文献情報
文献番号
201231009A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病予防の実用化に関する研究
課題番号
H22-難治-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堂浦 克美(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 工藤 幸司(東北大学 病院臨床試験推進センター)
- 岡村 信行(東北大学 大学院医学系研究科)
- 逆瀬川 裕二(東北大学 大学院医学系研究科)
- 上高原 浩(京都大学 大学院農学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
26,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
プリオン病患者の約9割は原因が不明で60~70歳代に発症する。高齢化とともに患者数は増加しており、医療行為による二次感染のリスクも高まっている。一方、二次感染による発症リスク保有者やプリオン蛋白遺伝子変異キャリアーは、世界的には数千人以上の規模で存在していると推定されている。好発年齢者やリスク保有者に対して、ワクチンや日常的に経口摂取できる予防薬のような発症予防を目的とした予防手段の開発は行われていない。予防手段を実用化できれば、プリオン病を克服できる可能性がある。研究代表者らは、基礎研究成果として、発症後に治療的介入を行っても病気の進行を止めることは不可能であるが、潜伏期の予防的介入では体内への単回投与で発症を寿命一杯まで遅らせるところまで達成可能な化合物としてセルロース誘導体化合物(CE)を発見した。そこで、本研究ではプリオン病の発症をほぼ寿命一杯にわたり阻止する手段として、このCEの実用化開発を行った。
研究方法
CEの体内投与で毒性所見が観察されたことから、CEの治療予防的効果を高めながら、実用化のハードルである毒性とバイオアベイラビリティの改善手段を模索し、CEおよびCE関連化合物の薬物最適化研究・薬物送達研究・作用機序解明研究を当該年度に実施した。これらの研究では、各種のCE修飾体の検討に加えて、開発や展開が容易であるオリゴ糖体の薬物最適化も行った。また、これまでの研究成果を踏まえて、安全で効率的な送達方法や安全性が高いCE効果増強手段の開発や、CE効果を代行する可能性のある既製薬品の薬効評価を実施した。さらに、これまでの作用機序解明研究で有力と考えられた貪食細胞-胸腺細胞(非αβ+T細胞)系とホルモン・サイトカイン系について、相互の関連解析や動作機構等を含む詳細な解析を実施して、創薬開発の効率化をめざすとともに、プリオンに対する宿主制御系の解明をめざした。
結果と考察
これまでのCEに関する研究では、体内に投与した際には有効性は高いが、毒性所見が出現することを克服できなかった。CEが高分子の生体不活性物質である点と長期間にわたる予防的効果から推測すると、毒性所見の出現は予防的効果と密接に関係している可能性があり、CEの効果と毒性所見を切り離すことはできないのではないかとも推測していた。しかしながら、最終年度として、プリオン病克服の実現に向けて大きな前進があった。すなわち、CEの効果発現と毒性発現を切り離すことが可能で、CE実用化の障壁となっていた2つの課題(体内投与では回復に長期間を要する毒性があることと、安全性が高い経口投与では有効性が低いこと)を同時に解決する手段として、CEの特定の疎水性修飾が極めて有効であることを見つけた。また、有効性を増大させ、腸管吸収とバイオアベイラビリティを高める媒体を発見した。一方で、作用機序に関わる解明研究においては、胸腺除去によりCE効果が驚異的に増強されるが、泡沫状貪食細胞-胸腺細胞(非αβ+T細胞)系やホルモン・サイトカイン系は、直接的な実行因子群や近傍因子群ではないことが強く示唆され、創薬開発の効率化に寄与できなかった。しかし、これらの解析の中からも、プリオンに対する宿主制御系を解明する新たな手掛かりが得られており、最終年度として発展性がある成果を全般的に上げることができた。
これまでの国内外の研究成果を見ても、CEを凌ぐ発症予防的効果を発揮する手段は、プリオン蛋白の発現を完全に無くしてしまうこと以外にはない。現時点で実現可能な手段で、現実的なプリオン病克服の戦略としては、CE効果の実用化以外には考えられない。引き続き、CE効果の実用化に向けて成果を積み重ねていくことが重要である。
これまでの国内外の研究成果を見ても、CEを凌ぐ発症予防的効果を発揮する手段は、プリオン蛋白の発現を完全に無くしてしまうこと以外にはない。現時点で実現可能な手段で、現実的なプリオン病克服の戦略としては、CE効果の実用化以外には考えられない。引き続き、CE効果の実用化に向けて成果を積み重ねていくことが重要である。
結論
CE効果の実用化研究として、薬物最適化研究・薬物送達研究・作用機序解明研究を実施し、実用化のハードルとなっていたCEの毒性を低減させると同時にCE効果を高める工夫の開発に成功し、実用化に向けて大きく前進した。一方で、作用機序については、貪食細胞の関与を示す以外に所見は得られず、分子機序は不明である。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
-