生活環境中の発がん物質のリスク評価と低減化に関する研究

文献情報

文献番号
199800130A
報告書区分
総括
研究課題名
生活環境中の発がん物質のリスク評価と低減化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
福原 守雄(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤純雄(国立公衆衛生院)
  • 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 安藤剛(大阪府公衆衛生研究所)
  • 横山新吉(仙台市衛生研究所)
  • 長谷川修司(千葉市環境保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常生活で、人がどのような発がん物質をどのくらい摂取しているかを調査し、更に実験的にその物質のヒトに対する吸収率と発がん性を調べたり、疫学的な調査をすることることにより、総合的にヒトに対するリスク評価を行い、リスクの高いものに対し優先的に低減化対策をとることにより、がん予防に役立てることを目的とした。対象物質として、生活環境汚染物で現在空気からの摂取量の最も多い揮発性有機塩素化合物で防虫剤成分であるp-ジクロロベンゼンや、最近室内汚染や化学物質過敏章との関連で問題となっているアルデヒド類、まだ殆ど調べられていないが動物では高い発がん性が認められているブタジエンやスチレンなど高反応性物質、また 新規発がん性マイコトキシン、フモニシンなどをとりあげた。
研究方法
p-ジクロロベンゼンについて、ヒト肝組織を用いて変異原性を、またヒトにおける吸入による吸収率を調べた。ブタジエン、スチレンなどの高反応性化合物についての一斉分析法としてキャニスターGC/MS法、アルデヒド類や揮発性有機ハロゲン物質などの簡易測定法の確立や、個人暴露量調査のためのサンプラーの開発を行い、生活環境空気からの暴露量を仙台市、千葉市で予備的に調査した。さらに 発がん性マイコトキシン、フモニシン、トリコテッセンについて中国河南省の食道がん多発地域で、その食品汚染との関連を疫学的に調査した。
結果と考察
生活空気環境からの個人暴露量の高い物質は過去数年間の傾向と同じp-ジクロロベンゼンであり、その過剰発がんリスクは仙台市住民で170人/100万人であった。ヒトにおけるp-ジクロロベンゼンの変異原性を、ヒト、ラット、マウスの肝組織を用いて行った結果、その変異原性は低いことが示唆された。さらにヒトにおける吸入による吸収率はかなり高かった。以上より現時点での摂取量が最も高い物質であるp-ジクロロベンゼンはヒトではその吸収率は高いが、毒性は比較的低いと思われた。しかしさらに毒性については検討する必要があった。一方、高反応性で動物に高い発がん性が認められているブタジエンやスチレンの一般住民での暴露摂取量は高く、特にその室内汚染が高かった。ブタジエンなどの推定過剰発がん率は、p-ジクロロベンゼンやベンゼンより高く、これら物質に対する人体暴露量を早急に調査し、そのヒトでの発がん性を明かにして、対策をとる必要が示唆された。新規発がん性マイコトキシン、フモニシンなどの中国河南省での主食であるトウモロコシの汚染量が高い地域では、食道がんの発生頻度が高かったが、トリコテッセンの汚染量も高く、さらにこれら因子と食道がんの関連性を調べる必要性が示唆された。近年、生活様式の変遷に伴い、日常生活で摂取する生活環境中発がん性物質の種類と量は質的に変化し、新しい発がん性物質の問題が常に起きている。生活環境化学物質による発がんの低減化を目指して環境規制や使用規制を行う場合、本研究で行ったように、実際の人体暴露量の調査結果と、ヒトに対する実験的な発がん性の研究、更に疫学的研究を総合して、現在最もリスクの高い発がん物質を同定し、優先的に対策を取ることが最も効率的な予防対策となるであろう。
結論
現時点で生活環境空気から一般住民が摂取して物質であるp-ジクロロベンゼンのヒトへのリスクは低いと思われるが、更に検討の必要性があった。また高反応性化学物質であるブタジエン、スチレン、さらにアルデヒド類に対して、優先的に調査と研究を行う必要性が示唆された。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)