膠様滴状角膜変性症の標準的治療レジメンの確立と新規治療法の創出

文献情報

文献番号
201231063A
報告書区分
総括
研究課題名
膠様滴状角膜変性症の標準的治療レジメンの確立と新規治療法の創出
課題番号
H23-難治-一般-084
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川崎 諭(京都府立医科大学 視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 晶(順天堂大学・医学部・眼科)
  • 天野史郎(東京大学・医学部・眼科学)
  • 稲富 勉(京都府立医科大学・医学(系)研究科・視覚機能再生外科学(眼科学))
  • 辻川元一(大阪大学・大学院医学系研究科・脳神経感覚器外科学(眼科学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度は膠様滴状角膜変性症に対する新しい治療法の確立を目的として、樹立した疾患モデル細胞を用いてレンチウイルスとプラスミドによる遺伝子治療の可能性について検討した。また臨床的観点から膠様滴状角膜変性症に対する角膜移植後の新しい術後評価法の検討と、角膜および口腔粘膜上皮シートにおけるTACSTD2遺伝子の発現をヒトとウサギにおいて検討した。また全国調査を行い、膠様滴状角膜変性症の疫学と治療成績について一昨年度の結果との比較を行った。
研究方法
昨年度に樹立に成功した膠様滴状角膜変性症患者由来の角膜および結膜上皮細胞の不死化細胞を用いて遺伝子治療の可能性についての検討を行った。またソフトコンタクトレンズの再発抑制効果のメカニズムの解明を目的として、SCLへのラクトフェリンの付着性を評価した。またコンタクトレンズ(P-CL)をデバイスとしたプラスミドによる遺伝子治療の可能性について検討した。またヒトおよびウサギの角膜上皮、口腔粘膜上皮シートにおけるTACSTD2の発現を解析した。また前眼部光干渉断層計に内蔵した自動角膜体積測定機能を用いて膠様滴状角膜変性症患者の角膜移植後の状態について検討した。また膠様滴状角膜変性症患者の疫学および臨床成績について全国調査を行った。
結果と考察
野生型TACSTD2遺伝子を膠様滴状角膜変性症患者由来の角膜および上皮細胞の不死化細胞に遺伝子導入すると、クローディン1および7の発現量の増加と細胞内局在の正常化が認められた。しかしながら上皮バリア機能についてはわずかな改善しか認められず、その原因として、導入遺伝子の発現量が細胞毎に大きくばらついていることが考えられた。FACSによるソーティングによってこの点は解決できる可能性がある。
昨年度よりコンタクトレンズを用いて本疾患の原因遺伝子であるTACSTD2遺伝子をプラスミドの形で患者角膜に継続的に移入することを検討している。ソフトコンタクトレンズはリン酸基を側鎖に有するハイドロゲルからなり(P-CL)、DNAと結合し、徐放効果を示す。研究代表者の川崎が樹立した膠様滴状角膜変性症患者由来の角膜および上皮細胞の不死化細胞に対し、野生型TACSTD2遺伝子を発現するプラスミドをP-CLに含侵させて遺伝子導入した。結果として研究代表者の川崎がレンチウイルスで確認したのと同様の結果、すなわちクローディン1および7タンパクの発現量の増加と細胞内局在の正常化を認めた。一般的には上皮細胞は線維芽細胞などの間葉系細胞よりも遺伝子導入効率が悪いために裸のプラスミドを与えただけでは高い遺伝子導入効率が得られないことが多い。ソフトコンタクトレンズが徐放の足場として働いたためにこのような高い遺伝子導入効率が得られたものと考えられる。
実際の角膜上皮再生治療に使われる角膜上皮ないし口腔粘膜上皮シートにおけるTACSTD2遺伝子の発現について、ヒトとウサギで検討した。結果として、角膜上皮ないし口腔粘膜上皮シートにおけるTACSTD2遺伝子の発現はin vivoにおける発現の1/10程度に減少していた。このことは臨床で使用する角膜ないし口腔粘膜上皮シートの上皮バリア機能が弱いことと関係しているものと考えられた。
全層角膜移植を行った膠様滴状角膜変性症に対しswept source型前眼部光干渉断層計SS-1000,CASIA(TOMEY社)による検査を行い、角膜体積測定を行った。本装置は角膜混濁眼の撮像が可能であるという特性があり、膠様滴状角膜変性症のような角膜混濁眼でも角膜厚や角膜体積の測定を行うことができ、手術成績のさらなる詳細な検討が可能となるものと考えられる。
膠様滴状角膜変性症患者の疫学および臨床成績について全国調査を行った。一昨年度に行った研究班の4施設の結果とは大局的には同質であったと言えるが、手術成績などについては、研究班の4施設よりも不良な傾向がみられた。
結論
膠様滴状角膜変性症患者由来の不死化ヒト角膜および結膜上皮細胞を用いて遺伝子治療の可能性について検討した。生化学的レベルでは遺伝子治療はレンチウイルスでもプラスミドによってもかなり効果的であると考えられた。しかしながら上皮バリア機能のレベルではわずかな改善にとどまり、今後さらなる検討が必要であると考えられた。実際の角膜上皮再生治療に使われる角膜上皮ないし口腔粘膜上皮シートにおいては上皮バリア機能が低下する傾向があり、遺伝子治療を行う際には注意を要する必要がある。またswept source型前眼部光干渉断層計SS-1000,CASIA(TOMEY社)は角膜移植の術後評価に有用と考えられた、また全国調査を行ったことで、一昨年度に行った研究班4施設における疫学データの妥当性が証明された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231063B
報告書区分
総合
研究課題名
膠様滴状角膜変性症の標準的治療レジメンの確立と新規治療法の創出
課題番号
H23-難治-一般-084
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川崎 諭(京都府立医科大学 視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 晶(順天堂大学・医学部・眼科学教室)
  • 天野 史郎(東京大学・医学系研究科・眼科学教室)
  • 稲富 勉(京都府立医科大学・医学系研究科・視覚機能再生外科学(眼科学教室))
  • 辻川 元一(大阪大学・大学院医学系研究科・脳神経感覚器外科学(眼科学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
膠様滴状角膜変性症は10歳代に角膜上皮直下にアミロイド沈着が生じ、次第に角膜全面を覆うために著明な視力低下を来す疾患である。常染色体劣性遺伝を呈し、責任遺伝子として1999年に辻川らによってTACSTD2遺伝子が同定された。しかしながらその病態の詳細は未だ不明で、また希な疾患であるため臨床的にも様々な点において不明な状況が続いている。本研究では本疾患の実態調査と病態解明、治療法の開発を行うことを目的とした。
研究方法
実態調査としては、平成22年度には研究班4施設にて後ろ向き調査を行った。また平成24年度には国内の10研究施設において同様の後ろ向き調査を行った。また病態解明としては、平成22年度に本疾患の責任遺伝子であるTACSTD2遺伝子の転写翻訳産物であるTACSTD2タンパクがクローディン1および7と結合することを免疫沈降実験やPLAアッセイによって解析した。またTACSTD2遺伝子のノックダウン実験および強制発現実験を行い、TACSTD2遺伝子の機能喪失性変異がタイトジャンクション機能にどのような影響を及ぼすかを検討した。また平成23年度には本疾患患者の角膜移植手術の際に、本人の同意を得て角膜ないし結膜上皮細胞を採取し、レンチウイルスによって不死化操作を行った。これによって角膜上皮細胞で1ライン、結膜上皮細胞で2ラインの不死化細胞を得た。これらの不死化細胞を用いて、本疾患のさらに詳細な分子病態について検討した。また本疾患の根治術として、遺伝子治療が考えられるが、その可能性について、プラスミドとレンチウイルスの両面から検討した。またレンチウイルスによる遺伝子治療の実際のプラットフォームとなる、角膜上皮細胞のex vivoでの培養、レンチウイルス感染、上皮シート作成、患者への移植に対する基礎的検討として培養角膜および口腔粘膜におけるTACSTD2遺伝子の発現を検討した。また生体共焦点顕微鏡や前眼部OCTなどの最近開発された臨床機器による本疾患患者の角膜移植術後評価における有用性を検討した。
結果と考察
研究班4施設および全国調査により、各々45例と24例の本疾患患者の臨床情報を採取した。これによって本疾患の疫学的情報と臨床実態が明らかとなった。特に有用な情報としては、本疾患に対する角膜移植後のソフトコンタクトレンズの装用による再発抑制効果についてであり、ソフトコンタクトレンズに著明な再発抑制効果を見出した。本疾患の病態解明については、本疾患の責任遺伝子であるTACSTD2遺伝子の産物であるTACSTD2タンパクがクローディン1および7タンパクと結合していることが明らかとなった。また本疾患ではTACSTD2遺伝子の両アリルの機能喪失性変異が存在するが、その場合、クローディン1および7タンパクの分解が促進するとともに細胞内局在が変化した。プロテアソーム阻害剤によってこのことは部分的に阻害されたことからクローディンの分解にはユビキチン・プロテアソーム系のタンパク分解機構が関与していることが示唆された。このことは平成23年度に樹立した不死化細胞でも認められ、確実性の高いデータであると考えている。本疾患のモデルとして角膜上皮で1ライン、結膜上皮で2ラインの不死化細胞を樹立した。それぞれ100PDを越えた現在でも旺盛な細胞増殖を示し、不死化そのものは問題なくできていると考えられる。この細胞は無血清、低カルシウム(0.07mM)の増殖培地では単層上皮であり、旺盛な細胞増殖を示すが、血清入りの高カルシウム(0.4mM以上)の分化培地では重層化する。同じ手技にて不死化した正常者由来の角膜ないし結膜上皮細胞では分化培地にスイッチして数日後には上皮バリア機能が著明に上昇する。一方で本疾患患者由来の不死化細胞では上皮バリア機能は若干上昇するものの、その程度は正常者由来の不死化細胞に比べて有意に低く、またクローディン1および7タンパクの発現レベルは有意に低かった。またクローディン1および7タンパクの細胞内局在については、正常者由来の不死化細胞では細胞膜上に局在しているのに対して本疾患患者由来の不死化細胞では細胞質内にドット状の局在を示した。遺伝子治療の可能性についての検討では、生化学的レベルでは効果的が認められたが、機能レベルではわずかな改善にとどまった。
結論
本研究によって、本疾患の疫学、臨床実態、および分子病態について、かなり詳細に解明することができた。また新規治療法の開発についても、遺伝子治療が効果的であることがある程度証明できた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231063C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本疾患の分子病態について、TACSTD2タンパクがクローディン1および7タンパクと結合することを介してタイトジャンクションの形成に関与していることを見出した。また本疾患においてはTACSTD2タンパクの機能喪失性変異が認められるが、その場合クローディン1および7タンパクの分解が亢進し、タイトジャンクション形成に異常が生じることが判明した。これらの成果はアメリカ病理学雑誌において受理された。
臨床的観点からの成果
本疾患の疫学および臨床実態に関する情報を69例138眼から得た。これを解析した結果、特に治療に関わる有益な情報として、角膜移植術後患者においてソフトコンタクトレンズの装用に再発抑制効果があることを見出した。また本疾患に対する遺伝子治療の可能性について、プラスミドとレンチウイルスで検討したが、どちらも生化学的レベルでは効果を認めた。機能レベルでは効果はわずかであり、臨床的に効果を認めるレベルに到達するにはさらなる検討が必要と考えられた。
ガイドライン等の開発
診断基準と治療指針を研究班で作成した。専門学会(この場合日本角膜学会)への承認申請は現時点でできていない。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hieda O, Kawasaki S, Wakimasu K, et al.
Clinical outcomes of phototherapeutic keratectomy in eyes with Thiel-Behnke corneal dystrophy.
Am J Ophthalmol , 155 (1) , 66-72  (2013)
10.1016/j.ajo.2012.06.022.
原著論文2
Kawasaki S, Yamasaki K, Nakagawa H, et al.
A novel mutation (p.Glu1389AspfsX16) of the phosphoinositide kinase, FYVE finger containing gene found in a Japanese patient with fleck corneal dystrophy.
Mol Vis , 18 , 2954-2960  (2012)
原著論文3
Kinoshita S, Kawasaki S, Kitazawa K, et al.
Establishment Of A Human Conjunctival Epithelial Cell Line Lacking The Functional TACSTD2 Gene.
Trans Am Ophthalmol Soc , 110 , 166-177  (2012)
原著論文4
Tsujikawa M
Gelatinous drop-like corneal dystrophy.
Cornea , 31 , 37-40  (2012)
10.1097/ICO.0b013e31826a066a.
原著論文5
Kitazawa K, Kawasaki S, Shinomiya K, Aoi K, Matsuda A, Funaki T, Yamasaki K, Nakatsukasa M, et al
Establishment of a human corneal epithelial cell line lacking the functional TACSTD2 gene as an in vitro model for gelatinous drop-like dystrophy.
Invest Ophthalmol Vis Sci. , 54 (8) , 5701-5711  (2013)
10.1167/iovs.12-11043.

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231063Z