筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究

文献情報

文献番号
201230007A
報告書区分
総括
研究課題名
筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究
課題番号
H23-痛み-指定-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
戸山 芳昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学医学部)
  • 西脇 祐司(東邦大学医学部)
  • 大西 幸(慶應義塾大学医学部)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部)
  • 岡田 泰昌(独立行政法人国立病院機構村山医療センター)
  • 百島 祐貴(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)慢性疼痛の疫学調査:全国を代表するサンプルに再度郵送調査を行い、慢性疼痛持続者の治療上の問題点を明らかにする。2)脊髄障害性疼痛の病態解明:難治性慢性疼痛である脊髄障害性疼痛の発症機序を明らかにする。3)慢性疼痛患者の橋渡し研究 ①肥満は筋骨格系疼痛疾患のリスク因子であるが、その機序を探索するためにメタボリック症候群に関連するサイトカインの遺伝子多型と疼痛強度について解析した。②慢性疼痛患者の介護者の負担感に寄与する因子を明らかにする。4)脊髄障害性疼痛のneuroimagingによる病態解明:慢性の痛みは刺激により活性化したグリア細胞、特にアストロサイトが持続的な異常興奮を起こし、それが痛覚感受神経系の持続的な異常興奮を起こすことにより発生するとの仮説を検証するため、ニューロンおよびグリア細胞が疼痛に関与する機構を明らかにする。
研究方法
1)郵送調査パネルを対象に行った疫学調査で、慢性疼痛持続者に再度質問票を郵送し調査した。2)脊髄腫瘍手術症例106例に、神経障害性疼痛重症度スコアによる疼痛評価のアンケート調査を施行した。3)①開腹術後痛57名とがん性疼痛83名の血液からDNAを精製しSNPsを判定し、術後痛重症度とアディポカイン10種25遺伝子の1923SNPsとの関連解析を行った。②慢性疼痛患者と同伴した介護者90名を対象に、Zarit介護負担尺度日本語版を記載させ、患者の生物心理社会的要因が介護者の負担感に与える影響を検討した。4)無麻酔非拘束のin vivoマウスを対象に痛覚はhot plate痛覚試験により、呼吸調節機構はwhole body plethysmographyにより計測し、腹腔内に投与したDMSOの痛覚と呼吸に対する用量反応関係を解析した。
結果と考察
1)慢性疼痛持続者は62%であった。慢性疼痛持続者のうち35%は現在も治療を受けていたが、53%は治療を中止しており、治療に対する満足度は低く、66%が治療機関を変更していた。慢性疼痛有症者の20%で神経障害性疼痛の関与が示唆され、pain detect scoreが高いほどVASが高く、治療機関の変更回数も多かった。Pain Catastrophizing ScaleとVASには正の相関を認め、HDS-anxietyが高いほどVASが高く、疼痛の持続期間も長かった。2)腫瘍高位、術前から存在する痛み、ステロイドの術後投与、術中血圧低下等が、痛みを増強させる可能性があることが明らかとなった。3)①メタボリック症候群・アディポカイン関連遺伝子のうち術後疼痛重症度に関連する遺伝子としてレジスチン、アディポネクチン受容体1、レプチン受容体が得られた。このうちがん性疼痛とも関連を示した遺伝子はレジスチンのみであったが、開腹術後痛(rs3745367)とがん性疼痛(rs3219175)に関連するRETN上のSNP部位は異なった。②Zarit介護者負担尺度の22質問項目のうち4項目で男性患者の介護者の方が女性患者の介護者よりも有意に高かった。患者と介護者の関係、疼痛罹病期間、疼痛の病態(神経障害性疼痛)、介護者の性別、患者の疼痛強度、患者の年齢、患者の性別の7因子から構成されるモデルでは統計学的有意差が得られた。介護者の性別が最も介護負担尺度に対して与える影響が大きく、続いて患者と介護者の関係性、患者の年齢と続いた。4)痛み感覚が慢性的に持続するのは、痛覚感受神経系で、ニューロンのみでなくグリア細胞特にアストロサイトが持続的な異常興奮を起こすためとの仮説を提唱し、ニューロンおよびグリア細胞が疼痛に関与する機構を解析した。
結論
1)慢性疼痛有症者では神経障害性疼痛と心因性疼痛の関与が示唆された。2)脊髄髄内腫瘍術後の脊髄障害性疼痛では高位頚髄、術前の痛み、術中低血圧、術後24時間以後のステロイド投与が危険因子であった。3)肥満につづくメタボリック症候群関連サイトカイン(アディポカイン)自体が慢性疼痛の危険因子であることを明らかにした。介護者の性別以外に、慢性疼痛患者の介護負担に関連する要因を明らかにした。4)脳脊髄の痛覚感受機構では、ニューロンとアストロサイトとが互いに興奮性に作用することにより慢性疼痛が発現し持続する。アストロサイトの活性化を阻害することは慢性疼痛の治療法に応用しうると考えられた

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201230007B
報告書区分
総合
研究課題名
筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究
課題番号
H23-痛み-指定-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
戸山 芳昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学医学部)
  • 西脇 祐司(東邦大学医学部)
  • 大西 幸(慶應義塾大学医学部)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部)
  • 岡田 泰昌(独立行政法人国立病院機構村山医療センター)
  • 百島 祐貴(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)慢性疼痛の疫学調査:本研究では全国を代表するサンプルに再度郵送調査を行い、慢性疼痛持続者の治療上の問題点を明らかにする。2)難治性慢性疼痛である脊髄障害性疼痛の発症機序を明らかにする。3)慢性疼痛患者の橋渡し研究プロトコールの開発、疫学調査の実施 ①肥満に伴う疼痛の増強が、慢性疼痛疾患の中でも最も重症度が高い神経障害性疼痛でも観察されるかを明らかにする。②肥満は筋骨格系疼痛疾患のリスク因子であるが、その機序を探索するために、肥満によるメタボリック症候群に関連するサイトカインの遺伝子多型と疼痛強度について解析した。③慢性疼痛患者の介護者の負担感に寄与する因子を明らかにする。4)脊髄障害性疼痛のneuroimagingによりニューロンおよびグリア細胞が疼痛に関与する機構を明らかにする。
研究方法
1)郵送調査パネルを対象に行った疫学調査で、慢性疼痛持続者に再度質問票を郵送し調査した。2)脊髄腫瘍手術症例106例に、神経障害性疼痛重症度スコアによる疼痛評価を主としたアンケート調査が施行した。3)①神経障害性疼痛患者75名を対象とした。神経障害性疼痛の診断は、国際疼痛学会神経障害性疼痛診断アルゴリズムに則って行った。患者のBMIによって、高体重群と低体重群の2群に分類し、痛みの程度と健康関連QOL(SF-36)を比較検討した。②開腹術後痛57名とがん性疼痛83名の血液からDNAを精製しSNPsを判定し、術後痛重症度とアディポカイン10種25遺伝子の1923SNPsとの関連解析を行った。③慢性疼痛患者と同伴した介護者90名を対象に、Zarit介護負担尺度日本語版を記載させ、患者の生物心理社会的要因が介護者の負担感に与える影響を検討した。4)無麻酔非拘束のマウスを対象に痛覚はhot plate痛覚試験により、呼吸調節機構はwhole body plethysmographyにより計測し、腹腔内に投与したDMSOの痛覚と呼吸に対する用量反応関係を解析した。
結果と考察
1)慢性疼痛持続者は62%であった。慢性疼痛持続者のうち35%は現在も治療を受けていたが、53%は治療を中止しており、治療に対する満足度は低く、66%が治療機関を変更していた。慢性疼痛有症者の20%で神経障害性疼痛の関与が示唆され、pain detect scoreが高いほどVASが高く、治療機関の変更回数も多かった。Pain Catastrophizing Scale(PCS)とVASには正の相関を認め、HDS-anxietyが高いほどVASが高く、疼痛の持続期間も長かった。2)腫瘍高位、術前から存在する痛み、ステロイドの術後投与、術中血圧低下等が、痛みを増強させる可能性があることが明らかとなった。3)①高体重群では低体重群に比して疼痛のNRSが高く、アロディニアを伴い、異常知覚の頻度が高かった。②メタボリック症候群・アディポカイン関連遺伝子のうち開腹術後痛の重症度に関連する遺伝子としてレジスチン、アディポネクチン受容体1、レプチン受容体、VASPINが得られた。③Zarit介護者負担尺度の22質問項目のうち4項目で男性患者の介護者の方が女性患者の介護者よりも有意に高かった。患者と介護者の関係、疼痛罹病期間、疼痛の病態、介護者の性別、患者の疼痛強度、患者の年齢、患者の性別の7因子から構成されるモデルでは統計学的有意差が得られた。4)痛み感覚が慢性的に持続するのはニューロンのみでなくグリア細胞特にアストロサイトが持続的な異常興奮を起こすと考え、ニューロンおよびグリア細胞が疼痛に関与する機構を解析した。
結論
1)慢性疼痛有症者の20%で神経障害性疼痛の関与が示唆され、pain detect scoreが高い程、VASが高く、治療機関の変更回数も多かった。PCSとVASには正の相関を認め、HDS-anxietyが高いほどVASが高く、HDS-anxietyが高いほど疼痛の持続期間は長かった。2)脊髄髄内腫瘍術後の脊髄障害性疼痛の周術期の危険因は高位頚髄、術前の痛み、術中低血圧、術後24時間以後のステロイド投与であった。3)肥満は筋骨格系の慢性疼痛の危険因子であり、さらにメタボリック症候群関連サイトカイン(アディポカイン)の遺伝子多型が身長・体重を補正したモデルにおいて疼痛重症度との関連を示したことにより、アディポカイン自体が慢性疼痛の危険因子であることを明らかにした。4)脳脊髄の痛覚感受機構では、ニューロンとアストロサイトとが互いに興奮性に作用することにより慢性疼痛が発現し、アストロサイトの活性化を阻害することは慢性疼痛の治療法に応用しうると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201230007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
運動器の慢性疼痛の縦断的疫学調査により慢性疼痛有症者に治療効果が十分得られなかった要因の一つは、神経障害性疼痛や心因性疼痛が関与する病態の把握が十分でなく、適切な治療が行われていなかったためと考えられた。本邦の慢性疼痛患者において肥満が疼痛強度に対して悪影響を与えていること、その機序としてメタボリック症候群関連サイトカインによる全身慢性炎症が関連していることを遺伝子多型調査から明らかにした。
臨床的観点からの成果
運動器慢性疼痛患者に対し、Pain detectや神経障害性疼痛重症度判定スコアにより神経障害性疼痛関与を治療前に把握することが重要である。さらにHospital Anxiety and Depression scaleやPain Catastrophizing Scaleより心因性疼痛の関与を明らかにしその病態に応じた治療を行うことで疼痛の程度を軽減したり持続期間を短くできる可能性がある。慢性疼痛治療の一環として肥満治療が必要であることが慢性疼痛治療予防に繋がる可能性を示した。
ガイドライン等の開発
「運動器慢性疼痛診療の手引き』の策定に本研究成果である疫学調査結果が引用された。
その他行政的観点からの成果
慢性疼痛患者の介護負担とその寄与要因を明らかにした。慢性疼痛患者の介護負担は、脳梗塞や脊髄損傷など重篤な運動麻痺を伴う疾患と同程度であり、介護保険の導入の必要性が示唆された。
運動器慢性疼痛により、有症者のADL、QOLが低下することを縦断研究により初めて明らかにした。特に慢性の腰痛、膝関節痛がADL低下に関するodds比が最も高く約2倍であった。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
39件
その他論文(英文等)
9件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, et al
Prevalence and chracteristics of chronic muscloskeletal pain in Japan: A second survery of people with or without chronic pain
J Orthop Sci , 19 , 339-350  (2014)
原著論文2
Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, et al
Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan
J Orthop Sci , 16 , 424432-  (2011)
原著論文3
Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, et al
Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan: a second survey of people with or without chronic pain
J Orthop Sci , 19 , 339-350  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201230007Z