先天性顆粒放出異常症の病態解明と診断法の確立

文献情報

文献番号
201231087A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性顆粒放出異常症の病態解明と診断法の確立
課題番号
H23-難治-一般-109
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石井 榮一(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 正夫(広島大学 大学院医歯薬総合研究科)
  • 藤本 純一郎(国立成育医療センター)
  • 安川 正貴(愛媛大学 大学院医学系研究科 )
  • 山本 健(九州大学 生体防御医学研究所)
  • 金兼 弘和(富山大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性顆粒放出異常症は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)や NK 細胞の顆粒放出の異常によりさまざまな臨床所見を呈する乳幼児の疾患の総称であり、家族性血球貪食性リンパ組織球症(FHL)、Chediak-Higashi 症候群、Griscelli 症候群 type 2、Hermansky-Pudlak 症候群 type 2、X-linked lymphoproliferative disease(FHL)などが含まれる。いずれもリンパ球の分泌顆粒の放出に関わる遺伝子異常が同定されつつあるが、日本における実態とその診断法は確立されていない。本研究の目的は、これら先天性顆粒放出異常症の病態に関わる遺伝子異常の解明と診断システムの開発を行うことである。
研究方法
症例登録のデータセンターを整備するとともに、病態解明のための機能解析および遺伝子解析を推進し診断法を確立する。具体的には、

① 基礎研究および臨床研究の質を高めるため、データセンターを設置し疾患特有の臨床研究手法を確立するとともにアウトカム研究のためのデータベースを構築する。

② 先天性顆粒放出異常症の遺伝子異常の解明とリンパ球機能解析を行い、診断法の標準化とそれを用いた疾患層別化を開発する。

③ 診断基準を用いた治療の国際共同研究を進める。

結果と考察
研究結果
1) 先天性顆粒放出異常症のうちChiedika-Higashi 症候群、Griscelli 症候群 type 2、Hermansky-Pudlak 症候群 type 2の全国調査を行った。その結果、Chediak-Higashi 症候群15例の存在が確認された。
2) Chediak-Higashi 症候群15例について臨床解析を行ったところ、血球貪食症候群(HLH)をきたす症例は30%と少なく、長期生存例では消化管合併症および中枢神経合併症が多いことが明らかになった。LYST遺伝子異常は2/3の症例で同定されたが、残り1/3は正常であり未知の遺伝子異常の可能性が示唆された。リンパ球機能を解析したところ、HLH合併例では CTL が低下しさらに顆粒放出機能が欠損していた。
3) FHLは月1,2例程度の登録がある。FHL の各亜型の頻度はFHL2, FHL3が80%を占めることがわかったが、顆粒放出解析ならびに CTL 活性の結果からは約10%の未知の遺伝子異常による FHL が存在する可能性が示唆された。
4) FHL は、①80%の症例が非血縁臍帯血移植が行われている、②骨髄非破壊的前処置の使用により安全に移植が行われている、③移植による予後は60%以上であったこと、などが明らかとなった。
6) X-linked lymphoproliferative disease (XLP) はXLP1, XLP2 が集積された。XLPのリンパ球機能解析を行った結果、XLPは顆粒放出および CTL 活性は正常であることが明らかになった。XLPにおけるリンパ球機能と血球貪食との関連性は明らかではないが、今後さらに詳細を検討していく必要がある。
以上より日本における顆粒放出異常症の実態が明らかになり、その診断および治療アルゴリズムを作成することができた。

考察
1) 顆粒放出異常症は日本ではFHL とChediak-Higashi 症候群が存在する。Griscelli 症候群 type 2、Hermansky-Pudlak 症候群 type 2は報告例がないが、類似家系が存在しており、さらなる集積が必要である。
2) 顆粒放出異常症の多くは遺伝子異常が同定され、そのリンパ球機能も解析されつつあるが、合併症を含めた病態が不明な疾患も多い。現在 iPSを用いた病態解析を進めている。
3) FHL では国際治療研究が進められているが、日本での検討では骨髄非破壊的前処置を用いた非血縁者臍帯血移植が適正な治療法と考えられる。Chediak-Higashi 症候群も造血細胞移植が有用であるが、神経合併症予防のための新たな治療法の確立が望まれる。
4) 顆粒放出異常症は長期生存例があることから成人にも多くの未診断例がいる可能性があり実態調査の範囲を広げていく必要がある
5) 先天性顆粒放出異常症の標準的診断および治療法を確立した。また将来的には遺伝子治療を含めた新たな治療法の開発が必要である
結論
先天性顆粒放出異常症の日本にける実態が初めて明らかになった。またその多くで遺伝子異常およびリンパ球機能の異常も解析された。

今後は合併症を中心にその病態を明らかにするとともに、各亜型の標準的診断法および治療法を確立していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231087B
報告書区分
総合
研究課題名
先天性顆粒放出異常症の病態解明と診断法の確立
課題番号
H23-難治-一般-109
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石井 榮一(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林正夫(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤本純一郎(国立成育医療研究センター)
  • 安川正貴(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 山本  健(九州大学生体防御医学研究所)
  • 金兼弘和(富山大学附属病院)
  • 八角高裕(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)目的:多くの病態を含む先天性顆粒放出異常症の実態を明らかにし、その診断と治療法を確立する
2)具体的な目的・目標:日本における先天性顆粒放出異常症の実態を明らかにし、その診断および治療法の開発を行う。具体的にはFHL、Chediak-Higashi 症候群を含めた全ての先天性顆粒放出異常症のデータ集積、検体保存、および遺伝子診断を含めた診断法と標準的治療法を確立する。さらに、ホームページを充実させ診断の手引きや治療プロトコールを公開する。また先天性顆粒放出異常症の一部の症例では原因遺伝子が不明であり、原因遺伝子の解明を進める。
研究方法
3.研究方法
1)全体計画
(1)先天性顆粒放出異常症の遺伝子異常の解明とリンパ球機能解析を行い、診断法の標準化とそれを用いた疾患層別化を開発する。同時に疾患特異的 iPS 細胞を樹立し、合併症発症メカニズムを明らかにする。
(2)診断基準を用いた治療研究を進める。
2)23年度の計画
(1)これまでの集計結果を基に、日本における先天性顆粒放出異常症を集計しデータベースを作成するとともに、データセンターを立ち上げ新規症例の登録を開始する。
(2)先天性顆粒放出異常症の診断法を確立する。さらに遺伝子が同定されていない症例では未知の遺伝子同定を網羅的発現解析を用いて行う。
(3)先天性顆粒放出異常症の診断に基づいた治療研究を開始する。病態から、造血幹細胞移植および免疫抑制剤、抗サイトカイン療法が中心となる。
3)24年度の計画
(1)日本における先天性顆粒放出異常症を集計し、同時に長期生存例における合併症を明らかにするため疾患特異的 iPS 細胞を樹立する。
(2)遺伝子が同定されていない症例では引き続き未知の遺伝子同定を網羅的発現解析を用いて行う。
(3)並行して既知の遺伝子異常を用いて、遺伝子治療を目的とした遺伝子導入実験を開始する。
(4)iPS 細胞を用いて各疾患の病態および合併症の発症機序を明らかにする。
(5)標準的診断および治療法による治療成績の向上および社会へのデータの還元を行い医療・福祉へ貢献をはかる。
結果と考察
1)疫学
先天性顆粒放出異常症の全国調査を行った。その結果、日本ではChediak-Higashi 症候群14例の存在が確認。
2)Chediak-Higashi 症候群
Chediak-Higashi 症候群は従来の報告にようにHLHをきたす症例は少なく、長期生存例では消化管合併症および中枢神経合併症が多かった。さらにリンパ球機能解析では CTL が低下し顆粒放出機能が欠損している症例があり、CTL 活性低下例は HLH 合併しやすいことが判明した。現在患者から iPS細胞を樹立し、消化管および中枢神経合併症の成因の解析を進めている。また白皮症がある家族発症例でChediak-Higashi 症候群特有の巨大顆粒がない症例を2家系同定し、現在 LYST を含めた遺伝子解析を進めている。
3)家族性血球貪食性リンパ組織球症(FHL)
FHLはHLH 全体で月1,2程度の登録がある。治療では80%の症例に非血縁臍帯血移植が行われ、骨髄非破壊的前処置を用いた非血縁臍帯血移植は副作用の少ない標準的治療になりうると考えられた。さらに、日本におけるFHLの各亜型の頻度は、FHL2 54%, FHL3 34%, FHL4 0%, FHL5 6%であった。顆粒放出解析ならびに CTL 活性の結果からは未知の遺伝子異常による FHL が10% 程度存在する。
4)X連鎖リンパ増殖症(XLP)
XLPはSAP 異常によるXLP1 と XLP 2が集積され、日本では XLP1 が多かった。XLP のリンパ球機能解析では、XLP1, XLP2 共に顆粒放出および CTL 活性は正常であることが明らかになった。
結論
(1)日本における先天性顆粒放出異常症の実態が明らかになった。またFHLでは副作用の少ない造血幹細胞移植療法の開発を達成できた。Chediak-Higashi 症候群では、HLH と神経および消化管合併症の実態を解析しCTL との関連性を明らかにすることが出来た。
(2)FHLで遺伝子異常が同定出来なかった症例で新たな遺伝子異常の同定を進めている。またChediak-Higashi 症候群の解析ではその実態解明と機能解析を行いある程度の成果は得られたものの、造血幹細胞移植では合併症の進行を防ぐことができず、新たな治療法の確立には至っていない。現在患者からiPS細胞を樹立し神経に分化させることによりその病態を解明しているところである。

公開日・更新日

公開日
2013-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231087C

成果

専門的・学術的観点からの成果
症例の集積、検体保存、および遺伝子解析を含めた診断方法に関するシステム構築は達成でき、日本における先天性顆粒放出異常症の実態が明らかになった。またFHLでは副作用の少ない造血幹細胞移植療法の開発を達成できた。Chediak-Higashi 症候群では、HLH と神経および消化管合併症の実態を解析しCTL との関連性を明らかにすることが出来た。
臨床的観点からの成果
FHL、Chediak-Higashi 症候群とXLPを含めた全ての先天性顆粒放出異常症のデータ集積、検体保存、および遺伝子診断を含めた診断法と標準的治療法を確立した。さらに、診断の手引きや治療プロトコールを公開し医師や市民を啓蒙している。
ガイドライン等の開発
本研究で開発された診断ガイドラインは
1.確定診断
NK 細胞および細胞傷害活性T細胞(CTL)の顆粒放出傷害を認めること
または以下の原因遺伝子異常が同定されている
PRF1, UNC13D,STXBP2, LYST, RAB27a, AP3B1
2.臨床診断
易感染性、色素脱失(毛髪、皮膚)、血球貪食症候群、悪性リンパ腫、自己免疫疾患
の1つ以上を繰り返し、かつ他の疾患が否定できること
3.参考となる検査基準
NK 活性低下、フェリチン高値、sIL2R 高値、好中球・リンパ球の巨大顆粒

その他行政的観点からの成果
先天性顆粒放出異常症における遺伝子解析を用いた治療法の確立は、他の先天性の血液・免疫疾患の速やかでかつ正確な診断法の実施に結びつく。そのことは、誤った治療薬の使用を防ぐことにつながり医療費の削減に結びつく。またこれらの結果は最終的には小児医療全体の発展につながり国民全体の医療・福祉の向上に貢献できるものと考えられる。
その他のインパクト
先天性顆粒放出異常症は、iPS 細胞を用いた研究の1つであり、愛媛大学小児科はその拠点病院として愛媛新聞に紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2013-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231087Z