文献情報
文献番号
199800131A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんの予防に役立つ物質に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
藤木 博太(埼玉県立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 菅沼雅美(埼玉県立がんセンター研究所)
- 末岡榮三朗(埼玉県立がんセンター研究所)
- 中地敬(埼玉県立がんセンター研究所)
- 赤木究(埼玉県立がんセンター研究所)
- 岡部幸子(埼玉県立がんセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1987年、緑茶の主成分(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)がマウス皮膚の発がんプロモーション活性を抑制することを発表した。その後、緑茶はヒトがんの予防に役立つ物質として注目されている。私共は緑茶を日本ではがん予防物質、或いは、外国ではがん予防薬として進めていく上で、必要とされる実験データ及びコホート研究による臨床疫学的データの検討を目的として研究を進めた。特に、緑茶とがん予防薬sulindacとの相乗効果、及び、緑茶の飲用が乳がん患者(I とII期)の再発予防に与える影響について詳細な検討をすることを目的とした。南カリフォルニア大学のB. E. Henderson博士の1985年の論文によると、フィジー島のメラネシア人は、がんの発生頻度が、他の島に比較して低いとの報告がある。特に、肺、胃、乳腺、前立腺のがんは低い。“何故フィジーは肺がんが低いのか、フィジーの人は何を食べ、何を飲んでいるのか"の検討から始めた。太平洋の島々の中で、フィジーの人はカバ(別名ヤンゴーナ)を飲用する。カバの中にがん予防物質が含まれているか検討を進め、まず2個のカバラクトンを分離した。このカバラクトンについてがん予防効果があるか研究することも目的とした。
研究方法
1)3H-EGCGのヒト肺がん細胞株PC-9細胞への取り込み:PC-9細胞を100 microM 3H-EGCG及び、いろいろな濃度の緑茶ポリフェノールを加え37℃で1時間培養した。その後、細胞内に取り込まれた3Hのカウントを測定した。緑茶ポリフェノールは、EGCG、ECG、EGC、ECについて検討した。2)PC-9細胞のアポトーシスに及ぼす効果:PC-9細胞を、ECとEGCGをそれぞれ単独、及び、sulindacとtamoxifenをそれぞれ単独、更には、EC+EGCG、EGCG+sulindac、EGCG+tamoxifenによるアポトーシスの誘導を、DNAの断片化を指標にELISA法で測定した。3)緑茶の飲用が乳がんの再発に及ぼす効果:1984
~1993年に手術目的で埼玉県立がんセンター病院に入院した原発乳がん患者472人(I期117人、 II期273人、 III期82人)を対象とし、入院時に緑茶飲用を含む生活習慣・ホルモン関連事項(初潮年齢、閉経年齢、出産など)に関する疫学面接調査を行った。さらに、この乳がん患者コホートの追跡調査(平均観察期間6.5年)により、123人の再発が確認された。4)カバのがん予防効果 :フィジー島より入手したカバ粉末をメタノールで抽出した。得られた抽出物はシリカゲルクロマトグラフィーで分離し、まず2個のカバラクトンを得た。次にBALB/3T3細胞に発がん促進物質オカダ酸を処理すると、培養上清中にTNF-alphaが遊離する。この系にカバラクトンをオカダ酸を処理する1時間前に添加し、24時間後の培養液へのTNF-alpha遊離が抑制されるかELISA法を用いて測定した。
~1993年に手術目的で埼玉県立がんセンター病院に入院した原発乳がん患者472人(I期117人、 II期273人、 III期82人)を対象とし、入院時に緑茶飲用を含む生活習慣・ホルモン関連事項(初潮年齢、閉経年齢、出産など)に関する疫学面接調査を行った。さらに、この乳がん患者コホートの追跡調査(平均観察期間6.5年)により、123人の再発が確認された。4)カバのがん予防効果 :フィジー島より入手したカバ粉末をメタノールで抽出した。得られた抽出物はシリカゲルクロマトグラフィーで分離し、まず2個のカバラクトンを得た。次にBALB/3T3細胞に発がん促進物質オカダ酸を処理すると、培養上清中にTNF-alphaが遊離する。この系にカバラクトンをオカダ酸を処理する1時間前に添加し、24時間後の培養液へのTNF-alpha遊離が抑制されるかELISA法を用いて測定した。
結果と考察
1)緑茶には4種類の緑茶ポリフェノール(EGCG、ECG、EGC、とEC)が
含まれている。ECG, EGCG, EGCの順でヒト肺がん細胞株PC-9細胞の増殖を抑制し、EC
には抑制効果はなかった。2)この実験結果を基に、3H-EGCGのPC-9細胞への取り込み
に及ぼす緑茶ポリフェノールの影響を検討した。ECGとEGCは非放射活性のEGCGと同
様に取り込みを阻害し、EGCGと同様に細胞に取り込まれることが推測された。一方、ECは逆にその取り込みを促進した。この結果からECはガロイール基をもつ3種類の緑茶ポリフェノールの取り込みを促進し、その作用を亢進すると考えられた。3)ECの促進作用を証明するために、EGCGがPC-9細胞のアポトーシスを誘導することを指標とした。ECは200 microMまでほとんどアポトーシスを誘導しなかった。75 microM EGCGによるアポトーシスはECの添加によって濃度依存性に、しかも相乗的に促進した。この結果は、ECがEGCGの細胞内取り込みを促進し、又、EGCGの作用を亢進したと解釈した。ECがガロイール基を含む緑茶ポリフェノールの取り込みを促進し、それらの作用も亢進することが初めて見出され、緑茶抽出物そのものの重要性が確認された。4)次に、EGCGとがん予防薬sulindac、或いは、EGCGとsulindac sulfide、及びEGCGとtamoxifenについて相乗効果を検討した。sulindacは200 microMまでほとんどアポトーシスを誘導しなかった。しかし、75 microM EGCGにsulindacを添加すると、濃度に依存してアポトーシスの誘導は促進した。例えば、10 microM sulindac+75 microM EGCGはそれぞれの単独の場合の20倍も強く促進した。5)EGCGとtamoxifenの併用効果は、相乗効果ではなく、むしろ、相加効果として認めることができた。いづれにしろ、がん予防薬が緑茶ポリフェノールと共にアポトーシスの誘導を相乗的、相加的に促進することが初めて示された。Sulindacは大腸がんの予防薬として、tamoxifenは乳がんの予防薬として投与されているので、EGCGの相乗的、相加的効果は大腸がんでも、乳がんにでも期待できる。特にsulindacで度々報告されていた副作用は、緑茶飲用によって減量できると思われる。今後、大腸がん患者、及び乳がん患者について緑茶の飲用と、sulindac或いはtamoxifenの併用効果を検討することは重要であると思われる。6)緑茶の飲用量と乳がんの臨床的特性の関係を検討した。緑茶飲用量と乳がん組織のエストロゲンレゼプター蛋白の発現量は、飲用量に伴い増加する(P=0.07)。また、閉経後患者のプロゲステロンレセプター蛋白の発現量は、やはり飲用量に依存して増加する(P<0.05)。さらに、閉経前患者の転移腋窩リンパ節数は、緑茶飲用量の増加に伴い減少する(P<0.05)。しかし、この関係はI期・II期の乳がんにのみ認められ、III期乳がんでは見出されなかった。7) これらの臨床特性は乳がんの重要な予後因子であることから、再発との関連を検討した。一日の緑茶飲用量5杯以上(平均8杯)と4杯以下(平均2杯)に患者を分けた粗再発率は、I・II期合わせてそれぞれ16.7% (35/209) 及び24.3% (44/181)であった (P<0.05)。III期では再発率に違いはなかった。8) 緑茶飲用と外科以外の治療に関連がないことを確かめた上で、面接調査で得たすべての疫学因子を考慮して、乳がん再発の相対危険を検討した。I・II期乳がんでは、緑茶5杯以上の患者は4杯以下に比べ相対危険は0.564 (95%信頼区間0.350-0.911)であった。がん治療後のがん予防を目的としても、緑茶の飲用が予後に重要な影響を与えることが初めて示された。9)カバ粉末から得られたメタノール抽出液は、オカダ酸で誘導されるBALB/3T3細胞からのTNF-alpha遊離を抑制した。メタノール抽出物は、シリカゲルクロマトグラフィーで分離した論文によると、約20種類の化合物の混合物であると報告がある。私共は精製を進め、主成分であるKAVA-1とKAVA-2を単離した。KAVA-1とKAVA-2は濃度依存性にTNF-alphaの遊離を抑制することを見出した。KAVA-1とKAVA-2は、がん予防薬として注目されている緑茶抽出物の主成分EGCGと、ほぼ同等の活性を持つことが示された。カバから精製したカバラクトンのTNF-alpha遊離を抑制する活性が緑茶と同様に強いことは、更に研究を進めるに価すると考える。
含まれている。ECG, EGCG, EGCの順でヒト肺がん細胞株PC-9細胞の増殖を抑制し、EC
には抑制効果はなかった。2)この実験結果を基に、3H-EGCGのPC-9細胞への取り込み
に及ぼす緑茶ポリフェノールの影響を検討した。ECGとEGCは非放射活性のEGCGと同
様に取り込みを阻害し、EGCGと同様に細胞に取り込まれることが推測された。一方、ECは逆にその取り込みを促進した。この結果からECはガロイール基をもつ3種類の緑茶ポリフェノールの取り込みを促進し、その作用を亢進すると考えられた。3)ECの促進作用を証明するために、EGCGがPC-9細胞のアポトーシスを誘導することを指標とした。ECは200 microMまでほとんどアポトーシスを誘導しなかった。75 microM EGCGによるアポトーシスはECの添加によって濃度依存性に、しかも相乗的に促進した。この結果は、ECがEGCGの細胞内取り込みを促進し、又、EGCGの作用を亢進したと解釈した。ECがガロイール基を含む緑茶ポリフェノールの取り込みを促進し、それらの作用も亢進することが初めて見出され、緑茶抽出物そのものの重要性が確認された。4)次に、EGCGとがん予防薬sulindac、或いは、EGCGとsulindac sulfide、及びEGCGとtamoxifenについて相乗効果を検討した。sulindacは200 microMまでほとんどアポトーシスを誘導しなかった。しかし、75 microM EGCGにsulindacを添加すると、濃度に依存してアポトーシスの誘導は促進した。例えば、10 microM sulindac+75 microM EGCGはそれぞれの単独の場合の20倍も強く促進した。5)EGCGとtamoxifenの併用効果は、相乗効果ではなく、むしろ、相加効果として認めることができた。いづれにしろ、がん予防薬が緑茶ポリフェノールと共にアポトーシスの誘導を相乗的、相加的に促進することが初めて示された。Sulindacは大腸がんの予防薬として、tamoxifenは乳がんの予防薬として投与されているので、EGCGの相乗的、相加的効果は大腸がんでも、乳がんにでも期待できる。特にsulindacで度々報告されていた副作用は、緑茶飲用によって減量できると思われる。今後、大腸がん患者、及び乳がん患者について緑茶の飲用と、sulindac或いはtamoxifenの併用効果を検討することは重要であると思われる。6)緑茶の飲用量と乳がんの臨床的特性の関係を検討した。緑茶飲用量と乳がん組織のエストロゲンレゼプター蛋白の発現量は、飲用量に伴い増加する(P=0.07)。また、閉経後患者のプロゲステロンレセプター蛋白の発現量は、やはり飲用量に依存して増加する(P<0.05)。さらに、閉経前患者の転移腋窩リンパ節数は、緑茶飲用量の増加に伴い減少する(P<0.05)。しかし、この関係はI期・II期の乳がんにのみ認められ、III期乳がんでは見出されなかった。7) これらの臨床特性は乳がんの重要な予後因子であることから、再発との関連を検討した。一日の緑茶飲用量5杯以上(平均8杯)と4杯以下(平均2杯)に患者を分けた粗再発率は、I・II期合わせてそれぞれ16.7% (35/209) 及び24.3% (44/181)であった (P<0.05)。III期では再発率に違いはなかった。8) 緑茶飲用と外科以外の治療に関連がないことを確かめた上で、面接調査で得たすべての疫学因子を考慮して、乳がん再発の相対危険を検討した。I・II期乳がんでは、緑茶5杯以上の患者は4杯以下に比べ相対危険は0.564 (95%信頼区間0.350-0.911)であった。がん治療後のがん予防を目的としても、緑茶の飲用が予後に重要な影響を与えることが初めて示された。9)カバ粉末から得られたメタノール抽出液は、オカダ酸で誘導されるBALB/3T3細胞からのTNF-alpha遊離を抑制した。メタノール抽出物は、シリカゲルクロマトグラフィーで分離した論文によると、約20種類の化合物の混合物であると報告がある。私共は精製を進め、主成分であるKAVA-1とKAVA-2を単離した。KAVA-1とKAVA-2は濃度依存性にTNF-alphaの遊離を抑制することを見出した。KAVA-1とKAVA-2は、がん予防薬として注目されている緑茶抽出物の主成分EGCGと、ほぼ同等の活性を持つことが示された。カバから精製したカバラクトンのTNF-alpha遊離を抑制する活性が緑茶と同様に強いことは、更に研究を進めるに価すると考える。
結論
緑茶の飲用によるがん予防効果を、通常のがん治療と一緒に考えてみた結果、私共はがん治療前期(がん発症前)のがん予防と、がん治療後のがん予防に分けることが可能であると考える。しかも、緑茶の飲用は両方の段階にも有効であることを見出
した。
した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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