文献情報
文献番号
201231065A
報告書区分
総括
研究課題名
肥厚性硬膜炎の診断基準作成とそれに基づいた臨床疫学調査の実施ならびに診療指針の確立
課題番号
H23-難治-一般-086
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 藤井 清孝(北里大学医学部脳神経外科学)
- 楠 進(近畿大学医学部神経内科学)
- 吉田 眞理(愛知医科大学加齢医学研究所神経病理部門)
- 坂田 清美(岩手医科大学医学部公衆衛生学)
- 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
- 立石 貴久(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肥厚性硬膜炎(Hypertrophic pachymeningitis; HP)は脳脊髄硬膜の線維性肥厚を主徴とする原因不明の難治性疾患である。硬膜の慢性炎症と肥厚に起因する頭蓋内圧亢進、脳神経麻痺、脳障害、脊髄障害を来す。治療としては副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療に対して抵抗性となり重度の障害を残すことも多い。病理学的にも原因を特定することが困難な場合もあり、脳硬膜の線維性肥厚、肉芽腫性変化や、リンパ球・形質細胞など炎症細胞の浸潤を示すこともある。また、自己免疫性膵炎の研究過程で、IgG4関連疾患とHPとの関係性が注目されている。
しかし、その報告は神経内科、脳神経外科から散発的にされているのみで、臨床疫学調査は世界的にみても実施されていない。一施設あたりの経験症例はごくわずかであるため、現状では診断、治療の標準化は全くなされておらず、各診療科での経験的な診療が行なわれている。また、本疾患は後腹膜線維症などの多臓器線維症(multifocal fibrosclerosis; MFS)に合併することが知られており、脳疾患ではIgG4関連疾患とする説が有力となりつつあり、分担研究者は世界で初めて肥厚性硬膜炎において硬膜に浸潤しているリンパ球がIgG4陽性であることを報告した。このことから、肥厚性硬膜炎もMFSの部分症でIgG4関連疾患である可能性を指摘した。しかし、肥厚性硬膜炎とIgG4との関連については個別の症例についても精査が行われていないことが多く、肥厚性硬膜炎全体に占める意義については明らかにされていない。そこで、本研究では、(1)肥厚性硬膜炎の診断基準を作成して臨床疫学調査を実施し、有病率、合併症、予後、治療の実態を明らかにすることを目的とする。併せて(2)各種膠原病、線維症、HTLV-1など感染症の合併を調査することで、肥厚性硬膜炎の発症に寄与する因子を明らかにする。
しかし、その報告は神経内科、脳神経外科から散発的にされているのみで、臨床疫学調査は世界的にみても実施されていない。一施設あたりの経験症例はごくわずかであるため、現状では診断、治療の標準化は全くなされておらず、各診療科での経験的な診療が行なわれている。また、本疾患は後腹膜線維症などの多臓器線維症(multifocal fibrosclerosis; MFS)に合併することが知られており、脳疾患ではIgG4関連疾患とする説が有力となりつつあり、分担研究者は世界で初めて肥厚性硬膜炎において硬膜に浸潤しているリンパ球がIgG4陽性であることを報告した。このことから、肥厚性硬膜炎もMFSの部分症でIgG4関連疾患である可能性を指摘した。しかし、肥厚性硬膜炎とIgG4との関連については個別の症例についても精査が行われていないことが多く、肥厚性硬膜炎全体に占める意義については明らかにされていない。そこで、本研究では、(1)肥厚性硬膜炎の診断基準を作成して臨床疫学調査を実施し、有病率、合併症、予後、治療の実態を明らかにすることを目的とする。併せて(2)各種膠原病、線維症、HTLV-1など感染症の合併を調査することで、肥厚性硬膜炎の発症に寄与する因子を明らかにする。
研究方法
1)病態プロセスについての考察
通常は障害作用の少ないIgG4が一次的に線維化に寄与しているのか、それともTGFβやIL-10などの線維化に寄与し得るサイトカインの産生亢進が一次的で、その結果、このようなIgG4を誘導する環境になるので二次的にIgG4産生が亢進するのか、いずれが真実かを明らかにしたい。
2) 統計学的解析・臨床的解析
平成23年度に全国の神経内科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、小児科、内科(膠原病内科など)、眼科を標榜する病院を病床数ごとに階層化し、一次、二次調査票を送付した。現在、回収作業を終了しており、主任研究者により疫学、統計学が専門の分担研究者と協力し、回収された調査データに入力と疫学的手法を用いた解析を行なった。
通常は障害作用の少ないIgG4が一次的に線維化に寄与しているのか、それともTGFβやIL-10などの線維化に寄与し得るサイトカインの産生亢進が一次的で、その結果、このようなIgG4を誘導する環境になるので二次的にIgG4産生が亢進するのか、いずれが真実かを明らかにしたい。
2) 統計学的解析・臨床的解析
平成23年度に全国の神経内科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、小児科、内科(膠原病内科など)、眼科を標榜する病院を病床数ごとに階層化し、一次、二次調査票を送付した。現在、回収作業を終了しており、主任研究者により疫学、統計学が専門の分担研究者と協力し、回収された調査データに入力と疫学的手法を用いた解析を行なった。
結果と考察
一次調査で1904施設(38.4%)より回答が得られ、324例の存在が確認された。二次調査の結果, 178例の詳細な情報が集積された。結果は、有病率は0.949/10万人であり、平均発症年齢は59.0±15.4歳で、全体では明らかな性差は認めなかった。特発性、続発性の症例数も差はなかった。続発性の場合、基礎疾患として最多なものはANCA関連血管炎21例で、次いでWegener肉芽腫症20例、多臓器線維症(MFS)8例、IgG4関連疾患5例であり、ANCA関連疾患とIgG4関連疾患/MFS群が二大原因であることが明らかになった。経過中の一般所見で、最多なものは頭痛128例(71.9%)、次いで視力障害57例(32.0%)であった。神経学的所見としては、脳神経症状が、117例(64.9%)、深部腱反射亢進47例(26.4%)、であった。治療では、内科的治療が広く行なわれ、外科的治療より有効である可能性があることがわかった。ANCA陽性例は陰性の特発性例と比較して女性に多く、耳症状が初発症状となることが多いことがわかった。また、副腎皮質ステロイドのみでは寛解に至らず、免疫抑制剤と併用する場合が多かった。対してIgG4関連疾患/MFS群は特発性より男性に多く、脳神経症状が多く、有意に感覚障害が少なかった。治療では、ステロイドに反応良好であり、予後良好であった。
結論
肥厚性硬膜炎の二次調査を完了し、解析が進行中である。中間解析で、日本の肥厚性硬膜炎の3割にANCAが陽性であった。ANCA陽性群は女性に多く、初発症状として、難聴、中耳炎症状など耳症状が多いことが明らかになった。治療において、内科的治療として特に副腎皮質ステロイド薬が広く行なわれ、より有効であった
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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