難治頻回部分発作重積型急性脳炎の病態解明のための包括的研究

文献情報

文献番号
201231086A
報告書区分
総括
研究課題名
難治頻回部分発作重積型急性脳炎の病態解明のための包括的研究
課題番号
H23-難治-一般-107
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐久間 啓(公益財団法人東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 田沼 直之(東京都立府中療育センター 小児科)
  • 九鬼 一郎(大阪市立総合医療センター 小児神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)は,主に学齢期の小児に見られる原因不明の脳炎である.極めて難治かつ頻回の部分けいれんが数ヶ月にわたって持続し,長期間のバルビタール麻酔によるけいれん抑制を要する.難治てんかん・知的障害を残し予後は不良である.我々は2001年に両者を包括した概念としてAERRPSを提唱し,最近は国際的にも認知されつつある.最近ヨーロッパ諸国より類似した病態がfebrile infection-related epilepsy syndrome (FIRES)という名称で相次いで報告されている.
AERRPSの原因は全く不明であり,てんかんであるのか脳炎であるのかという基本的な疑問すら解決されていない.本疾患の動物モデルは知られていないことから,その病態を解明するためには症例をベースとした臨床志向型研究が必須である.本疾患は比較的稀な疾患であり,検討に十分なサンプルサイズを確保するためには全国規模の大規模臨床研究を実施する必要がある.
そこで本研究はAERRPSの症例を前方視的に全国から集積し,血清・髄液等のサンプルを用いて主に免疫学的な観点からバイオマーカーの検索を行うことを目的とした.
研究方法
AERRPS罹患した患者を対象とした.抗神経抗体は免疫組織化学法および免疫細胞化学法により検討した.血清および髄液中のサイトカインとしてはIFNγ, IL-1β,IL-6, IL-10, IL-12p70, TNFαの6種類をcytometric bead array法により測定した.
本研究は国立精神・神経医療研究センター倫理委員会,東京都医学総合研究所倫理審査を受審し承認を得た.また本研究は多施設共同臨床研究として日本小児神経学会共同研究支援委員会による支援を受けた.
結果と考察
AERRPSに罹患し血清と髄液が得られた11例を対象とし,非炎症性のてんかん患者24例(うち11例で髄液が検索可能)およびAERRPS以外の炎症性神経疾患11例(前例で髄液が検索可能)と比較した.ラット脳を用いた免疫組織化学法では,11例中2例の血清で神経細胞が陽性に染色された.うち1例では免疫細胞化学法により自己抗体は抗NMDA受容体抗体であることが確認された.残る1例では既知の抗神経抗体はいずれも陰性であり,未知の抗神経抗体であると考えられた.なおAERRPS以外のてんかんでは抗神経抗体は検出されなかった.
血清・髄液中サイトカイン解析では,血清ではいずれの測定項目においても三群間に有意差を認めなかった.髄液ではIL-6がてんかん群<炎症性神経疾患群<AERRPS群の傾向を示し,てんかん群とAERRPS群との間に有意差を認めた(P<0.05).IFNγ,IL-1β,IL-10,IL-12p70,TNFαに関しては三群間で差を認めなかった.
AERRPS症例の血清において神経細胞に対する自己抗体が比較的高頻度に認められた.標的抗原は単一ではなく,これらの自己抗体が疾患の発症の直接的な原因ではないが,AERRPSの発症に免疫学的異常が関与することを示す証拠と解釈できる.また髄液中IL-6が高値を示したことも,中枢神経系の炎症の存在を示唆し,本疾患の病態を考える上で重要な所見である.
結論
 AERRPSにおいて中枢神経系の炎症が存在することが明らかとなった.これらの知見は中枢神経系の免疫学的異常が,AERRPSというけいれんを主徴とする病態における重要な治療標的となることを示唆している.

公開日・更新日

公開日
2013-05-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201231086B
報告書区分
総合
研究課題名
難治頻回部分発作重積型急性脳炎の病態解明のための包括的研究
課題番号
H23-難治-一般-107
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐久間 啓(公益財団法人東京都医学総合研究所 脳発達・神経再生研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 義朗(国立精神・神経医療研究センター病院 小児神経科)
  • 田沼 直之(東京都立府中療育センター 小児科)
  • 九鬼 一郎(大阪市立総合医療センター 小児神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治頻回部分発作重積型急性脳炎(acute encephalitis with refractory, repetitive partial seizures; AERRPS)は,主に学齢期の小児に見られる原因不明の脳炎である.極めて難治かつ頻回の部分けいれんが数ヶ月にわたって持続し,長期間のバルビタール麻酔によるけいれん抑制を要する.難治てんかん・知的障害を残し予後は不良である.原因は全く不明で,てんかん説(一部の患者でSCN1A等のてんかん感受性遺伝子の異常あり)と脳炎説(抗VGKC複合体抗体をはじめとする抗神経抗体の関与を示唆する報告あり)が提唱されているが結論は出ていない.本研究はAERRPS症例を全国から集積し,アンケートに基づきその臨床像を明らかにするとともに,血清・髄液を用いて免疫学的な観点からバイオマーカーを検索することを目的とした.
研究方法
AERRPSの診断基準を見たし研究参加に同意が得られた患者を対象とした.臨床情報は主治医が記載したアンケートを基に解析した.抗神経抗体は免疫組織化学法および免疫細胞化学法により検討した. 血清および髄液中のサイトカインはcytometric bead array法により測定した.
結果と考察
AERRPSの臨床像はヨーロッパから報告されているfever-induced refractory epilepsy syndrome(FIRES)の臨床像と概ね一致し,両者はほぼ同一の疾患概念と推定された.具体的には疫学的特徴として5歳前後の男児に多いこと,けいれん発作型として顔面中心の部分発作が多いこと,多くの症例で髄液細胞増加を認めること,MRIの異常所見は大脳皮質・海馬・前障・視床・基底核など様々であること,大部分の例でバルビタール酸大量静注療法と免疫調整療法が行われていること,予後は依然不良であるが最近は完全回復する例も見られるようになったことなどが明らかになった.一部の症例の血清中に抗神経抗体が同定され,また髄液中の炎症性サイトカインが高値を示すなど,炎症の関与を示唆する結果が得られた.
結論
AERRPSとFIRESの臨床的特徴はほぼ一致することが確認された.抗神経抗体や血清・髄液中サイトカインの解析を通じて AERRPSにおいて中枢神経系の炎症が存在することが明らかとなった.これらの知見は中枢神経系の免疫学的異常が,AERRPSというけいれんを主徴とする病態における重要な治療標的となることを示唆している.

公開日・更新日

公開日
2013-05-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231086C

成果

専門的・学術的観点からの成果
AERRPS症例の血清において神経細胞に対する自己抗体が比較的高頻度に認められた.これらの自己抗体が疾患の発症の直接的な原因ではないと考えられるが,AERRPSの発症に免疫学的異常が関与することを示す重要な証拠が得られた.また髄液中の一部のサイトカインが高値を示したことも,中枢神経系の炎症の存在を示唆し,本疾患の病態を考える上で重要な所見である.
臨床的観点からの成果
抗神経抗体の存在,脳病理所見,脳機能画像における異常などの知見は,本疾患の臨床診断における補助的所見として応用できる.また髄液中サイトカイン濃度は本疾患の有用なバイオマーカーとして注目される.
ガイドライン等の開発
AERRPSの臨床的特徴に基づき診断基準を作成した.診断基準の作成により本疾患の診断が標準化され,今後の更なる検討に役立つと考えられる.治療ガイドラインの策定に関しては今後の課題である.
その他行政的観点からの成果
本研究を通じてAERRPSという極めて稀少な疾患に対して,症例の登録から臨床情報の収集,炎症メディエーターや抗神経抗体の解析から基礎研究まで系統的に行う体制のモデルが確立されたと考えている.
その他のインパクト
本研究を通じてAERRPSという疾患に対する国際的関心が高まり,診断基準や病態について討論や多国間共同研究を行うための下地が作られた.2013年度は海外のAERRPS/FIRES研究者を招待して本疾患をテーマとした国際シンポジウムを日本で開催する予定である.

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2013-05-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231086Z