ゲノム解析による原発性アルドステロン症の原因診断学の再構築

文献情報

文献番号
201231008A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム解析による原発性アルドステロン症の原因診断学の再構築
課題番号
H22-難治-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 均(京都大学 薬学研究科医薬創成情報科学講座システムバイオロジー分野)
研究分担者(所属機関)
  • 笹野 公伸(東北大学 医学系研究科)
  • 河野 雄平(独立行政法人国立循環器病研究センター 高血圧腎臓内科)
  • 神出 計(大阪大学 医学系研究科)
  • 江本 憲昭(神戸薬科大学 薬学部)
  • 成瀬 光栄(独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) 内分泌代謝高血圧研究部)
  • 角谷 寛(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
21,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、原発性アルドステロン症(PA)の疾病頻度が全高血圧の約3-10%に存在することが知られ、その診断の重要性が大きく浮上してきた。PAは難治性高血圧の原因となり、また心血管系の合併症が高頻度なため、適切な診断・治療が求められている。PAの病態はアルドステロン腺腫(APA)によるものと特発性アルドステロン症(IHA)があるが、前者は手術摘除により降圧が得られるため、その適切で迅速な診断と治療が求められる。PAは、血漿アルドステロン濃度(PAC)、レニン活性(PRA)、副腎CTのみならず、最終的には特殊な手技を要する副腎静脈サンプリングを行い確定診断するが、診断に難渋することが多い。本研究は、原因が不明で煩雑で難しいPAの診断を迅速・確実に行うための遺伝子・分子情報の提供を目指すものである。
 アルドステロンは副腎で産生されるが、ステロイド合成において他の細胞に見られない特徴が有る。古くより、アルドステロンを直接産生する酵素であるCYP11B2のみがアルドステロン細胞に特殊な酵素であることがわかっていたが、我々は、アルドステロン合成の中間段階であるプレドニゾロンをプロゲステロンに変換するHSD3Bに、従来知られていなかった高活性の新たなサブタイプ(ヒトHSD3B1)が、アルドステロン産生細胞に発現することを報告した。マウスでもこれに該当する酵素は、やはり副腎アルドステロン細胞に存在し、リズム異常を来す食塩感受性高血圧マウスでは過剰に発現し、副腎球状層のIHA様の過形成を示す。従って、HSD3B1がどのようにヒトPAの疾患形成にかかわっているのかはきわめて注目される。
研究方法
(1)球状層特異的HSD3B1遺伝子のコーディングおよびプロモーターの多型解析。
各実施施設の倫理委員会に「原発性アルドステロン症遺伝素因の解明」の課題を申請し、承認され、文書による同意の得られた114例の血液検体を解析した。
(2)HSD3B遺伝子アイソザイムによるPAの新分子診断法の開発研究
上記ゲノム診断の重要性を検証するため、PAの新分子診断法を開発した。今回、副腎病理組織を用いて、HSD3B1及びHSD3B2各々に特異的なモノクローン抗体を作成し、APAとIHAの鑑別診断への有用性を検討した。その結果で疾患特異性があったので、さらにこの酵素の差が、副腎静脈血のステロイド代謝に反映していないかどうかを化学的に検討した。
結果と考察
 所属する研究機関で収集したPA患者の血液サンプルでのHSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析を行い、進行させた。PA患者の血液サンプルでのHSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析を行った結果、プロモーター領域1個、コーディング領域 exon 4 に 6個、exon3に1個のヘテロ接合体を認めた。これらを臨床データとの解析を相関を解析したところ、HSD3B1遺伝子のSNPの一部はPAにおけるPRAやアルドステロンレニン比ARRなどのホルモン・プロファイルに影響を及ぼす可能性が示唆された。
 さらに、HSD3B1のPA病態に対する重要性を検索するため、ゲノム解析と平行して進めていた、HSD3B1とHSD3B2を別々に認識するアイソザイム特異モノクローン抗体の作成に成功した。こレラモノクローン抗体は一アミノ酸残基の差を認知するほどの特異抗体であった。この抗体は病理組織の免疫組織化学に適応可能で、HSD3Bの2つのアイソザイムがIHAとAPAというPAの2大病型に、各々別々に発現していた。さらにこの結果は、副腎静脈血のステロイド代謝に反映していた。
結論
 高血圧症に中で、重要な位置を占めるPAの診断を迅速・確実に行うための遺伝子・分子情報の提供を目指した。この中で今回注目したのは、その過剰発現が、マウスで食塩感受性高血圧を起こすヒトHSD3B1のゲノム配列である。PA患者の血液サンプルでのHSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析を行った結果、プロモーター領域、コーディング領域 に、総計8個のヘテロ接合体を認めた。これらの解析の結果、HSD3B1遺伝子のSNPの一部はPAにおけるホルモン・プロファイルに影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに、このHSD2B1ゲノム解析のPAの病態への重要性を検索するため、ゲノム解析と平行して進めていたHSD3B1のPAでの発現解析のためのHSD3B1とHSD3B2を別々に認識するアイソザイム特異モノクローン抗体を作成した。この抗体は病理組織の免疫組織化学によるIHAとAPAの鑑別に適応可能で、HSD3Bを利用したPAの新規のゲノム・分子診断法の今後の展開が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231008B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム解析による原発性アルドステロン症の原因診断学の再構築
課題番号
H22-難治-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 均(京都大学 薬学研究科医薬創成情報科学講座システムバイオロジー分野)
研究分担者(所属機関)
  • 笹野 公伸(東北大学 医学系研究科)
  • 河野 雄平(独立行政法人国立循環器病研究センター 高血圧腎臓内科)
  • 神出 計(大阪大学 医学系研究科)
  • 江本 憲明(神戸薬科大学 薬学部)
  • 成瀬 光栄(独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) 内分泌代謝高血圧研究部)
  • 角谷 寛(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 原発性アルドステロン症(PA)の疾病頻度は全高血圧の約3-10%に達し、二次性高血圧症として、きわめて重要な疾患である。PAは難治性高血圧であり、心血管系の合併症の頻度が高く、適切な診断・治療が求められている。腫瘍性のアルドステロン腺腫(APA)と過形成の特発性アルドステロン症(IHA)の2型がPAにはあり、前者は手術摘除、後者が薬剤治療である。PAの鑑別診断は、血漿アルドステロン濃度(PAC)、レニン活性(PRA)でスクリーニングし、副腎CT、内分泌負荷試験、その後、副腎静脈サンプリングにて確定診断する。本研究は難しいPAの診断を迅速・確実に行うための遺伝子・分子情報の提供を目指す。
研究方法
 PAの原因が、合成酵素の過剰発現であることが想定されてきたが、その酵素が何であるかは、現在まで不明である。最近我々は、プレドニゾロンをプロゲステロンに変換する3-beta-HSDのうち高活性の新サブタイプ(ヒトHSD3B1)が副腎アルドステロン細胞に過剰発現すると、PA様病態を取ることを発見した。このHSD3B1は、ヒトアルドステロン細胞にも発現し、PAの原因物質候補として注目されている。今回、「球状層特異的HSD3B1遺伝子のコーディングおよびプロモーターの多型解析」、と「HSD3B遺伝子アイソザイムによるPAの新分子診断法の開発研究」を行なった。
 多型解析のためには、各実施施設の倫理委員会承認後、文書による同意の得られた114例の血液検体を解析した。続いて、ゲノム診断の重要性を検証するため、PAの新分子診断法を開発した。今回、副腎病理組織を用いて、HSD3B1及びHSD3B2各々に特異的なモノクローン抗体を作成し、APAとIHAの鑑別診断への有用性を検討した。その結果で病型特異性が認められたので、さらに質量分析計を用いて、副腎静脈血のステロイド代謝を解析した。
結果と考察
 HSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析を行い、以下の結果を得た。すなわち、プロモーター領域に rs932603 ヘテロ接合体を、コーディング領域 exon 4 に c.1012C>T (p.L338L, rs6203)、c.1100A>C (p.N367T, rs1047303)、c.856T>C (p.F286L, rs6205)、c.724G>A (p.D242N, rs34638609)、c.550G>A (p.A184T)、c.531C>A (p.G177G, rs190598307)、exon3に c.298G>A (p.V100I) を認め、rs6203、rs1047303 はそれぞれ複数のヘテロ接合体を認めた。現段階ではっきり臨床データとの関連性があるのは、c.1100A>C(p.N367T)のアレル間でのPRAやARRの差である。
 さらに、HSD3B1のPA病態に対する重要性を検索するため、ゲノム解析と平行して進めていた、HSD3B1とHSD3B2を別々に認識するアイソザイム特異モノクローン抗体の作成に成功した。この抗体は病理組織の免疫組織化学に適応可能で、HSD3Bの2つのアイソザイムがIHAとAPAというPAの2大病型に、各々別々に発現していた。以上の結果は、IHAとAPAが全くその病態を異なることを示唆している。
結論
 高血圧症に中で、重要な位置を占めるPAの診断を迅速・確実に行うための遺伝子・分子情報の提供を目指した。今回注目したのは、マウスでその過剰発現が食塩感受性高血圧を起こすことが証明されているヒトHSD3B1である。PA患者の血液サンプルでのHSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析にて、今回、プロモーター領域、コーディング領域 に、総計8個のヘテロ接合体を認めた。これらの解析の結果、HSD3B1遺伝子のSNPの一部はPAにおけるホルモン・プロファイルに影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに、このHSD2B1ゲノム解析のPAの病態への重要性を検索するため、ゲノム解析と平行して進めていたHSD3B1のPAでの発現解析のためのHSD3B1とHSD3B2を別々に認識するアイソザイム特異モノクローン抗体を作成した。この抗体は病理組織の免疫組織化学によるIHAとAPAの鑑別に適応可能で、HSD3Bを利用したPAの新規のゲノム・分子診断法の今後の展開が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 原発性アルドステロン症のHSD3B1のプロモーター部及びコーディング部のゲノム解析にて、種々のヘテロ接合体を認めた。解析の結果、HSD3B1遺伝子のSNPの一部は原発性アルドステロン症におけるホルモン・プロファイルに影響を及ぼす可能性が示唆された。
 さらに、腫瘍細胞と過形成に、HSD3B1とそのアイソザイムであるHSD3B2が病型特異的に発現することを発見した。
臨床的観点からの成果
 ステロイド合成酵素の3-beta-HSDの2種のサブタイプ(HSD3B1とHSD3B2)を別々に認識するアイソザイム特異モノクローン抗体の作成に成功した。この抗体は病理組織の免疫組織化学による原発性アルドステロン症の2大病型である特発性アルドステロン症とアルドステロン産生腫瘍の鑑別に適応可能で、HSD3Bの新規のゲノム・分子診断法と組み合わせて、今後の診断への応用が期待される。
ガイドライン等の開発
安価で安定したゲノムDNA診断法を開発するための基礎的な成果が得られた。
その他行政的観点からの成果
 近年、急速に高血圧症に中で頻度が高くなった、原発性アルドステロン症の診断を迅速・確実かつ安価に行うための遺伝子・分子情報の提供を目指した。今回のアルドステロン症患者血液からのゲノムDNAの多型解析が可能であることがわかり、さらに症例を増やすことで、安価で、安定した多型解析による診断を確立したい。
その他のインパクト
1.公開講演会:いのちの科学フォーラム(第26回市民公開講座) 「体内時計と健康」(日時:2012年12月8日(土) 13:30-18:00、場所:京都大学医学部芝蘭会館、主催:体質研究会 にて、研究成果の一部を発表

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
101件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
93件
このうち教育講演など招待講演31件
学会発表(国際学会等)
26件
このうち基調講演など招待講演19件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
公開シンポジウムでの講演3件

特許

特許の名称
原発性アルドステロン症の検出方法及びモノクローナル抗体
詳細情報
分類:
特許番号: 2012-222030
発明者名: 岡村 均 土居雅夫 佐藤文俊 笹野公伸 森本玲 伊藤貞嘉 中村保宏
出願年月日: 20121004
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okamura H, Doi M, Yamaguchi Y, 他
Hypertension due to loss of clock: novel insight from the molecular analysis of Cry1/Cry2-deleted mice.
Current Hypertension Reports, , 13 (2) , 103-108  (2011)
10.1007/s11906-011-0181-3.
原著論文2
Kamide K, Kokubo Y, Yang J, 他
Association of intima-media thickening of carotid artery with genetic polymorphisms of the regulator of G-protein signaling 2 gene in patients with hypertension and in the general population.
Hypertension Research , 34 (6) , 740-746  (2011)
10.1038/hr.2011.25.
原著論文3
Ota T, Fustin JM, Yamada H, 他
Circadian clock signals in the adrenal cortex.
Molecular and Cellular Endocrinology, , 349 (1) , 30-37  (2012)
10.1016/j.mce.2011.08.010
原著論文4
Fustin J-M, Doi M, Yamada H, 他
Rhythmic nucleotide synthesis in the liver: Temporal segregation of metabolites.
Cell Reports, , 1 (4) , 341-349  (2012)
10.1016/j.celrep.2012.03.001.
原著論文5
Nanba K, Tamanaha T, Nakao K, 他
Confirmatory testing in primary aldosteronism.
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, , 97 (5) , 1688-1694  (2012)
10.1210/jc.2011-2504.
原著論文6
Nanba K, Tsuiki M, Sawai K, 他
Histopathological diagnosis of primary aldosteronism using CYP11B2 immunohistochemistry.
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, , 98 (4) , 1567-1574  (2013)
10.1210/jc.2012-3726.
原著論文7
Ota T, Doi M, Yamazaki F, 他
Angiotensin II triggers expression of the adrenal gland zona glomerulosa-specific 3β-hydroxysteroid dehydrogenase isoenzyme through de novo protein synthesis of the orphan nuclear receptors NGFIB and NURR1.
Mol Cell Bio , 34 (20) , 3880-3894  (2014)
10.1128/MCB.00852-14
原著論文8
Doi M, Satoh F, Maekawa T,他
Isoform-specific monoclonal antibodies against 3β-hydroxysteroid dehydrogenase/isomerase family provide markers for subclassification of human primary aldosteronism.
J Clin Endocrinol Metab , 99 (2) , E257-E262  (2014)
10.1210/jc.2013-3279
原著論文9
Yamamura K, Doi M, Hayashi H,他
Immunolocalization of murine type VI 3β-hydroxysteroid dehydrogenase in the adrenal gland, testis, skin, and placenta.
Mol Cell Endocrinol , 382 (1) , 131-138  (2014)
10.1016/j.mce.2013.09.014

公開日・更新日

公開日
2016-06-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231008Z