NOD2変異に関連した全身性炎症性肉芽腫性疾患(ブラウ症候群/若年発症サルコイドーシス)の診療基盤促進

文献情報

文献番号
201231082A
報告書区分
総括
研究課題名
NOD2変異に関連した全身性炎症性肉芽腫性疾患(ブラウ症候群/若年発症サルコイドーシス)の診療基盤促進
課題番号
H23-難治-一般-103
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神戸 直智(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 松江 弘之(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 池田 啓(千葉大学 医学部附属病院)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
  • 武井 修治(鹿児島大学 医学部)
  • 西小森隆太(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族歴のあるブラウ症候群および個発例の若年発症サルコイドーシスは,NOD2遺伝子の変異を背景に肉芽腫を来たし,本研究事業では「全身性炎症性肉芽腫性疾患」と総称する。細胞内でのパターン認識に関わるNOD2遺伝子の活性化が肉芽腫を形成させる機序は明らかでなく,疾患概念が浸透しておらず病勢を進行させている印象を抱いた。本事業では,疾患概念の浸透を図るとともに遺伝子診断の機会を提供すること,患者検体でのNOD2活性化を検証し病態を明確化すること,生物製剤を投与された症例の臨床情報を解析すること,関節エコーによる観察が臨床評価に有用であるかを検討することを目的とした。
研究方法
欧州で先行する患者登録システムと整合性のある形で患者登録システムを構築するため,登録基準と我々の3年間の本事業で作成した診断基準との摺り合わせを行った。また,収集した患者情報を基に,これを包括する形で作成した診断基準を活かして診断フローチャートを作成した。
臨床症状がから本症として疑われる症例に関しては,引き続き遺伝子診断の機会を提供した。
生物製剤の有用性に対する評価は,診療録から臨床所見や検査データを後方視的に収集し,その変化を検討した。関節炎病態の変化については,関節痛,関節腫脹,手背足背の嚢腫状腫脹,指趾の屈曲拘縮の項目に,また全身の炎症病態については倦怠感と結節性紅斑の項目に分けて検討し,理学所見や自覚症状を評価した。ブドウ膜炎の活動性については,前眼部(前房内炎症,虹彩癒着),硝子体混濁,後眼部(乳頭浮腫,網膜血管炎)等の所見や,1日のステロイド点眼回数(両眼の合計)を総合して評価した。投与された生物製剤の有効性については,その累積継続率でも評価した。
また,遺伝子診断の確定している8症例を関節エコーで網羅的に評価した。部位は40関節(DAS28関節+足関節+MTP関節)における100滑膜部位(関節滑膜/腱鞘滑膜/滑液包)を評価し,それぞれグレースケールとパワードプラ・シグナルを半定量的に評価した。超音波機器は日立メディコ社HI VISION Ascendus,探触子はリニア型マルチ周波数プローブを使用した。
分子活性に着目した病態解析のため,末梢血を採取し,比重遠沈にて単核球を分離後,磁気ビーズを用いてCD14陽性細胞を単離, NOD2遺伝子を誘導するためビタミンD3を添加し,発現するmRNAを抽出して網羅解析を行い,健常者と比較した。
結果と考察
患者から同定された疾患特異的NOD2遺伝子変異の性質として,強制発現系においてリガンド非依存性にNF-κBの転写亢進がみられることが再確認された。しかしながら,患者から分離培養した末梢血を用いた検討では,NF-κBの転写亢進を示唆する所見は同定できず,未だ病態解析に結びつけられる様な治験を得るには至っていない。
臨床面では,抗TNFモノクローナル抗体製剤による治療は有効であり,特に関節炎,倦怠感や皮膚の結節性紅斑といった全身性の炎症病態,さらにはブドウ膜炎の改善を確認できた。
また,関節病変の主体が腱鞘滑膜炎であることが確認され,特に手関節および足関節では高頻度に腱鞘滑膜炎を認めることが示された。一方,炎症が回避される腱鞘滑膜部位があること,腱鞘滑膜炎よりも頻度は落ちるが,明らかな関節滑膜炎も認められた。さらに,患者全体の滑膜炎の疾患活動性はDAS28-ESRのようなcomposite scoreに反映されること,その一方で個々の関節部位の病変を診察で正確に評価することには限界があることが示唆された。本症でみられる炎症が,特定の腱鞘滑膜で回避され,特定の関節滑膜で惹起されること,画像上関節リウマチと同様の所見を呈しながら無痛性であることは興味深い。ブラウ症候群/EOSの関節病変が無痛性であることは患児のQOL上は良い点であるが,不可逆性の関節変形を予防するための治療介入が遅れる要因ともなっているという現状がある。個々の関節変形を防ぐため,より細やかな治療戦略の確立には,関節エコーによる病態評価が有用となり得ると考えた。
結論
このように,本研究事業を通じて明らかになったことは少なくなく,本症が特徴的な臨床像を呈することから,医療関係者等の関心を高めることができれば,適切な医学的対応が可能となり,生活に支障を来す重度障害の予防ができると思われる。このため,疾患の紹介と情報提供を今後も継続して行う必要があると考えた。本年度(平成24年度)より,「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立に関する研究班(研究代表者:平家俊男・京都大学大学院医学研究科発達小児科学・教授)が組織されており,我々の研究班もこれに分担研究者として加わり,本研究事業での成果を引き継ぎ,継続していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231082B
報告書区分
総合
研究課題名
NOD2変異に関連した全身性炎症性肉芽腫性疾患(ブラウ症候群/若年発症サルコイドーシス)の診療基盤促進
課題番号
H23-難治-一般-103
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神戸 直智(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 松江 弘之(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 池田 啓(千葉大学 医学部附属病院)
  • 武井 修治(鹿児島大学 医学部)
  • 西小森 隆太(京都大学 大学院医学研究科)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族歴のあるブラウ症候群および個発例の若年発症サルコイドーシスは,NOD2遺伝子の変異を背景として明らかな外因性因子の存在なしに肉芽種を来す疾患である。本疾患の病態はいまだ明らかでなく、疾患概念の浸透も不十分である。本研究事業では1)診断基準の作成と、2)治療法の確立を目指した。具体的には、1-1) 日本での実態調査を行うことで臨床像を明確化するとともに疾患概念の浸透を図ること,1-2) 遺伝子診断の機会を提供するとともに同定した変異が病気の発症に関わるものであるかを判断する系を確立すること,1-3) 収集した臨床情報から診断基準を作成するとともに国際共同研究が可能な形でデータベース化して将来的な病態解析へと繋げることを目指した。さらに,有効な治療法の確立のために,2-1) 関節エコーを用いて関節病変の病態を明らかとして治療介入戦略の基盤を構築するとともに,2-2) 生物学的製剤の有効性を検証した。2-3) 長期的な目標としては,肉芽腫形成の分子機序を明らかにし本症に対する分子メカニズムに基づいた治療法の確立を目指した。
研究方法
1-1)日本での実態調査(疾患概念の浸透)を全国の主要診療施設に対して,平成22年度は小児科,皮膚科,眼科,内科を対象に,平成23年度は眼科対象にアンケートを送付し行った。
1-2)臨床症状から本症例が疑われる症例に対して遺伝子診断の機会を提供し、NOD2の全エクソンの遺伝子配列の解析を行った。
1-3)診収集した臨床情報を基に,診断基準を作成した。特に,疾患別登録基準の作成に関しては,欧州で先行する患者登録システムであるEurofeverと整合性のある形で患者登録システムを構築した。
2-1) 遺伝子診断にて診断が確定している症例に対して、関節エコーによる関節の網羅的評価を行った。
2-2) 生物学的製剤の有効性について,NOD2変異が証明され長期経過観察中のEOSのうち,継続的な評価が可能であった症例を対象として,関節炎、全身性炎症症状、ぶどう膜炎について評価を行った。
2-3) 分子活性に着目した病態解析のため、末梢血を採取し、比重遠沈にて単核球を分離後、磁気ビーズを用いてCD14陽性細胞を単離、NOD2遺伝子を誘導するためビタミンD3を添加し、発現するmRNAを抽出して網羅解析を行い、健常者と比較した。
結果と考察
全国の500床以上の病院(内科,小児科,整形外科,皮膚科)を対象にアンケートを送付(回収率:41.0%)し,診断確定例28例,疑い症例12例という結果を得た。眼科を対象とした検討(回収率:34.0%)では,診断確定例15例,家族歴あるいは関節症状を認める症例8例,疑い症例3例という結果を得た。
同定した遺伝子変異は, R334W 12例,R587C 6例,R334Q 4例,E383G 2例,D382E,G481D,C495Y,H496L,M513T,Tr605P,N670K,6塩基欠失変異(E498V, 499-500del)はいずれも1症例ずつであった。同定されたいずれの変異もin vitroの293T細胞での強制発現系において,NF-κBの活性化を確認できた。
また,診断基準(暫定案)を作成するとともに,患者登録のための本邦での登録基準を作成した。また,患者登録を円滑に進めるため,診断フローチャートを作成した。
関節エコーを関節病変の評価では,手関節および足関節では高頻度に腱鞘滑膜炎を認めることが示された。一方,炎症が回避される腱鞘滑膜部位があること,関節滑膜炎も散見されることが分かった。個々の関節部位の病変を診察で正確に評価することは困難であり,関節エコーによる病態評価が有用と考えられた。本症に対する生物製剤の有効性を検証した結果からは,抗TNFα抗体製剤は本症の関節炎,全身性炎症病態,ブドウ膜炎に対し有効であり,特に,ブドウ膜炎未発症の症例では13歳に達しても眼症状を発症しなかった。
NOD2変異が肉芽腫を誘導する分子学的機序の解明を目指して検討を継続しているが,残念ながら,特筆すべき成果は現時点では得られていない。
結論
本研究事業を通じて明らかになったことは少なくなく,本症が特徴的な臨床像を呈することから,医療関係者等の関心を高めることができれば,適切な医学的対応が可能となり,生活に支障を来す重度障害の予防ができると思われる。このため,疾患の紹介と情報提供を今後も継続して行う必要があると考えた。平成24年度より,厚生労働省難治性疾患克服研究事業として「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立に関する研究班(研究代表者:平家俊男・京都大学大学院医学研究科発達小児科学・教授)が組織されており,本研究事業での成果を引き継ぎ,継続していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231082C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本疾患の原因遺伝子であるNOD2は,蕁麻疹を表現形とするクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)の原因遺伝子であるNLRP3と相同性が高く,強制発現系ではNLRP3同様に,リガンド非存在下で自己活性化する事が確認された。すでに抗IL-1療法という有効な治療法が臨床応用されているCAPSにならい,NLRP3のIL-1βに相当する治療のターゲットとなる因子を同定することで有効な治療法が提唱できるものと期待し,研究を継続している。
臨床的観点からの成果
関節背面の嚢腫様腫脹といった臨床症状の特徴を明らかにすることができた。本症に対して抗TNFモノクローナル抗体製剤による治療は有効であり,特に関節炎,倦怠感や皮膚の結節性紅斑といった全身性の炎症病態,さらにはブドウ膜炎の改善を確認できた。また,関節病変の主体が腱鞘滑膜炎であることが確認され,特に手関節および足関節では高頻度に腱鞘滑膜炎を認めることが示されたとともに,活動性を評価する上での関節エコーの有用性を確認できた。
ガイドライン等の開発
本事業で収集した患者情報に基づいて,「NOD2変異に関連した全身性炎症性肉芽腫性疾患(Blau症候群/若年発症サルコイドーシス)診断基準」として発表した。
「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」班(研究代表者:平家俊男・京都大学・教授)との分担研究として,欧州の患者登録システムと整合性をもち,相互参照が可能となる形で患者登録システムを整備するとともに,診断フローチャートを作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究班で策定された「NOD2変異に関連した全身性炎症性肉芽腫性疾患(Blau症候群/若年発症サルコイドーシス)診断基準」は、Blau症候群/若年発症サルコイドーシスを小児慢性特定疾患治療研究事業対象疾患への組み入れを検討する協議会において利用された。
その他のインパクト
厚生労働省の本事業と文部科学省が共同で進めるiPS細胞を用いた難病治療研究において,血液疾患(主機関・京都大学・中畑龍俊)の1研究分野として採択された。同意を得て患者より末梢血を入手し疾患特異的iPS細胞を樹立し,この細胞を単球系細胞へと分化誘導することで病態解析に貢献した。現在も解析を継続中である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura Y, Kambe N
Linkage of bacterial colonization of skin and the urticaria-like rash of NLRP3-mediated auto- inflammatory syndromes through mast cell- derived TNF-α.
J Dermatol Sci. , 71 (2) , 83-88  (2013)
doi: 10.1016/j.jdermsci.2013.04.009
原著論文2
Kanazawa N, Tchernev G, Kambe N.
Monogenic early-onset sarcoidosis is no longer a variant of “idiopathic” sarcoidosis.
J Am Acad Dermatol. , 69 (1) , 164-165  (2013)
doi: 10.1016/j.jaad.2012.12.976
原著論文3
金澤伸雄
サルコイドーシス.
Monthly Book Derma デルマ.  (2013)
原著論文4
中野倫代,神戸直智.
皮膚と自己炎症性機序による肉芽腫性疾患.
医学のあゆみ. , 242 , 791-794  (2012)
原著論文5
金澤伸雄.
NOD2関連疾患.
炎症と免疫. , 20 , 517-522  (2012)
原著論文6
Ikeda K, Kambe N, Takei S, et al.
Ultrasonographic assessment reveals detailed distribution of synovial inflammation in Blau syndrome
Arthritis Res Ther. , 16 (2) , R89-  (2014)
doi: 10.1186/ar4533
原著論文7
Ikeda K, Kambe N, Satoh T, Matsue H, Nakajima H.
Preferentially inflamed tendon sheaths in the swollen but not tender joints in a 5-year-old boy with Blau syndrome.
J Pediatr. , 163 (5) , 1525-  (2013)
doi: 10.1016/j.jpeds.2013.05.059

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231082Z