文献情報
文献番号
201231013A
報告書区分
総括
研究課題名
重症度別治療指針作成に資すHAMの新規バイオマーカー同定と病因細胞を標的とする新規治療法の開発
課題番号
H22-難治-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
出雲 周二(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 中村 龍文(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
- 植田 幸嗣(独立行政法人理化学研究所 バイオマーカー探索・開発チーム)
- 中川 正法(京都府立医科大学大学院 医学研究科)
- 原 英夫(佐賀大学 医学部)
- 久保田龍二(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
- 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
- 高嶋 博(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
- 星野 洪郎(群馬大学大学院 医学系研究科)
- 齊藤 峰輝(川崎医科大学 医学部)
- 竹之内徳博(関西医科大学 医学部)
- 小嶋英二朗(福山大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
33,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HTLV-1関連脊髄症(HAM)は全国に約110万人存在するHTLV-1感染者のごく一部に発症する難治性疾患で、H21年度に難治性疾患克服研究事業の対象疾患に指定された。先進国で患者が多いのは日本のみで、研究推進における我が国の役割は大きい。しかしその希少性ゆえに患者が点在し、患者情報が効率的に集約されないため病態研究や治療薬の開発研究は不十分で、疾患の認知度は低く、かつ治療のための指針が作成されていない。重症度に応じた治療指針作成や広報活動、根本的治療法の開発研究が急務である。本研究ではHAMの臨床研究に関する全国的なネットワークの形成により情報を共有化し、疾患活動性評価や予後予測、治療効果判定に有用なバイオマーカーを見出す。また、臨床試料のプロテオーム解析手法を応用することにより病態研究を加速させ、早期診断や病態把握のマーカー、新規治療の標的分子を見出し、重症度別治療指針の作成や革新的な治療法の開発を目的としている。
研究方法
九州地区と関東関西の大都市圏で専門外来を持つ各診療施設と、HAMの臨床病態の研究に実績を有する研究者、プロテオミクスによるバイオマーカー探索の実績を有し世界トップレベルの質量分析装置を備えている研究チーム、統計学的解析に精通した難病疫学研究者により研究組織を構成した。全国的なHAM患者外来を有する専門医によるチームを組織し各々の情報を集約して共有できるデータベースを作成し研究基盤を確立するとともに、分担して臨床研究を進めた。感染拡大機序の研究、臨床に応用できるバイオマーカーの探索には、定量プロテオミクスやマイクロアレー、レクチンアレー法などの網羅的解析法をもちいて患者試料を解析した。また、治療法開発に向けて有効性に関する臨床試験を実施した。すでに新規治療薬の候補薬剤プロスルチアミンについて経口剤を開発し、医師主導の多施設臨床試験として各施設で治験開始した。
結果と考察
本年度の研究成果として、昨年度までに見出された複数の治療標的分子の候補の解析が進んだ。マイクロアレー解析データを用いたパスウェイ解析でHAM特異的パスウェイ12個が見いだされ、そのうち11個に関与しているアポトーシス関連シグナル伝達遺伝子Gene Xの解析法が確立され、多数検体での解析が進んでいる。HTLV-1マイナス鎖にコードされるHBZに対する細胞傷害性T細胞応答が生じており、ワクチンの標的分子となりうること、gp46-197N末端親水性領域に位置するアミノ酸とのイオン性相互作用がウイルス感染に関与し、治療の標的となることが示された。さらに、髄液のプロテオームプロファイリングよる重症度を反映するバイオマーカー候補の絞り込みがすすみ、細胞外マトリックスタンパク質Fが見出された。重症度を反映するとともに、治療標的分子としても注目される。HAMの進行度と密接に関連するマーカーとして、「髄液CXCL10」および「髄液ネオプテリン」が有用であることがあらためて示され、HAM患者CD4陽性T細胞におけるTSLC1の測定はHAMの疾患活動性を評価するバイオマーカーとして有用である可能性が示された。臨床病態解析からは、HAMの家族例の臨床的解析が報告された。高嶋班として推進される次世代シーケンサーを用いた疾患関連遺伝子の網羅的解析結果を検証し、補完する臨床情報として重要である。プロスルチアミン経口剤での医師主導の臨床試験が進展しており、多数例での有用性が確認された。診療実態調査から他のHTLV-1関連疾患やC型肝炎、ADLの低下に直結する骨折、褥瘡の合併が多く、患者の長期的な予後は決して良くない実態が明らかとなった。これらを参考に「HAM診療マニュアル」を作成した。また、市民公開講演会を開催し、本研究班の成果説明およびHAMの啓蒙活動を行った。
結論
HAM患者は他のHTLV-1関連疾患やC型肝炎、ADLの低下に直結する合併症が多く、長期的予後は不良であり、その改善のために「HAM診療マニュアル」を作成し、全国に配布した。HAM患者の病態に関与し治療の標的となる複数の分子が同定され、その詳細な解析が進んだ。疾患活動性のマーカーについて臨床応用可能なものが見出された。プロスルチアミンの臨床試験で有効性、安全性が確認された。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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