浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発

文献情報

文献番号
199800126A
報告書区分
総括
研究課題名
浸潤・転移の分子機構に基づいた転移の予防及び新しい治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
竜田 正晴(大阪府立成人病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 明渡均(大阪府立成人病センター)
  • 向井睦子(大阪府成人病センター)
  • 高橋克仁(大阪府立成人病センター)
  • 飯石浩康(大阪府立成人病センター)
  • 伊藤和幸(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では①浸潤を定量化したin vitro浸潤モデルと②ヒトにみられるような発癌から転移に至る過程を研究しうる転移動物モデルを開発した。浸潤モデルを用い、がん細胞の浸潤、転移の分子機構とシグナル伝達系の解明を行い、基礎研究により得られた成果に基づき、浸潤・転移抑制物質を検索し、さらに新たに開発した転移動物モデルを用い、その有効性を検証するという一貫した研究システムを構築した。この一貫した研究システムを用い、本年度は、さらに強力な浸潤・転移抑制物質を有する薬剤を検索し、その抑制機序を解明するとともに、転移動物モデルを用い、その有効性と安全性を確認しヒトがん転移の予防、治療への道を拓きたい。
研究方法
(1)浸潤抑制物質の検索とその抑制機序の解明。これまでにリゾフォスファチジン酸(LPA)が強力な浸潤誘発物質であること、及びその誘導体であるcyclic LPAがcyclic AMPの上昇を介して浸潤を強く抑制することを示した。本年度は癌細胞内のcyclic AMP濃度を上昇させるホスフォダイエスレースⅢ阻害剤であるシロスタゾールの浸潤抑制作用を検討した。浸潤の程度は、我々が既に開発したin vivo浸潤モデル(単層培養浸潤モデル)を用い測定した。この培地にcyclic LPAやシロスタゾールなどの薬剤を添加し、MM1細胞(ラット腹水肝癌細胞)の浸潤に及ぼす効果を検討した。(2)動物転移モデルを用いた転移抑制物質の検索。Wistar系雄性ラットに発癌剤azoxymethan(7.4 mg/kg)を週1回、10週間皮下注射するとともに、同時にオリーブ油に懸濁した消化管ホルモンであるボンベシン40μg/kgを隔日に投与すると、実験開始45週目に腹膜播種性転移が高率に認められる。蛋白チロシン燐酸化酵素の特異的阻害剤であるゲニスティン5 mg/kgまたは10 mg/kgを実験開始16週目から実験終了までに皮下に隔日に投与し、すべてのラットを45週目に屠殺し、大腸・小腸腫瘍の有無、腹膜播種性転移の有無について、肉眼的および組織学的に検討した。
結果と考察
①浸潤を定量化しうるin vivo浸潤モデルと発癌から転移にいたる過程を研究しうる転移動物モデルを開発し、この一貫した研究モデルを用い、浸潤・転移の分子機構の解明と浸潤・転移抑制物質の検索を行った。②ホスフォダイエステレースⅢ阻害剤であるシロスタゾールはin vitro浸潤モデルで容量依存性に浸潤を抑制することが明らかにされた。その作用機序を検討すると、シロスタゾールはfocal adhesion kinase及びMAP kinaseのリン酸化を共に抑制することからcyclic AMPに比し、より上流のシグナル伝達系を抑制すると考えられる。③浸潤・転移に低分子量G蛋白Rhoが深く関与しており、本年度は、その標的蛋白であるRho kinase systemが重要な役割をはたしていることを明らかにした。④がんの手術に際し、姑息的手術操作のみに終わった場合、がんの進展や転移が著明になることに着目し、外科的手術操作による浸潤能への効果を検討した。ドレーン排液中には強い浸潤促進作用があることが示された。ドレーン排液中の浸潤促進活性は熱耐性でトリプシンにより分解され、分子量50~100kd程度の蛋白である可能性が示された。⑤本年度は動物転移モデルを用い、蛋白チロシン燐酸化酵素の特異的阻害剤であるゲニスティンが、浸潤、転移抑制作用を有することを示した。ゲニスティンは大豆に多量に含まれるisoflavoneの一種で、経口摂取による転移予防の可能性が示唆された。⑥既に存在する転移に対する治療法の開発を目指し、interleukin(IL)-18のヒト乳癌細
胞の骨転移に対する効果を検討した。IL-18は破骨細胞の分化を抑制し、乳癌の骨転移を抑制した。
結論
in vitro及びin vivo浸潤転移モデルを用い、浸潤・転移の分子機構を検討し、その成果に基づき新しい浸潤・転移抑制物質シロスタゾール、Y-27632、ゲニスティン、IL-18などを見出し、これらの物質の臨床への応用の可能性を示した。

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