院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究

文献情報

文献番号
199800129A
報告書区分
総括
研究課題名
院内がん登録の標準化とがん予防面での活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 村上良介(大阪府立成人病センター)
  • 味木和喜子(大阪府立成人病センター)
  • 井上真奈美(愛知県がんセンター)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの予防、医療活動の企画・立案と評価には高精度のがん登録システムが必須であり、これは国、府県、病院の3段階のがん登録活動から構成されるべきものである。本研究では、これらがん登録システムの基盤をなす院内がん登録の標準方式を確立すること、併せて、登録資料の、がん予防面での活用方式を開拓することを主な研究課題とした。具体的には、がん克服10ヵ年の第1期(1994-96年)に院内がん登録の基本方式を確立したので、1997年から始まる第2期3ヵ年では、①全がん協施設等において高度ながん研究に対応できるシステム開発を行い、患者のライフスタイル・パーソナリティ、薬剤に関する情報のデータベース化を進める。②これより得た資料を基に、2次がんの危険因子の解明とこれを予防するためのプログラムの開発に取り組む。また、③投与薬剤と発がんリスク、発がん抑制との関連を分析する。さらに、④前がん性病変を有する患者の登録とフォローを行い、発がんリスクの評価、発がん修飾要因の解明を進める。さらに本年度からは院内がん登録資料活用の有望な一分野として、⑤がんの自然史の解明をも目指す。
研究方法
1.がん医療に関する中核専門施設が備えるべき院内がん登録の機能と役割を明らかにし、またその為のシステム構築を進めるため、厚生省がん研究助成金「佐々木」班と協同して、全がん協施設に対して院内がん登録の実態調査を行う。大阪府立成人病センターにおいて、各診療科データベースと院内がん登録との有機的連携を構築するためのシステム分析を行う。薬剤情報データベースの構築に向け、現在実際に使われているがん治療薬の分類・コード体系の問題点を洗い出し、これを克服するためのシステム構築を進め、またこれに基づく、がん治療薬に関する検索・辞書ソフトを開発する。ライフスタイル・パーソナリティ情報の蓄積を継続する。
2.多重がんのリスク評価と要因分析:補助療法の延命効果と2次がん発生への影響は、これまで断片的にしか調べられてこなかった。薬剤、ライフスタイル情報が集積されていなかったこと、また2次がん罹患を把握するためのシステム(地域がん登録)が整備されていなかったことが大きな理由である。これまでに、頭頸部、胃、及び乳房の各がんについて分析を進めたが、昨年度より対象を全がんに拡大し、原発部位、補助療法、及び生活習慣の3つの面から多重がんの要因を総合的に評価する。
3.発がん高危険群の登録とリスク評価:①地域がん登録との照合を含め、高精度の追跡調査を行い、C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療による肝がん予防効果を検証する。調査対象のソースが2つあり、1つは腹腔鏡・肝生検施行の6施設協同調査、今1つはC型慢性肝炎患者登録に由来する追跡調査である。
②昨年度から継続し、胆石症と胆道がんとの関連を追跡研究により分析した。調査対象は、超音波で胆石症と診断され、がんを否定された4,258人と、胆道系に著変なしとされた27,973人。がん登録との照合により平均11年追跡し、110例の胆道がんを把握した。
4.がんの自然史研究:内視鏡で早期、病理学的にがんと診断されながら、切除されなかったか、切除が診断から6ヶ月以上遅れた早期胃がん患者を系統的に検索し、該当する80症例を把握した。早期胃がんから進行がんに進展するまでの期間、胃がんで死亡するまでの期間等を解析した。
結果と考察
1.院内がん登録の標準化と推進のためのソフト・教材開発:既に、標準項目の設定、マニュアル類の整備、院内登録用ソフトの開発・提供等を実施してきたが、本年度は、がん診療専門施設レベルの、より高度な登録システムの開発に向け、作業を進めた。本年実施した全がん協施設における院内がん登録の実態調査を踏まえ、がん専門診療施設において今後備えるべきがん登録のモデル(「専門施設向けモデル」)を提示する。また、その一環として「薬剤疫学用薬剤コードファイル」を作成し、これを通して病院オーダリングシステムより抗腫瘍薬投与情報を抽出し、「抗腫瘍薬投与データベース」を構築するシステムを作成した。抗腫瘍薬情報の共有化をはかるため、併用療法を含む抗腫瘍薬リストの汎用辞書をファイルメーカープロで作成した。
2.院内登録資料活用による多重がんのリスク評価と要因分析:2次がんに関する総括的な取りまとめを行うこととし、大阪府立成人病センターで診断した新発がん患者3万4千人における多重がんの発生状況を既に把握した。胃がん患者5千9百人における2次がんを分析した結果、診断から10年以上経て発生した2次がんの、実に7割が他施設で診断されていることが判明した。2次がんのリスク評価を行う上で院内登録と地域登録の両者が必須であることを改めて示した。
3.発がん高危険群の登録とリスク評価:①腹腔鏡・肝生検施行の6施設協同調査では、インターフェロン投与群593例、非投与群146例を収集し、非投与群と比較した投与群の肝がん罹患ハザード比(性、年齢、HAI-score、HCV sero-type、RNA量を調整)は0.48と有意に小さく、インターフェロンの短期効果と肝がん罹患リスクには負の量反応関係があることを確認した。
②追跡調査により、胆石患者で胆道がん罹患リスクが有意に高いこと、胆石症と診断された50歳以上の者で、その後3年以内に胆道がんと診断される患者の割合が高いことを、昨年報告したが、さらに胆嚢炎の有無、石の個数・性状との関連を分析した。胆嚢炎併発例での性年齢・結石調整後のハザード比は2.1と中等度の関連を示したが、有意差ではなかった。胆石例に限り、胆石を複数個以上有する例と単発例とを比較すると、有意差はないものの複数個例の方が性年齢・胆嚢炎調整ハザード比が3.8倍高くなった。胆石の大きさと胆道癌リスクには一定の傾向を認めなかった。
4.内視鏡で早期、病理学的にがんと診断されながら、切除されなかったか、切除が診断から6ヶ月以上遅れた早期胃がん患者を系統的に検索し、該当する80症例を把握した。この内61例については病巣の経過観察が可能であった。診断からの月数別にKaplan-Meier法により早期でとどまるものの割合を求めると、早期割合は、次第に減少し、50%は44ヶ月目までに進行がんに、また5年目の累積進展率が64.7%と推計された。次に、結果的に切除されなかった46例の早期胃がん患者の生命予後を、診断後6ヶ月以上遅れて切除術を受けた34例と比較した。経過に従って生存率が低下し、50%の患者が5年11ヶ月後までに胃がんで死亡し、5年生存率が60.5%と推計された。一方、遅れて手術した例では75.8%であった。速やかに切除した早期胃がん例の5年生存率は90%以上となっており、これらの成績は、早期胃がんの診断と治療の効果を推し量るものとして重要である。
結論
本研究では、がん予防・がん医療活動の評価の基盤となる院内登録の標準方式を確立すること、また登録資料を活用して、がん予防面での研究を推進することを、主な課題とした。
1)抗腫瘍薬に関する情報の参照・検索システムを作成し、インターネットを介して提供できる準備を進めた。
2)大阪府立成人病センターで診断した新発がん患者3万4千人における多重がんの発生状況を調査した。胃がん患者5千9百人における2次がんを分析した結果、診断から10年以上経て発生した2次がんの、実に7割が他施設で診断されていることが判明した。
3)C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療による肝がん予防効果を検証した。非投与群と比較した投与群の肝がん罹患ハザード比は有意に小さく、インターフェロンの短期効果と肝がん罹患リスクには負の量反応関係があることを確認した。
4)胆石は、胆道がんの存在を示唆するマーカーとなり得ること、また胆道がんの危険因子になる可能性の高いことが示された。
5)内視鏡で早期、病理学的にがんと診断されながら、切除されなかったか、切除が診断から6ヶ月以上遅れた早期胃がん患者を系統的に検索し、該当する80症例を把握した。追跡調査により、早期胃がんの大多数は「がんもどき」ではなく、放置すれば進行がんに進展し、やがては胃がん死することを示した。

公開日・更新日

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