚部 1例 ( 14% )、良性病変(化生および炎症性変化) 1例 ( 8% )、異形成15例 ( 53% )、上皮内癌17例 ( 77% )、浸潤癌19例 ( 100% ) に認めた.また同活性は異形成、上皮内癌においては核縁および核内に比較的均一に認められたが、浸潤癌では核縁より内側に強い斑点状の活性を認めたことより、発癌・進展過程において量的変化のみならず、局在性変化する可能性も示唆された.さらに大屋敷らは、テロメラーゼ活性の検出に際しカラム法を用いることにより効率を上昇させ、さらにEDTA処理により感度向上を得た。
(1)d. 加藤らはasymmetric semi-nested PCRにより末梢血中SCCA2 mRNAを定量した。カットオフ値を3.5 X 105コピーとすると、陽性は、健常婦人および妊婦25例中6例、上皮内癌5例中4例、浸潤癌25例中18例(72%)となり、良性疾患3例および他の悪性腫瘍では全例陰性であった。またSCCA2上流「-432 → +47」領域にプロモーター活性が存在すると考えられた。
(2)和気らはD1S412-1q ter領域をカバーするSTFを子宮体癌細胞へ移入し、D1S510-D1S414あるいはD1S213-D1S446領域に標的遺伝子が存在することを示唆した。そこで60例の子宮体癌組織につき、これら2領域におけるLOH解析を行い、遠位のD1S213-D1S446領域に高頻度のLOHを認めた。
(3)杉下・藤本らは子宮頚癌においてbFGFは、癌細胞および間質に発現し、癌の進展に関与し、予後とも相関した。PD-ECGFは扁平上皮癌において間質に特徴的に発現し、血管新生能や予後と相関した。卵巣癌においては、bFGFは予後と相関し、一方PD-ECGFは予後とは相関しないが一部の症例で著しく高値で進展と関与した。VEGFではVEGF165が主に発現し、組織型や進行期による差はなかったが 予後と相関した。子宮内膜癌においてbFGFは予後と相関した。VEGFは早期における進展と関与した。PD-ECGFの発現は性周期によって修飾され、早期における進展と関与し、特に初期筋層浸潤と関与した。
(4)伊東らはヒトHLA-クラスI拘束性上皮癌特異的CTLの認識する扁平上皮癌拒絶抗原遺伝子を単離し、それらがコードする癌抗原ペプチドを同定し、さらに同ペプチドのin vitroでのCTL誘導能を解析した。現在までに扁平上皮癌cDNAライブラリーより4種の新規と考えられる遺伝子(SART-1~4)を単離した。SART-1蛋白は子宮癌の約40%(腺癌、扁平上皮癌とも)および卵巣癌の約30%に発現した。SART-2は扁平上皮癌の60%以上に、SART-3は80%以上の婦人科領域癌(腺癌、扁平上皮癌とも)に発現するという予備的データを得た。さらにSART-2および 3抗原中に、患者リンパ球よりCTL誘導可能なペプチド分子を各々2個および3個同定した。
結論
CGHによるゲノム変異検索や高感度なテロメラーゼ活性測定等の組み合わせにより精度の高い診断技術を開発しつつある。またasymmetric semi-nested PCRによるSCCA2mRNA定量法を確立し、末梢血中の同RNA量測定が扁平上皮癌患者の診断に有用であることを示した。また悪性腫瘍で増加するSCCA2遺伝子発現機序を明らかにするため同遺伝子のプロモーター領域を決定した。また1q42領域に存在すると考えられた子宮体癌抑制遺伝子につき、YACおよび BACコンティグを作成し単離を行う。また婦人科癌において、血管新生因子は進展の各段階で特徴的な発現様式や機能を有し、それに応じた血管新生阻害が治療に必然であると考えた。さらに癌免疫機構の解析によりキラーT細胞が認識する扁平上皮癌拒絶抗原蛋白(SART-1~SART-3)を明らかにし、その発現の有無による癌の診断および特異的癌免疫療法の対象症例選択の可能性を示した。

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