文献情報
文献番号
201231059A
報告書区分
総括
研究課題名
好酸球性副鼻腔炎の診断基準作成と網羅的解析に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-難治-一般-080
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
藤枝 重治(福井大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 野口 恵美子(筑波大学 人間総合科学研究科)
- 玉利 真由美(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
- 池田 勝久(順天堂大学 医学部)
- 飯野 ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター)
- 石戸谷 淳一(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
- 河田 了(大阪医科大学 医学部)
- 春名 眞一(獨協医科大学 医学部)
- 平川 勝洋(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院)
- 川内 秀之(島根大学 医学部)
- 氷見 徹夫(札幌医科大学 医学部)
- 岡野 光博(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
- 吉川 衛(東邦大学 医学部)
- 坂下 雅文(福井大学 医学部)
- 浦島 充佳(東京慈恵会医科大学 分子疫学)
- 鴻 信義(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科)
- 谷口 正実(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
れまで日本においては、好中球浸潤を主とした慢性副鼻腔炎がほとんどであったが、最近好酸球浸潤の著明な難治性である好酸球性副鼻腔炎(Eosinophilic chronic rhinosinusitis: ECRS)が増加してきた。これは鼻茸を合併し、鼻内視鏡手術を行っても再発しやすく、ステロイド内服のみが有効な難治性副鼻腔炎である。しかし発症機序は不明であり、病態の理解も曖昧であった。H22年に全国12共同研究施設で過去3年間の副鼻腔炎手術症例3014例(うちECRS 27.6%)を解析し、ECRSに対する整数の重み付け診断基準案を作成した。これは8項目の臨床データからなるが、最終的にスコア5点以上をECRSと判定すると、感度76%、特異度72%であった。この基準をもとに2年間(H23~24年)の手術症例を対象に、前向き研究を行った。これは診断基準から術前にECRSを診断し、組織結果とともに最終確認をしてその有用性を判断するものである。
一方で、ステロイド以外に有効な治療手段がないECRSの新しい治療法を確立することも重要である。そのために蛋白やRNA発現に関する網羅的解析を行い、標的分子を探索した。
一方で、ステロイド以外に有効な治療手段がないECRSの新しい治療法を確立することも重要である。そのために蛋白やRNA発現に関する網羅的解析を行い、標的分子を探索した。
研究方法
全国12施設において、平成23年から24年の2年間に行った両側性副鼻腔炎の手術症例に関し、レントゲン、内視鏡検査、各種聴力検査、細胞診、鼻汁・中耳好酸球検査、末梢血液像、一般採血、CTを行い、完全な臨床データ作成と診断基準による術前診断を行った。手術終了後、データシートを回収し福井大学に集め、データを入力、慈恵医大で解析した。好酸球性副鼻腔炎診断の重み付けに則り、各症例のスコアを算出した後、術後の病理診断と最終的に比較検討した。さらに重み付けを適応し、診断の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を検討した。
摘出した鼻茸は、網羅的蛋白解析、次世代シークエンサーとマイクロアレーによる網羅的RNA発現解析、標的分子に関する免疫組織化学にて検討した。蛋白解析は通常の二次元電気泳動後、MALDI-TOFMSからMascot解析を行い、蛋白を同定した。次世代シークエンサーは、SOLiDTMTotal RNA-Seq Kitを用いてライブラリーを作成後、SOLiDTM 5500xlでのシーケンシング、LifescopeTM Genomic Analysis Softwareを用いたゲノムマッピング、そして最後にAvadis NGSにてデータ解析を行った。
摘出した鼻茸は、網羅的蛋白解析、次世代シークエンサーとマイクロアレーによる網羅的RNA発現解析、標的分子に関する免疫組織化学にて検討した。蛋白解析は通常の二次元電気泳動後、MALDI-TOFMSからMascot解析を行い、蛋白を同定した。次世代シークエンサーは、SOLiDTMTotal RNA-Seq Kitを用いてライブラリーを作成後、SOLiDTM 5500xlでのシーケンシング、LifescopeTM Genomic Analysis Softwareを用いたゲノムマッピング、そして最後にAvadis NGSにてデータ解析を行った。
結果と考察
平成23年から24年の間に、12施設で行われた両側副鼻腔炎手術症例574例が、登録された。うち術前でのECRS診断は33.8%であった。平成22年の調査時よりもECRSの率が約5%増加した。この原因は不明である。好酸球性副鼻腔炎の発表行っていくうちに紹介が増えた影響もあると思われるとともにECRS患者の増加があるかもしれない。
網羅的蛋白解析では、アスピリン喘息に伴う鼻茸で高発現をしていたL-plastinが、ECRSの鼻茸においても高い発現していた。L-plastin陽性細胞はほとんど好酸球であった。L-plastinの機能解析では、GM-CSMによる細胞移動と走化性、血管浸潤in vitroモデルにおける浸潤の亢進に関与していた。また好酸球性副鼻腔炎に浸潤している肥満細胞の特徴も判明した。次世代シークエンサーの解析では発現プロファイルの異なる2群が認められ、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸に有意に高く発現している3遺伝子を同定できた。CCL18、CCL26、Hemogennase-1、SODが、標的因子の可能をもつことが判明した。
網羅的蛋白解析では、アスピリン喘息に伴う鼻茸で高発現をしていたL-plastinが、ECRSの鼻茸においても高い発現していた。L-plastin陽性細胞はほとんど好酸球であった。L-plastinの機能解析では、GM-CSMによる細胞移動と走化性、血管浸潤in vitroモデルにおける浸潤の亢進に関与していた。また好酸球性副鼻腔炎に浸潤している肥満細胞の特徴も判明した。次世代シークエンサーの解析では発現プロファイルの異なる2群が認められ、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸に有意に高く発現している3遺伝子を同定できた。CCL18、CCL26、Hemogennase-1、SODが、標的因子の可能をもつことが判明した。
結論
ECRSには重症度が存在し、その分類作成の必要性が、臨床的にもまたL-plastinの免疫組織化学検討からも見出された。重症のECRSが真の難治性ECRSであると考えられるが、その診断基準は、平成23年から24年の間に登録された手術症例574例と、平成22年登録の3014例に関する鼻茸再発を基準にした予後調査で作成できる。
これまで作成した診断基準や臨床所見を多くの学会、研究会で発表したので、かなりの啓蒙活動が行えた。しかし現在の診断基準は、慢性副鼻腔炎を専門とする耳鼻咽喉科医向けのものであり、最初に診察している家庭レベルでは、まだまだ理解できる内容ではない。今後はこのような医師にもECRSの可能性が見出せる診断手引きを作成する必要がある。
これまで作成した診断基準や臨床所見を多くの学会、研究会で発表したので、かなりの啓蒙活動が行えた。しかし現在の診断基準は、慢性副鼻腔炎を専門とする耳鼻咽喉科医向けのものであり、最初に診察している家庭レベルでは、まだまだ理解できる内容ではない。今後はこのような医師にもECRSの可能性が見出せる診断手引きを作成する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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