レリーワイル症候群の診断法確立と治療指針作成

文献情報

文献番号
201231076A
報告書区分
総括
研究課題名
レリーワイル症候群の診断法確立と治療指針作成
課題番号
H23-難治-一般-097
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
深見 真紀(独立行政法人国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方 勤(浜松医科大学 )
  • 宮崎 治(国立成育医療研究センター )
  • 長谷川 奉延(慶應義塾大学 小児科)
  • 関 敦仁(国立成育医療研究センター )
  • 長谷川 行洋(東京都立小児総合医療センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
レリーワイル症候群 (LWS) は関節可動域制限、疼痛、成長障害により生涯にわたるQOL低下を招く難病であるにもかかわらず、実態が不明であり、診断法と治療指針が確立されていない。
本研究班はH22年度に1)82例の患者を把握し、本症の発症頻度に男女差が存在することを明確とした。2)SHOX周辺領域を対象としたアレイCGHシステムを構築し、新規欠失を見出した。3)橈骨楔状骨片組み換え法を開発し、本法が短期的にQOLを改善することを明確とした。4)成長ホルモン投与が短期的に成長障害を改善することを明らかとした。5)ホームページと国際データベースを介した情報発信を開始した。
H23年度は、上記の成果に基づき、新規患者の遺伝子解析、本症に特徴的な画像所見の明確化、現行治療法の評価を行った。H24年度は、上記の成果を発展させ、下記の研究を行った。
研究方法
1. 分子遺伝学的解析:カスタムアレイCGH 法, MuMLPA法などを組み合わせた効率的変異スクリーニング法について検討した。
2. 疫学二次調査:初年度に行った全国疫学一次調査で「患者あり」と回答した47施設の主治医に調査票を送付し、患者の詳細な臨床データを集積した。
3. 画像解析:臨床的にLWSと診断された患者の画像データを収集し、本症に特徴的なレントゲン所見について検討した。
4. 手術時の所見に基づくLWS発症機序の検討:初年度に本研究班では、Madelung変形症例に対して新しい骨切り術を開発し、これによる橈骨遠位部のアライメント改善と尺骨に対する相対長確保の重要性を示した。本年度は、重度のMadelung変形のため当院で手術を行った5症例7手について外科的所見を検討した。
5. 現行の内科的治療の有効性と安全性の検討:SHOX異常症の治療に関する文献検索を行い、成長ホルモン(GH) 治療およびGH+GnRHアナログ併用治療の総説を選択した。また、LWSおよびLWS類縁疾患およびターナー症候群でのGH治療に関する質の高い知見を文献検索した。これらをもとに、現行の内科的治療の有効性について検討した。

結果と考察
1. 分子遺伝学的解析:LWSの遺伝子診断におけるSHOX遺伝子変異スクリーニング法の有用性が確認された。本症の遺伝子診断は患者の予後予測、治療法の選択、遺伝相談に有用である。なお、SHOX過剰症は、従来のFISHや直接塩基配列決定では同定不可能であるが、われわれが開発したシステムでは容易に検出される。本システムは、他のゲノム異常症の診断にも応用可能である。さらに、SHOXエンハンサー領域の同定は、器官形成におけるホメオボックス遺伝子の発現制御機構の解明につながる成果である
2. 疫学調査:日本人LWSの臨床像が明確となった。本症の発症もしくは重症化にエストロゲン以外の性特異的因子が関与する可能性が示唆された。また、LWSにおいて、小児期に外科的介入を要する重度の骨変形を呈する症例が稀ではないことが見出された。
3. 画像解析:画像解析から、LWSのMadelung変形には、Vickers ligamentの関与が大きいことが示唆された。
4. 手術時の所見に基づくLWS発症機序の検討:重度のMadelung 変形を有する5症例7手全例で明瞭なVickers ligamentの形成を認め、本症の前腕骨変形の進展にこの靭帯の形成が大きく寄与することが示唆された。
5. 現行の内科的治療の有効性と安全性の検討:2年間の治療成績、成人身長での評価ではSHOX遺伝子異常でのGH治療が有効であることが示唆された。
結論
LWSの分子基盤、発症機序について有用な知見が得られた。また、内科的治療についてその短期的安全性と有効性が明確となった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231076B
報告書区分
総合
研究課題名
レリーワイル症候群の診断法確立と治療指針作成
課題番号
H23-難治-一般-097
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
深見 真紀(独立行政法人国立成育医療研究センター 分子内分泌研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方 勤(浜松医科大学 小児科)
  • 宮崎 治(国立成育医療研究センター 放射線科)
  • 長谷川 奉延(慶應義塾大学 小児科)
  • 長谷川 行洋(都立小児総合医療センター 総合診療部)
  • 関 敦仁(国立成育医療研究センター 整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、本邦におけるレリーワイル症候群 (LWS) の実態を把握し、診断法の確立と治療指針の作成を目的として行った。
研究方法
1. 分子遺伝学的解析:LWSの過半数がSHOX遺伝子欠失であることに基づき、カスタムアレイCGH法、MLPA 法を用いた迅速スクリーニングシステムを構築した。この方法を用いて患者解析を行い、臨床診断における本システムの有用性を検討した。
2. 疫学調査:関連学会と連携し、LWS患者の診療にあたる可能性の高い専門医を対象とした全国疫学調査を行なった。さらに、患者の詳細な病態を把握するために疫学二次調査を行った。
3. 画像解析:患者の画像データを収集し、本症に特徴的なレントゲン所見について検討した。とくに手の単純レントゲン写真を対象として詳細な解析を行った。
4. 新規外科的治療法の検討:重度のMadelung変形症例4例に対して新規外科的治療法である橈骨楔状骨片組み換え法を行った。
5. 現行の内科的治療の有効性と安全性の検討:LWSに対する成長ホルモン(GH)単独投与およびGnRHアナログによる性腺抑制療法の有用性と安全性を、論文メタ解析により検討した。
6. 手術時の所見に基づくLWS発症機序の検討:重度のMadelung変形のため当院で手術を行った5症例7手について外科的所見を検討した。

結果と考察
1. 分子遺伝学的解析:本症の迅速遺伝子診断システムを開発した。本システムでは、日本人LWS患者の70%以上を占める擬常染色体領域内微小欠失を含む大部分の異常が1度の解析で検出可能である。この解析により、1例において従来知られているエンハンサー領域以外の微小欠失を同定し、新たな遠位エンハンサーが存在する可能性を見出した。また、2例でSHOXを含む領域の微小重複を同定した。
2. 疫学調査:LWSが従来の推定より頻度の高い疾患であることを明確とした。さらに、LWSの病態について下記の点を明らかにした。1)患者は、10-14歳時に低身長もしくは前腕骨変形を主訴として受診する例が最も多い。患者の過半数は女性である。2) 成長ホルモンもしくは成長ホルモンと性腺抑制療法の併用では、有効例と無効例が存在する。3)本邦のLWSにおいて小児期に外科的介入を要する骨変形が稀ではない。一方、前腕骨変形の程度に比較して関節可動性は比較的保持される。
3. 画像解析:初期の手の単純レントゲン画像においては、橈骨遠位端尺骨側の不均一な早期融合像が重要であることが確認された。骨変形が進行した状態では、とくに橈骨の湾曲と短縮、月状骨の近位への変位が明瞭であった。月状骨の近位への変位の程度は、Madelung変形の程度に相関していた。3D-CTでは、尺骨の亜脱臼と肘関節の形成不全が存在することが明確となった。また、本症の骨変化にVickers ligamentが大きく関与する可能性が見出された。
4. 外科的治療法の検討:橈骨楔状骨片組み換え法が、短期的に患者の症状を改善することが見出された。
5. 現行の内科的治療の有効性と安全性の検討:LWSあるいはLWS類縁疾患における低身長に対し、GHおよびGnRHアナログ併用治療は未治療時に比して成人身長を高くする効果を有することが明確となった。一方、長期的なRCTデータは存在しなかった。
6. 手術時の所見に基づくLWS発症機序の検討:Madelung 変形陽性7手全例で明瞭なVickers ligamentの形成を認め、本症の前腕骨変形の進展にこの靭帯の形成が大きく寄与することが示唆された。なお、この靭帯は、正常の結合織に圧負荷がかかることによって形成されると推測される。
7.情報発信:研究班ホームページ、国際SHOX変異データベース、学会シンポジウムなどを通じた情報発信を行った

結論
LWSの発症機序および画像所見について有用な知見が得られた。また、本症の効率的遺伝子診断システムが構築され、外科的治療、内科的治療の安全性と有効性、限界が明確となった。今後、さらなる患者データの集積、次世代シークエンサーを用いた変異陰性患者の遺伝子解析等により、本症に対する治療指針の作成がなされると期待される。  
本研究で開発した迅速遺伝子解析システムと画像診断法は、臨床現場での早期診断に役立つ。LWS患者の早期診断は、予後の改善、医療均てん化、医療費の削減に貢献すると期待される。さらに、LWSの遺伝子解析システムや患者登録システムは、他の先天性疾患のシステムのモデルとなる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231076C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1.LWSの疫学: LWSが従来の推定より頻度の高い疾患であることを明確とした。さらに、LWSの病態を明らかにした。とくに変異パターンの人種差は性染色体上の微細構造異常の発症機序の観点から、学術的に重要である。
2.LWSの分子基盤:新たな遠位エンハンサーが存在する可能性、本症の発症にSHOX過剰が関与する可能性を世界ではじめて見出した。
3.LWSの発症機序:本症の発症に異常靭帯(Vickers ligament)が関与していることを見出した。
臨床的観点からの成果
1.本症の迅速遺伝子診断システムを開発した。本症の遺伝子診断は患者の予後予測、治療法の選択、遺伝相談に有用である。
2.本症の診断の指標となる画像診断指標を明確化した。
3.診断の手引(案)を作成した。
4.現行の内科的治療の有効性と安全性の検討を行い、GHおよびGnRHアナログ併用治療は低身長に対して短期的には有効であり、かつ安全であることを明確とした。
5.本症に対して新しい骨切り術(橈骨楔状骨片組み換え法)を開発した。
ガイドライン等の開発
LWSの診断の手引(案)を作成した。LWS患者の早期診断は、予後の改善、医療均てん化、医療費の削減に貢献すると期待される。
その他行政的観点からの成果
LWSの遺伝子解析システムや患者登録システムは、他の先天性疾患のシステムのモデルとなる。
その他のインパクト
1.情報発信:本研究の成果は、国際SHOX変異データベースに登録した。また、学会シンポジウム、研究班ホームページ、論文などで発表した。
2.先天性疾患診断システムの構築:本研究で開発した遺伝子解析システムや患者登録システムは、他の先天性疾患に対するシステムのモデルとなる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
研究班HP,学会シンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukami M, Tsuchiya T, Takada S et al.
Complex genomic rearrangements in the SOX9 5' region in a patient with Pierre Robin sequence and hypoplastic left scapula.
Am J Med Genet A. , 158 (7) , 1529-1534  (2012)
10.1002/ajmg.a.35308
原著論文2
Nagasaki K, Iida T, Sato H et al.
PRKAR1A mutation affecting cAMP-mediated G-protein-coupled receptor signaling in a patient with acrodysostosis and hormone resistance
J Clin Endocrinol Metab , 97 (9) , 1808-1813  (2012)
10.1210/jc.2012-1369
原著論文3
Seki A, Jinno T, Suzuki E, Takayama S, Ogata T, Fukami M
Skeletal deformity associated with SHOX deficiency
Clin Pediatr Endocrinol , 23 (3) , 65-72  (2014)

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231076Z