潜在性HTLV-1感染関連疾患の発見と実態調査

文献情報

文献番号
201231100A
報告書区分
総括
研究課題名
潜在性HTLV-1感染関連疾患の発見と実態調査
課題番号
H23-難治-一般-128
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
下田 和哉(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北中 明(宮崎大学 医学部 )
  • 久冨木 庸子(宮崎大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1は、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎の原因ウイルスである。前述の3疾患以外に、多発性筋炎、関節疾患など、様々な疾患がHTLV-1関連疾患と考えられているが、その詳細は不明である。そこで、HTLV-1高浸淫地域である宮崎県において、潜在性HTLV-1関連疾患の発見を目的として、HTLV-1感染以外の、年齢、性といった交絡因子を同一とした患者集団よりHTLV-1陽性群に発症頻度の高い疾患を抽出することによって、これまでに報告されているHTLV-1関連疾患候補の検証と新規HTLV-1関連疾患の発見を行った。見出されたHTLV-1関連疾患に対しては、その病態を臨床研究によって解析することを目指した。
同時に、アンケート調査、症例シリーズ研究ならびに診療録を用いた後ろ向き研究を行うことによって、HTLV-1関連疾患候補の検証と実態解明を試みた。
研究方法
1)昨年度の検討において、抗HTLV-1抗体陽性群で発症の頻度が高い疾患を検索した結果、既知のHTLV-1関連疾患である、ATL、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎が良好に検出されたため、本手法でHTLV-1関連疾患の検出が可能であることが示された。今年度は、複数の研究参加施設において過去5年間に抗HTLV-1抗体検査を施行した患者集団より、強力な交絡因子である年齢、性のバックグラウンドを同一とし、HTLV-1感染の有無のみが相違する患者コホートを抽出した(HTLV-1陽性者1,730名、HTLV-1陰性者3,487名)。当該コホートにおいて、抗HTLV-1抗体陽性群において発症のオッズ比が高い疾患を見出すことによって、HTLV-1関連疾患の発見を試みた。
2)神経学的症状、泌尿器科的症状、膠原病学的症状、歯科的症状、眼科的症状、呼吸器症状、性的機能障害が抽出可能となるよう作製した20項目よりなるアンケートと、医師による12項目(神経学的症状、リウマチ学的症状、歯科的症状)の問診、理学所見記載によるHTLV-1キャリアの調査を行った。
3)HTLV-1関連疾患の臨床像解明のため、HTLV-1キャリアにおけるC型慢性肝疾患の病態についての後ろ向き研究を行った。
4)自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染の関連に関する解析として、甲状腺疾患センター患者コホートにおいて、同意を得た患者全員を対象に抗HTLV-1抗体の有無を解析した。
結果と考察
潜在性HTLV-1感染関連疾患のスクリーニングによって、これまでに症例報告、または症例シリーズ研究によってHTLV-1感染との関連が示唆されてきた疾患の中から、HTLV-1感染者に発症のオッズ比が有意に高いものを見出すことはできなかった。新たなHTLV-1関連疾患として、C型慢性肝炎が抽出された。アンケート調査によると、HTLV-1キャリアに多くみられる症状は、神経学的症状、眼科症状、歯科症状であった。HTLV-1関連疾患としてのC型慢性肝炎に関する実態調査を行ったところ、検査値や組織学的な臨床パラメータには、HCV単独感染症例と比較して有意な変化はみられなかったが、肝細胞癌例においては、HTLV-1/HCV共感染例ではHCV単独感染例と比較して初発時により進行しており、また肝予備能がより低下していた。よって、HTLV-1の存在がC型慢性肝炎の発症を促し、C型慢性肝炎の自然史に対して負のインパクトを与えている可能性が示唆された。自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染の関連に関する解析では、正常人コントロールと比較して、慢性甲状腺炎、バセドウ病患者におけるHTLV-1感染率に有意な差は認められなかった。
結論
HTLV-1感染者において、高いオッズ比で発症する疾患の同定を網羅的に行うことが可能となり、新たなHTLV-1関連疾患としてC型慢性肝炎が抽出された。
C型慢性肝炎に対する診療記録を用いたレトロスペクティブな実態調査からは、HTLV-1の存在がC型慢性肝炎の発症を促し、C型慢性肝炎の自然史に対して負のインパクトを与えている可能性が示唆された。
アンケート調査から、HTLV-1キャリアには、神経疾患、眼科疾患の症状が人種をこえて共通することが示された。
既報とは異なり、自己免疫性甲状腺疾患患者とコントロール群の間に、HTLV-1感染率の有意な差は認められないことが明らかとなった。本研究の結果より、自己免疫性甲状腺疾患の発症に及ぼすHTLV-1感染の関与は限定的である考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231100B
報告書区分
総合
研究課題名
潜在性HTLV-1感染関連疾患の発見と実態調査
課題番号
H23-難治-一般-128
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
下田 和哉(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 北中 明(宮崎大学 医学部)
  • 久冨木 庸子(宮崎大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1は、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎の原因ウイルスである。前述の3疾患以外に、多発性筋炎、関節疾患など、様々な疾患がHTLV-1関連疾患と考えられているが、その詳細は不明である。そこで、HTLV-1高浸淫地域である宮崎県において、HTLV-1感染以外の、年齢、性といった交絡因子を同一とした患者集団よりHTLV-1陽性群に発症頻度の高い疾患を抽出することによって、新たなHTLV-1関連疾患を発見することを目指した。前述の疫学研究によって、これまでに報告されているHTLV-1関連疾患候補の検証と、新規HTLV-1関連疾患の発見を行い、見出されたHTLV-1関連疾患の病態解明を試みた。
同時にアンケート調査、症例シリーズ研究ならびに診療録を用いた後ろ向き研究を行うことによって、HTLV-1関連疾患候補の検証と実態解明を図った。
研究方法
1)宮崎県の研究参加施設における患者コホートを用いて、抗HTLV-1抗体陽性群で発症の頻度が高い疾患を検索した。既知のHTLV-1関連疾患の検出感度を指標とし、HTLV-1関連疾患の検出が可能な手法を確立した。方法論の確立後、研究参加施設において過去5年間に抗HTLV-1抗体検査を施行した患者集団より、強力な交絡因子である年齢、性のバックグラウンドを同一とし、HTLV-1感染の有無のみが相違する患者コホートを抽出した(HTLV-1陽性者1,730名、HTLV-1陰性者3,487名)。当該コホートにおいて、抗HTLV-1抗体陽性群において発症のオッズ比が高い疾患を見出すことによって、HTLV-1関連疾患のスクリーニングを行った。
2)神経学的症状、泌尿器科的症状、膠原病学的症状、歯科的症状、眼科的症状、呼吸器症状、性的機能障害が抽出可能となるよう作製した20項目よりなるアンケートと、医師による12項目(神経学的症状、リウマチ学的症状、歯科的症状)の問診、理学所見記載によるHTLV-1キャリアの調査を行った。
3)HTLV-1関連疾患の臨床像解明のため、HTLV-1キャリアにおけるC型慢性肝疾患の病態について検討を行った。
4)自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染の関連に関する解析として、宮崎県内の甲状腺疾患センター患者コホートにおいて、同意を得た患者全員を対象に抗HTLV-1抗体の有無を解析した。
結果と考察
潜在性HTLV-1感染関連疾患のスクリーニングによって、これまでに症例報告、または症例シリーズによってHTLV-1感染との関連が示唆されてきた疾患のなかで、HTLV-1感染者に発症のオッズ比が有意に高い疾患を見出すことはできなかった。新たなHTLV-1関連疾患としてC型慢性肝炎が抽出された。アンケート調査の結果から、本邦のHTLV-1キャリアに多くみられる症状は、神経学的症状、眼科症状、歯科症状であった。HTLV-1感染関連疾患としてのC型慢性肝炎に関する実態調査からは、検査値や組織学的臨床パラメータには、HCV単独感染症例と比較してHTLV-1/HCV共感染例に有意な変化はみられなかったが、肝細胞癌例においては、共感染例ではHCV単独感染例と比較して初発時により進行しており、また肝予備能がより低下していた。よって、HTLV-1の存在が、C型慢性肝炎の発症を促し、C型慢性肝炎の自然史に対して負のインパクトを与えている可能性が示唆された。自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染の関連に関する解析では、正常人コントロールと比較し、慢性甲状腺炎、バセドウ病患者におけるHTLV-1感染率に有意な差は認められなかった。
結論
本研究で確立した手法により、HTLV-1感染者において高いオッズ比で発症する疾患の同定を網羅的に行うことが可能となった。解析の結果、新たなHTLV-1関連疾患としてC型慢性肝炎が抽出された。
C型慢性肝炎に対する診療記録を用いた後ろ向きの実態調査からは、HTLV-1の存在がC型慢性肝炎の発症を促し、C型慢性肝炎の自然史に対して負のインパクトを与えている可能性が示唆された。
アンケート調査からは、HTLV-1キャリアには、神経疾患、眼科疾患の症状が人種をこえて共通して存在することが示された。
自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染の関連に関する解析では、既報とは異なり、自己免疫性甲状腺疾患患者とコントロール群の間にHTLV-1感染率の有意な差は認められないことが明らかとなった。本研究の結果より、自己免疫性甲状腺疾患の発症に及ぼすHTLV-1感染の関与は限定的である考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231100C

成果

専門的・学術的観点からの成果
宮崎県の基幹病院における抗HTLV-1抗体陽性率を調査したところ、10.4%と高率であった。網羅的な疾患スクリーニングの結果、HTLV-1陽性者にC型慢性肝炎の発症が有意に多い(オッズ比:1.69, 95%信頼区間:1.30-2.20)ことを見出した。自己免疫性甲状腺疾患では、HTLV-1感染の有意な増加は認められなかった。また、本研究において確立した症例登録、検体収集システムを用いて実施したATLLの遺伝子解析研究の結果を公表した。
臨床的観点からの成果
これまでにもHTLV-1とHCVの重複感染の意義を示す報告は存在しているが、限られた地域において少数例を対象として解析されている。独立した手法の無作為スクリーニングによってC型慢性肝炎がHTLV-1関連疾患であると確認されたことは、重複感染が一部の特殊な地域における問題ではなく、普遍的な課題であることを示しており、HTLV-1感染者にHCV感染があった場合の臨床経過について検討する必要性を示した。自己免疫性甲状腺疾患の発症とHTLV-1感染との間に関連性が低いことは罹患者の不安軽減につながった。
ガイドライン等の開発
重複感染の可能性が高いウイルスとしてHIVとHCVが全国調査の対象となり、既に診療ガイドラインが作成されているのに対し、HTLV-1とHCVの重複感染に関する知見は不足している。HTLV-1感染者にC型慢性肝炎発症者が多く、HTLV-1がHCV感染の自然経過に負のインパクトを与える可能性が見出されたことから、我が国の現状を把握し、病態を解明することによって、HTLV-1感染者に重複感染している HCV 感染症に対する治療戦略の策定、ガイドラインの作成が今後必要である。
その他行政的観点からの成果
本研究によって、我が国に150万人以上存在すると推定されるC型肝炎ウイルス持続感染者の自然経過に影響を与える因子としてHTLV-1が見出された。今後、HTLV-1とHCVの重複感染者の解析を行い、その病態を明らかにすることによって、病気の早期発見や重症化予防につながる可能性がある。肝炎診療におけるHTLV-1検査の重要性に関してエビデンスが得られた場合、今後の肝炎対策の方向性について影響を与える可能性がある。
その他のインパクト
2012年10月13日、宮崎市内において、「HTLV-1感染症からATL」というタイトルで、市民公開講座を開催し、2013年1月8日のNHKニュース「おはよう沖縄九州」に取り上げられた。2015年12月19日、HTLV-1/ATL公開講座in宮崎の中で「ATLの治療」というタイトルで講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kataoka K, Nagata Y, Kitanaka A et al.
Integrated molecular an alysis of adult T cell leukemia/lymphoma
Nature Genetics , 47 (11) , 1304-1315  (2015)
10.1038/ng.3415.

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231100Z