難治性炎症性腸疾患のゲノムおよびエピゲノム解析による病因・病態・治療抵抗性機序の解明

文献情報

文献番号
201231004A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸疾患のゲノムおよびエピゲノム解析による病因・病態・治療抵抗性機序の解明
課題番号
H22-難治-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
笹月 健彦(九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 日比 紀文(慶應義塾大学 医学部)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 松本 主之(九州大学病院)
  • 土肥多惠子(国立国際医療研究センター研究所)
  • 石谷 太(九州大学 生体防御医学研究所)
  • 山本 健(九州大学 生体防御医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
24,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症性腸疾患の病因、病態および抗TNFα抗体療法抵抗性の遺伝的機序を、ゲノム情報およびエピゲノム解析により解明し、これらと臨床情報を加えた三大情報を統合的に解析することにより、難治性IBDの病因・病態・抗TNFα抗体治療抵抗性機序を解明し、本疾病克服への道を拓く。
研究方法
臨床検体の収集:倫理審査承認を得た後、共通のインフォームドコンセントのもと、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、九州大学を中心に組織を整備して検体収集を行う。ゲノム解析:これまでに全ゲノム相関解析によって報告された遺伝子多型を文献より抽出し解析対象遺伝子とする。またHLAについては、HLA-A,C,B,DRB1,DQB1およびDPB1の6座について別途解析する。エピゲノム解析:生検試料から上皮細胞と粘膜固有層細胞を分取し、セルソーターを用いてマクロファージ分画を精製した後、網羅的遺伝子発現解析、MeDIPシークエンス、抗ヒストン3K4、3K9、3K27抗体を用いたChIPシークエンスを行う。消化管上皮細胞分化因子の解析:ヒト腸上皮由来細胞株とモデル脊椎動物ゼブラフィッシュを用い、腸上皮の再生分化を制御する分子群の分子・細胞・組織レベルの機能を解明する。
結果と考察
外来および入院患者の臨床情報から、ゲノム解析に供する詳細な臨床情報を備えた患者群を選択する体制が整った。これまでに、CD208検体、UC32検体が収集された。本研究では、まずHLAクラスI遺伝子座解析を行った。その結果、A2グループ(A*02:01およびA*02:07)、Cw*14:02およびB*51:01をCD感受性HLA遺伝子座として同定した。これまでに全ゲノム相関解析にて報告された40個のIBD感受性遺伝子についてCD201検体の遺伝子型を取得し、まず一般集団384名を対照とした相関解析を実施した。その結果、3つの遺伝子領域に位置する6SNPにおいて、補正後も相関を示すSNPを認めた。抗TNFα抗体治療不応答例の遺伝背景を解明するために、現時点で一次無効の有無が明らかな97 CD症例を対象として、上記SNP遺伝子型を解析した。CD感受性3遺伝子座の代表3SNPを選択し、そのリスクアレル保有数をリスクスコアとし、その分布を検討した。一次無効あり群では、一次無効無し群に比べて、分布はリスクスコアが高いほうに偏っていた。リスクスコア5を基準にし、以下の結果が得られた。(a)一次無効あり症例の約73%はリスクスコア5または6であるが、一次無効なし症例では約30%である(オッズ比6.2、P=0.0054)。なお、健常人でも約15%はリスクスコア5以上である。(b)CD全体では約11%が一無効症例であったが、リスクスコア5以上を保有するCD患者では約24%に上昇する。リスクスコア5未満CD症例では約5%である。このように、CDと相関するする遺伝要因が、抗TNFα抗体治療に対する抵抗性を規定する要因のひとつであることが強く示唆された。エピゲノム解析では、難治例のUCの手術摘出標本病変組織から粘膜固有層単核細胞を分離し、DNAメチル化修飾、ヒストン3K4トリメチル化修飾、ヒストン3K9トリメチル化修飾、ヒストン3K27トリメチル化修飾の網羅的解析を行った。その結果、UC症例のCD33+細胞において炎症・インフラマソーム関連遺伝子に遺伝子発現促進的ヒストン修飾(ヒストン3K4トリメチル化修飾)を認めた。腸上皮組織におけるNLKの機能を解析するためにゼブラフィッシュにおいてNLKの機能阻害実験を行ったところ、NLK阻害個体の腸上皮においてNotchシグナル活性の亢進と、杯細胞マーカー遺伝子の発現低下、杯細胞などの粘液細胞の減少が観察された。また、昨年度に大腸癌において発現が低下する遺伝子として新たに見いだされたHIPK2の機能解析を行い、大腸癌細胞株LovoにおいてHIPK2をRNAiにより機能阻害するとWntシグナル標的遺伝子であるAxin2と癌遺伝子c-Mycの発現が亢進することを見いだした。
結論
CD病感受性HLAクラスIアレルとしてHLA-A2グループ(A*02:01およびA*02:07)、Cw*14:02およびB*51:01を、抵抗性アレルとしてHLA-A*24:02およびB*07:02を同定した。SNP解析においては、3遺伝子座とCDとの相関を同定した。CDにおける抗TNFα抗体療法一次無効例において、上記遺伝子座のSNPのリスクアレル保有数が有意に増加していることを見出した。エピゲノム解析においては、次世代シークエンサーを用いて微量検体からゲノムワイドにデータを取得する技術を確立し、UC病変粘膜を用いたエピゲノム解析を行い、疾患特異的なエピゲノム変化を見出した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231004B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性炎症性腸疾患のゲノムおよびエピゲノム解析による病因・病態・治療抵抗性機序の解明
課題番号
H22-難治-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
笹月 健彦(九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 日比 紀文(慶應義塾大学 医学部)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 松本 主之(九州大学病院)
  • 土肥多惠子(国立国際医療センター研究所)
  • 石谷 太(九州大学 生体防御医学研究所)
  • 山本 健(九州大学 生体防御医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症性腸疾患(IBD)の病因、病態および抗TNFα抗体療法抵抗性の遺伝的機序を、ゲノム情報およびエピゲノム情報により解明し、本疾病克服への道を拓く。
研究方法
<研究体制>笹月健彦を研究代表者とし、研究分担者として日比紀文、渡辺守、松本主之、土肥多惠子、石谷太、山本健に加え、研究協力者に久松理一(慶応義塾大学)、土屋輝一郎(東京医科歯科大学)、河村由紀(国立国際医療センター)、中島直樹(九州大学病院医療情報部)の9名の体制で研究を推進する。<臨床検体の収集>倫理審査承認を得た後、共通のインフォームドコンセントのもと、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、九州大学を中心に組織を整備して検体収集を行う。<ゲノム解析>これまでに全ゲノム相関解析によって報告された遺伝子多型を解析対象とする。HLAについては、感受性と抵抗性アレル同定が期待されることからHLA-A,C,B,DRB1,DQB1およびDPB1の6座について別途解析する。<エピゲノム解析>生検試料から上皮細胞と粘膜固有層細胞を分取し、マクロファージ分画を精製した後、網羅的遺伝子発現解析、メチル化CpG結合蛋白MBDを用いたMeDIPシークエンス、抗ヒストン3K4、3K9、3K27抗体を用いたChIPシークエンスを順次実施する。<消化管上皮細胞分化因子の解析>ヒト腸上皮由来細胞株とモデル脊椎動物ゼブラフィッシュを用い、腸上皮の再生分化を制御する分子群の分子・細胞・組織レベルの機能を解明する。
結果と考察
平成24年度までに、CD208検体、UC32検体が収集された。HLAクラスI遺伝子座解析において、A2グループ(A*02:01およびA*02:07)、Cw*14:02およびB*51:01をCD感受性HLA遺伝子として、A*24:02、B*07:02を抵抗性HLA遺伝子として同定した。40個のIBD感受性遺伝子についてCD201検体のSNP遺伝子型を取得し、一般集団を対照とした相関解析を実施したところ、3遺伝子領域に位置する6SNPにおいて、補正後も相関を示すSNPを認めた。抗TNFα抗体治療不応答例の遺伝背景を解明するために、現時点で一次無効の有無が明らかな97CD症例を対象として、上記SNP遺伝子型を解析した。CD感受性3遺伝子座の代表3SNPを選択し、そのリスクアレル保有数をリスクスコアとし分布を検討したところ、一次無効あり群では、一次無効無し群に比べて、その分布はリスクスコアが高いほうに偏っていた。リスクスコア5を基準にし、以下の結果が得られた。(a)一次無効あり症例の約73%はリスクスコア5または6であるが、一次無効なし症例では約30%である(オッズ比6.2、P=0.0054)。なお、健常人でも約15%はリスクスコア5以上である。(b)CD全体では約11%が一無効症例であったが、リスクスコア5以上を保有するCD患者では約24%に上昇する。リスクスコア5未満CD症例では約5%である。このように、CDと相関するする遺伝要因が、抗TNFα抗体治療に対する抵抗性を規定する要因のひとつであることが強く示唆された。エピゲノム解析では、微量検体からの次世代シークエンサー用ライブラリー作製法を確立したことが特筆される。この手法を用い、難治例のUCの手術摘出標本病変組織から粘膜固有層単核細胞を分離し、DNAメチル化修飾、ヒストン3K4トリメチル化修飾、ヒストン3K9トリメチル化修飾、ヒストン3K27トリメチル化修飾の網羅的解析を行った。その結果、UC症例のCD33+細胞において炎症・インフラマソーム関連遺伝子に遺伝子発現促進的ヒストン修飾(ヒストン3K4トリメチル化修飾)を認めた。IBD病態形成における消化管上皮細胞分化因子の役割を解明するためにゼブラフィッシュにおいてNLKの機能解析を実施した。これまでに、消化管上皮の再生分化を制御するシグナルであるWntシグナルの新たな制御機構の同定、NLK標的遺伝子Gli1の同定、Notchシグナルの消化管上皮再生分化への関与の解明、大腸がんにおけるタンパク質リン酸化酵素HIPK2の発現低下の証明などに成功し、消化管組織の再生分化と疾患を制御するシグナルの新たな制御機構を解明した。
結論
CD病感受性HLAアレルとしてHLA-A*02:01、A*02:07、Cw*14:02およびB*51:01を、抵抗性アレルとしてHLA-A*24:02およびB*07:02を同定した。CDにおける抗TNFα抗体療法一次無効例において、3遺伝子座のSNPのリスクアレル保有数が有意に増加していることを見出した。エピゲノム解析において、次世代シークエンサーを用いて微量検体からゲノムワイドにデータを取得する技術を確立し、UC病変粘膜を用いたエピゲノム解析により、UC特異的なエピゲノム変化を見出した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ゲノム解析において、日本人クローン病の感受性HLAを、HLA-A*02:01、A*02:07、Cw*14:02およびB*51:01に、抵抗性HLAを、A*24:02およびB*07:02に同定した。またIL12B、TNFSF15、STAT3遺伝子との強い相関を同定した。エピゲノム解析では、次世代シークエンサーを用いて微量検体からゲノムワイドデータを取得する技術を確立し、潰瘍性大腸炎症例の大腸粘膜CD33細胞における、インフラマソーム関連遺伝子の転写促進的ヒストン修飾を同定した。
臨床的観点からの成果
抗TNFアルファ抗体療法の一次無効の有無が明らかなCD症例を対象とした解析により、IL12B、TNFSF15、STAT3遺伝子の代表的SNPのリスクアレル保有数(リスクアレルスコア)と抗TNFアルファ抗体療法応答性との相関を明らかにした。追加症例の検討の後、精度の高い結果を得ることによって、治療開始前に抗TNFアルファ抗体の効果の予見が可能となることが期待される。
ガイドライン等の開発
リスクスコア算出のための、日本人クローン病および潰瘍性大腸炎と相関する遺伝子群を追加する。精度の高いリスクスコアの確立を通して、抗TNFアルファ抗体療法応答性を判定するためのアルゴリズムを作成し、患者の遺伝背景に基づく抗TNFアルファ抗体投与のガイドライン開発を目指す。
その他行政的観点からの成果
治療低応答および抵抗性の問題こそが難治性疾患の本質的な問題である。本研究により、TNFアルファ抗体治療反応性および抵抗性に関連する因子が明らかとなり、それに基づくガイドラインが確立すれば、現在約30%が治療抵抗性を示す抗TNFアルファ抗体治療の際、応答する患者をあらかじめ選択することができ、患者の負担軽減とともに医療経済的な効果が期待される。さらに、治療抵抗性患者を選別し研究対象にすることによって、新規薬剤開発を促進することに繋がる。
その他のインパクト
微量検体からの次世代シークエンサー用ライブラリー作製法を確立したことは、クローン病や潰瘍性大腸炎のような、病変部検体入手が困難な難治性疾患の病態解明を飛躍的に進めることに繋がっている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hisamatsu T, Okamoto S, Hashimoto M, et al.
Novel, Objective, Multivariate Biomarkers Composed of Plasma Amino Acid Profiles for the Diagnosis and Assessment of Inflammatory Bowel Disease.
PLoS ONE , 7 (1) , e31131-  (2012)
10.1371/journal.pone.0031131.
原著論文2
Okada T, Fukuda S, Hase K, et al.
Microbiota-derived lactate accelerates colon epithelial cell turnover in starvation-refed mice.
Nat Commun. , 4 , 1654-  (2013)
10.1038/ncomms2668
原著論文3
Ishitani T, Ishitani S
Nemo-like kinase, a multifaceted cell signaling regulator.
Cell Signal. , 25 (1) , 190-197  (2013)
10.1016/j.cellsig.2012.09.017.
原著論文4
Oryoji D, Hisamatsu T, Tsuchiya K, et al.
Associations of HLA class I alleles in Japanese patients with Crohn's disease.
Genes Immun. , 16 (1) , 54-56  (2015)
10.1038/gene.2014.61.

公開日・更新日

公開日
2017-06-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231004Z