文献情報
文献番号
201231070A
報告書区分
総括
研究課題名
Menkes病・occipital horn症候群の実態調査、早期診断基準確立、治療法開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-難治-一般-091
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 浩子(帝京大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 小川 英伸(帝京大学 医学部)
- 新宅 治夫(大阪市立大学大学院医学研究科)
- 清水 教一(東邦大学 医学部)
- 黒澤 健司(神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター)
- 顧 艶紅(国立成育医療研究センター研究所)
- 八木 麻理子(神戸大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
Menkes病(MD)は銅輸送ATPase (ATP7A)遺伝子異常症で、重篤な神経症状・結合織異常(難治性痙攣、血管蛇行、出血等)を呈する。Occipital horn症候群(OHS)はMenkes病軽症型である。本研究の目的は(1)両疾患の発症頻度(22年度の本研究で解明)を検証し、公表する。(2)23年度の知見より得られた早期診断法を検証、確立し、公表する。(3)遺伝子変異と臨床症状の関連を明らかにする。(4)我々がモデルマウスで開発した新規治療法「銅皮下注射とジスルフィラム(ノックビン)内服の併用」の患者での治療法を確立する。22年度の本事業で、7例のMenkes病、1例のOHS患者が新規治療を開始し、現在も治療を継続している。全くの新規治療法であるため、長期的効果および副作用などを解明する。これらの成果から診断・治療ガイドラインを作成し、学会の承認を得る。国際誌・国際学会で発表し、広く世界に研究成果を発信する。これらの成果を公開シンポジウムや患者家族会などで広く公表する。
研究方法
1. 早期診断のための実態調査結果の解析、検証、確立及び得られた知見の広報
2. 新規治療法「ヒスチジン銅皮下注射とジスルフィラム(ノックビン)経口投与の併用療法」の効果の検討
(1)モデルマウスでの新規治療の効果の解析
(2)患者培養線維芽細胞での治療効果の判定
(3)患者への新規治療の実施継続
3. 両疾患の診断・治療指針の作成
2. 新規治療法「ヒスチジン銅皮下注射とジスルフィラム(ノックビン)経口投与の併用療法」の効果の検討
(1)モデルマウスでの新規治療の効果の解析
(2)患者培養線維芽細胞での治療効果の判定
(3)患者への新規治療の実施継続
3. 両疾患の診断・治療指針の作成
結果と考察
全国2次調査結果では、在胎週数に対する出生時の体重、身長、頭囲は対象児と差がなかったが、64例のMenkes病(MD)患者の26.6%は小奇形を合併しており、これは全国の先天奇形の発症率である1.9%より有意に高かった。主な小奇形は、高口蓋、小頭症、脳または肺のう胞、房室ブロック、眼裂狭小であった。これら奇形を合併する児では本症を疑う必要がある。モデルマウスでは、併用療法で脳の銅濃度、チトクロームC オキシダーゼ活性の改善が認められた。microPET イメージングでは、ジスルフィラム(ノックビン)投与マクラマウスにおいて、Cuの脳への取り込みが、ジスルフィラムを投与していないコントロールマクラマウスに比べて有意に増加し、さらにCuが長時間脳に保持された。ジスルフィラム併用療法での銅の脳への移行と保持が画像検査においても証明された。また、ジスルフィラムがマクラマウスにおける銅の腎臓への蓄積を改善させることも明らかとなった。脂溶性キレート剤ノックビン併用が、脳や腎臓をはじめ、各臓器における銅分布を改善できる可能性が示唆された。7例のMD患者、1例のOccipital horn症候群(OHS)患者で新規併用法をジスルフィラム投与は30mg/日から開始し、徐々に増量し、約10mg/kg/日で経過を観察した。副作用は見られておらず、数例で臨床症状や血清銅・セルロプラスミン濃度の改善が認められている。これらの血清値がジスルフィラム併用により上昇し、ヒスチジン銅を減量できた症例も見られたが、ジスルフィラム併用でこれらの値に変化がない症例もあった。しかし、活動性、神経発達、骨密度などが有意に改善した例もあり、治療効果の症例による相違の理由を明らかにすることが今後の課題と考えられた。
結論
Menkes病(MD)およびOccipital horn症候群(OHS)は希少疾患で、現在有効な治療法がない。全国アンケート調査の2次実態調査から発症前の症状・所見を明らかにし、早期診断の方法を確立し提唱した。早期診断法に確率は患児・家族にとって非常に有益である。さらに現在有効な治療法のない両疾患で新規の治療法をモデルマウスで実施し、さらに数例の患者で試みた。継続して本治療を行っており、長期的効果も確認中である。新規治療法に関しては、現在治療中の患者で副作用は見られておらず、数例で臨床症状の改善や血清銅・セルロプラスミン、骨密度等の改善が認められている。24年度は、早期診断および治療指針の作成に着手し、原案を作成した。さらに改正を加え、25年度年内に日本小児神経学会の承認を得る計画である。両疾患は非常に稀であるため、誤診・見逃し症例があると思われる。本研究成果で作成された診断・治療指針を広く公表することにより、一般小児科医などに両疾患が認知され、早期診断につながると期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-05-31
更新日
-