文献情報
文献番号
201231068A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性周辺部角膜潰瘍の診断および治療に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-難治-一般-089
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
外園 千恵(京都府立医科大学 視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
- 坪田 一男(慶應義塾大学 医学部 眼科学)
- 大橋 裕一(愛媛大学 医学部 眼科学)
- 井上 幸次(鳥取大学 医学部 眼科学)
- 西田 幸二(東北大学 医学部 眼科学)
- 上田 真由美(同志社大学 生命医科学部 眼科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
特発性周辺部角膜潰瘍は、特に全身疾患を有さない若年あるいは壮年者の片眼もしくは両眼に突然に発症し、高度の充血、結膜浮腫に加えて、特異な角膜潰瘍を呈して急速に進行する難治な炎症性疾患である。ステロイド、免疫抑制剤による保存療法がある程度有用であるが、これらを行っても進行を止められないことが多く、しばしば角膜穿孔をきたす。角膜穿孔をきたした場合には表層角膜移植が行われるが、術後の再発率が高い。このため予後は極めて不良であり、高率に失明に至る。
本疾患の問題点は、1)国内外ともに診断基準がない、2)海外も含めて根治可能な治療が確立していない、3)発症頻度が稀であり一般眼科医は経験に乏しい、の3点にある。
本研究班では、平成22年度に作成した診断基準をもとに、国内の実態調査を実施し、診断基準の周知をはかるとともに、診断および治療と予後に関する検討を行い、予後改善に有用な治療法を検討した。また客観的な臨床評価法について検討し、類似疾患であるリウマチ性角膜潰瘍との相違を検討した。患者組織を用いて、病態について免疫組織学的検討を実施した。
本疾患の問題点は、1)国内外ともに診断基準がない、2)海外も含めて根治可能な治療が確立していない、3)発症頻度が稀であり一般眼科医は経験に乏しい、の3点にある。
本研究班では、平成22年度に作成した診断基準をもとに、国内の実態調査を実施し、診断基準の周知をはかるとともに、診断および治療と予後に関する検討を行い、予後改善に有用な治療法を検討した。また客観的な臨床評価法について検討し、類似疾患であるリウマチ性角膜潰瘍との相違を検討した。患者組織を用いて、病態について免疫組織学的検討を実施した。
研究方法
2006年から2010年の5年間に新規に治療を実施した特発性周辺部角膜潰瘍100例120眼について、臨床所見と治療、予後に関する解析を実施した。
各分担研究者においては、レーザー生体共焦点顕微鏡(RCM/HRT II)を用いた炎症細胞密度(ICD(cells/mm2))の評価、前眼部光干渉断層計を用いて角膜形状解析による重症度評価を行い、予後との関連を検討した。新規治療法として、シクロスポリンよりもより強力なタクロリムスの局所投与の効果、手術療法として環状表層角膜移植の効果を検討した。手術時に切除される病変部結膜組織を用いて免疫組織学的に解析を行った。
(倫理面への配慮)
本研究は厚生労働省による臨床研究に関する倫理指針および疫学研究に関する倫理指針に従い、大学倫理審査委員会の承認を得て行った。また患者由来の試料はすべて、インフォームドコンセントを得たうえで採取し、本研究に用いた。
各分担研究者においては、レーザー生体共焦点顕微鏡(RCM/HRT II)を用いた炎症細胞密度(ICD(cells/mm2))の評価、前眼部光干渉断層計を用いて角膜形状解析による重症度評価を行い、予後との関連を検討した。新規治療法として、シクロスポリンよりもより強力なタクロリムスの局所投与の効果、手術療法として環状表層角膜移植の効果を検討した。手術時に切除される病変部結膜組織を用いて免疫組織学的に解析を行った。
(倫理面への配慮)
本研究は厚生労働省による臨床研究に関する倫理指針および疫学研究に関する倫理指針に従い、大学倫理審査委員会の承認を得て行った。また患者由来の試料はすべて、インフォームドコンセントを得たうえで採取し、本研究に用いた。
結果と考察
特発性周辺部角膜潰瘍100例120眼の内訳は、男性45例・女性55例、発症時年齢は16~93歳(平均62.2歳)、片眼性80例・両眼性20例であった。潰瘍の発生部位は下鼻側39眼(32.5%)、上鼻側28眼(23.3%)、と鼻側にやや多く、潰瘍の中心位置は3、6、9、12時方向に多い傾向があった。初診時のシクロスポリン内服に有意な治療効果を認め、手術を行った42例46眼では輪部移植/角膜上皮形成術、羊膜移植の順に潰瘍消失までの期間が短い傾向を認めた。類似疾患であるリウマチ性角膜潰瘍14例では、穿孔部位は瞳孔辺縁から中間周辺部であり、全例に涙液分泌減少症を伴った。
レーザー共焦点顕微鏡による評価では、治療により角膜潰瘍が改善するとともに、ほとんどの症例でICD値が著明に減少し、治療開始後約1カ月で寛快期と同等のICD値に落ち着いた。前眼部光干渉断層計による角膜形状解析では、C字型9眼(60%)と比較し、カニ爪型で4眼(26.7%)は病変の範囲が180°を超えるものが有意に多く(p=0.025, Chi-square test)、病変距離とlogMAR視力に負の相関を認めた。
タクロリムスを眼軟膏あるいは点眼として使用することによって、病勢の鎮静化を得ることができ、また環状表層角膜移植の術後に全例で移植片の生着を得ることができた。
病変部結膜組織に浸潤する免疫細胞はhelper T細胞ならびにマクロファージが主体であった。プロスタグランジンE2受容体サブタイプEP3は、本疾患では発現しており、プロスタグランジンE2受容体サブタイプEP4は、本疾患の一部の症例では発現が減少していた。
以上より、特発性周辺部角膜潰瘍は性差なく中高年に発症し、保存的治療ではベタメタゾン点眼、シクロスポリン内服、手術では輪部移植/角膜上皮形成術が有用であると考えられた。涙液分泌減少症の有無と穿孔部位はリウマチ性角膜潰瘍の鑑別に有用な眼所見と考えられた。またレーザー共焦点顕微鏡および前眼部光干渉断層計は客観的評価に有用である。新規治療としてタクロリムスを眼局所投与は有用と考えられ、環状表層角膜移植も効果がある。病変にはhelper T細胞ならびにマクロファージを主体とする免疫反応がある。
レーザー共焦点顕微鏡による評価では、治療により角膜潰瘍が改善するとともに、ほとんどの症例でICD値が著明に減少し、治療開始後約1カ月で寛快期と同等のICD値に落ち着いた。前眼部光干渉断層計による角膜形状解析では、C字型9眼(60%)と比較し、カニ爪型で4眼(26.7%)は病変の範囲が180°を超えるものが有意に多く(p=0.025, Chi-square test)、病変距離とlogMAR視力に負の相関を認めた。
タクロリムスを眼軟膏あるいは点眼として使用することによって、病勢の鎮静化を得ることができ、また環状表層角膜移植の術後に全例で移植片の生着を得ることができた。
病変部結膜組織に浸潤する免疫細胞はhelper T細胞ならびにマクロファージが主体であった。プロスタグランジンE2受容体サブタイプEP3は、本疾患では発現しており、プロスタグランジンE2受容体サブタイプEP4は、本疾患の一部の症例では発現が減少していた。
以上より、特発性周辺部角膜潰瘍は性差なく中高年に発症し、保存的治療ではベタメタゾン点眼、シクロスポリン内服、手術では輪部移植/角膜上皮形成術が有用であると考えられた。涙液分泌減少症の有無と穿孔部位はリウマチ性角膜潰瘍の鑑別に有用な眼所見と考えられた。またレーザー共焦点顕微鏡および前眼部光干渉断層計は客観的評価に有用である。新規治療としてタクロリムスを眼局所投与は有用と考えられ、環状表層角膜移植も効果がある。病変にはhelper T細胞ならびにマクロファージを主体とする免疫反応がある。
結論
本研究により、ベタメタゾン点眼、シクロスポリン内服、手術では輪部移植/角膜上皮形成術が有効な治療法であることが判明した。客観的指標として、レーザー共焦点顕微鏡および前眼部光干渉断層計が有用である。
公開日・更新日
公開日
2013-05-23
更新日
-