難治性疼痛の実態の解明と対応策の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201230006A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性疼痛の実態の解明と対応策の開発に関する研究
課題番号
H23-痛み-指定-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
牛田 享宏(愛知医科大学・医学部 学際的痛みセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 柴田 政彦(大阪大学大学院・医学系研究科・疼痛医学寄附講座)
  • 山下 敏彦(札幌医科大学・医学部・整形外科教室)
  • 平田 仁(名古屋大学・医学部・整形外科・手の外科)
  • 片山 容一(日本大学・医学部・脳神経外科)
  • 井関 雅子(順天堂大学・医学部・麻酔科学・ペインクリニック講座)
  • 内田 研造(福井大学・医学部・整形外科)
  • 神谷 光広(愛知医科大学・医学部・整形外科学教室)
  • 細井 昌子(九州大学大学院医学研究院・心身医学、疼痛学)
  • 柿木 隆介(自然科学研究機構生理学研究所)
  • 河野 達郎(新潟大学大学院・医歯学総合研究科)
  • 佐藤 純(名古屋大学・環境医学研究所・近未来環境シミュレーションセンター)
  • 中塚 映政(関西医療大学・保健医療学部)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター)
  • 中村 裕之(金沢大学・医薬保健研究域医学系・環境生態医学・公衆衛生学)
  • 田倉 智之(大阪大学大学院・医学系研究科・医療経済産業政策学寄附講座)
  • 安田 哲行(大阪大学大学院医学系 研究科内分泌・代謝内科学)
  • 小林 章雄(愛知医科大学・医学部・衛生学講座)
  • 鈴木 重行(名古屋大学医学部保健学科)
  • 大森 豪(新潟大学研究推進機構超域学術院・整形外科)
  • 齋藤 洋一(大阪大学産学連携本部・脳神経制御外科学)
  • 川真田 樹人(信州大学医学部・麻酔蘇生学教室)
  • 池内 昌彦(高知大学医学部整形外科)
  • 平川 奈緒美(佐賀大学医学部麻酔・蘇生学)
  • 西尾 芳文(徳島大学大学院・ソシオテクノサイエンス研究部)
  • 上田 哲史(徳島大学・情報化推進センタ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
31,618,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性の痛みは、腰痛や関節痛など比較的軽症ではあるが頻度の高いものから、神経系の重度の傷害に伴う痛みなど治療抵抗性で重篤なものまで多岐にわたる。特に、難治性の強い痛みは神経障害やその他の器質的病変などに起因して引き起こされ、精神・心理的な影響も受けて、しばしば就労困難やADL障害、QOL障害を引き起こしている。また、これらの痛みに対して従来からの治療は奏功しないため、痛みの緩和を求めて複数の医療機関を受診し、無効な治療が繰り返し行われるに至っている。しかし、このような難治性の痛みに苛まされている患者の実態については十分な調査が行われていないのが実情である。そこで本研究では、主な難治性の痛み疾患に焦点を当て、まずは1)疫学調査から難治性の各種慢性痛みの現状把握を行い、2)痛みのメカニズムや痛みの評価法の開発、3)痛みセンター連絡協議会において慢性痛に対する診療システムのあり方を検討する。これらの研究を行うことで、これらの痛みの対応策について行政的な面からも反映できるものとしていく必要がある。
研究方法
本研究の主たる対象は難治性の痛み疾患のうち重要性が高いと考えられる①難治性運動器痛(Failed Back、人工関節術後遺残痛、難治性Enthesopathyなど)、②神経障害性の痛み(糖尿病性神経障害に伴う痛み、脊髄・中枢神経系の痛みを含む)、③精神・心理的要素が主な原因と考えられる痛みとする。
これらの疾患の患者数、症状とADL状態および治療の実態等の疫学調査と地域研究による実態、患者推計を算出するための研究を行う。加えて、難治性疼痛のメカニズムについての研究は、基礎医学的な手法を用いて自律神経系の関与、脊髄メカニズムの関与に関する研究、末梢神経・組織障害に伴う痛みに関するトランスレーショナル研究を行う。また、これらの痛みでしばしば問題になる精神心理の評価法に関わる研究についても行う。
また慢性の痛みについての知識や研究成果を医療現場に反映させ、この分野の教育・研究・診療の核となるユニットである“痛みセンター”のありかたについて調査検討する。
結果と考察
脊椎術後痛に関する調査では、術後に痛みが残存しているもの:74.9%、しびれが残存しているもの:70.3%であることがわかった。また、糖尿病性神経障害による痛みや不快なしびれを有する患者は、糖尿病治療中の患者の各々8.4-28.8%であった。
精神・心理的要素の関与が大きな痛みについての調査では、失感情傾向が高いほど腰痛の有病率が高く、失感情症群では83.3%が腰痛を有していることが分かった。また、パーキンソン病の調査では進行期において74.6%で腰痛を認めていた。慢性痛のメカニズムとして、動物実験ではパッチクランプ法を用いて脊髄活動を評価することで神経根症の痛みがその障害部位によって異なることを示したほか、NMDA作動薬、抗うつ薬の治療効果に関する研究を行った。人を用いた研究ではfMRIを用いて脳機能画像による痛みの評価法の開発を行ったほか、慢性痛と逆に痛みを感じにくいとされる統合失調症患者において熱刺激に対する痛みの閾値上昇が見られることを示した。
欧米諸国では各領域の専門家が集まって診断・治療を進める集学的(学際的)痛みセンターが構築され、旧来の単科によるアプローチから、概念を広げて生物・心理・社会モデルに基づいた医療が行われてきている。 “痛みセンター連絡協議会”では、本邦の医療システムに適合した集学的慢性痛治療体制を検討していく事を目的として、種々の領域の専門家を集結させ、諸外国の取り組みの整理や我々の医療システムが持つ問題点など多方面から課題について検討し、パイロット的に共通のフォーマットを用いて慢性痛をチームで取り組んだ際のアウトプットについて調査した。その結果、NRS、PDAS、HAD、PCS、などのパラメータにおいて3ヶ月の時点で改善が認められることがわかった。
結論
今後の研究では、これまでの分析を踏まえて実際に本邦に痛みセンターを本格導入・運営していく為の評価システムの確立、分析及び患者に経過や分析内容を説明する為のデータ収集システムを開発し、痛みの程度、生活障害度、労働状況、 医療費などの面でのエビデンス作りを行うことの必要性、得られた知見については医療者、市民に配信して慢性痛の問題の啓発を行う必要性があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201230006B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性疼痛の実態の解明と対応策の開発に関する研究
課題番号
H23-痛み-指定-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
牛田 享宏(愛知医科大学・医学部 学際的痛みセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 柴田 政彦(大阪大学大学院・医学系研究科・疼痛医学寄附講座)
  • 山下 敏彦(札幌医科大学・医学部・整形外科教室)
  • 平田 仁(名古屋大学・医学部・整形外科・手の外科)
  • 片山 容一(日本大学・医学部・脳神経外科)
  • 井関 雅子(順天堂大学・医学部・麻酔科学・ペインクリニック講座)
  • 内田 研造(福井大学・医学部・整形外科)
  • 神谷 光広(愛知医科大学・医学部・整形外科学教室)
  • 細井 昌子(九州大学大学院医学研究院・心身医学、疼痛学)
  • 柿木 隆介(自然科学研究機構生理学研究所)
  • 河野 達郎(新潟大学大学院・医歯学総合研究科)
  • 佐藤 純(名古屋大学・環境医学研究所・近未来環境シミュレーションセンター)
  • 中塚 映政(関西医療大学・保健医療学部)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター)
  • 中村 裕之(金沢大学・医薬保健研究域医学系・環境生態医学・公衆衛生学)
  • 田倉 智之(大阪大学大学院・医学系研究科・医療経済産業政策学寄附講座)
  • 安田 哲行(大阪大学大学院医学系 研究科内分泌・代謝内科学)
  • 小林 章雄(愛知医科大学・医学部・衛生学講座)
  • 鈴木 重行(名古屋大学医学部保健学科)
  • 大森 豪(新潟大学研究推進機構超域学術院・整形外科)
  • 齋藤 洋一(大阪大学産学連携本部・脳神経制御外科学)
  • 川真田 樹人(信州大学医学部・麻酔蘇生学教室)
  • 池内 昌彦(高知大学医学部整形外科)
  • 平川 奈緒美(佐賀大学医学部麻酔・蘇生学)
  • 西尾 芳文(徳島大学大学院・ソシオテクノサイエンス研究部)
  • 上田 哲史(徳島大学・情報化推進センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性の痛みは、腰痛や関節痛など比較的軽症ではあるが頻度の高いものから、神経系の重度の傷害に伴う痛みなど治療抵抗性で重篤なものまで多岐にわたる。特に、難治性の強い痛みは神経障害やその他の器質的病変などに起因して引き起こされ、精神・心理的な影響も受けて、しばしば就労困難やADL障害、QOL障害を引き起こしている。また、これらの痛みに対して従来からの治療は奏功しないため、痛みの緩和を求めて複数の医療機関を受診し、無効な治療が繰り返し行われるに至っている。しかし、このような難治性の痛みに苛まされている患者の実態については十分な調査が行われていないのが実情である。そこで本研究では、主な難治性の痛み疾患に焦点を当て、まずは1)地域研究と疾患別調査から全国推計の算出と同時に患者のニーズについて、疫学研究により現状把握を行い、並行して2)痛みの共通なメカニズムに対する基礎医学的研究、痛みの重傷度の指標ともなりえる評価法の開発、ならびに3)痛みセンター連絡協議会を設置して、慢性痛に対する診療ユニットのあり方を調査検討し、慢性痛医療の基盤を構築することを目的とする。これらの研究を行うことで、痛みの対応策について行政的な面からも反映できるものとしたい。
研究方法
本研究の主たる対象は難治性の痛み疾患のうち重要性が高いと考えられる①難治性運動器痛(Failed Back、人工関節術後遺残痛、難治性Enthesopathyなど)、②神経障害性の痛み(糖尿病性神経障害に伴う痛み、脊髄・中枢神経系の痛みを含む)、③精神・心理的要素が主な原因と考えられる痛みとする。
本研究に先立って、平成22年度は厚生労働科学研究“難治性慢性疼痛の実態と病態の解明に関する研究”として準備を行い、取り組みを開始してきているが、今回はこれを継続、拡大し、これらの疾患の患者数、症状とADL状態および治療の実態等の疫学調査と地域研究による実態、患者推計を算出するための研究を1年目に行った。加えて、難治性疼痛のメカニズムについての研究は、基礎医学的な手法を用いて自律神経系の関与、脊髄メカニズムの関与に関する研究、末梢神経・組織障害に伴う痛みに関するトランスレーショナル研究を行った。また、これらの痛みでしばしば問題になる精神心理の評価法に関わる研究についても推進した。
結果と考察
疫学調査で浮き彫りにされてきたことは、慢性痛とされる人口が本邦で行われた過去の報告と同レベルで人口の17%ほど存在することが明らかとなった。多くの慢性痛は腰部や肩あるいは膝などに見られることが多く、これらに関連する変形性脊椎症や肩関節周囲炎などが多かった。一方で、難治性疼痛とされる線維筋痛症や帯状疱疹などの頻度は1%前後であることなどが明らかとなった。また、始めに受診する施設としては整形外科が多いが、次に訪れるのは整骨院などの医療類似行為などの施設の頻度が高いことについては、その行動の理由についても分析をすすめる必要があるものと考えられたが、理由の一つには一般的な医療行為で改善が得られないことも多いのではないかと考えられる。また、事故後の痛みについても頚部の痛みの出現頻度は極めて高く、長期間持続することが多いことが判ったが、事故後のムチ打ち症の概念のない国では痛みが遷延化しないという報告もあり、患者の心理社会的な面或いは行動が痛みの発症に大きく関与していることを示唆するものとも考えられた。手術後の痛みについて行った調査では、頚、腰、関節の何れの手術も満足度は高くなく、これに関連して、行ったFailed Back Surgery Syndromeの調査でも手術後に痛みが生じるケースもあることが示されている。慢性化する痛みについては、運動器が主要因でない場合にも運動器に痛みを生じる率が高いことが、糖尿病やパーキンソン病に伴う痛みの調査で明らかになったが、痛みという切り口からこれらに対しても現疾患を取り扱う診療科などと協力体制を作ることなども視野に入れた検討が必要と考えられた。また、慢性痛は治療満足度が低く約半数がドクターショッピングに至っており、地域研究から換算した痛みで休業することによる経済損失は1兆8千億円強と医療経済学的にも大きな問題である事がわかってきている。
結論
今後の研究では、これまでの分析を踏まえて実際に痛みセンターを本格導入・運営していく為の評価システムの確立、分析及び患者に経過や分析内容を説明するためのデータ収集システムを開発し、痛みの程度、生活障害度、労働状況、 医療費などの面でのエビデンス作りを行うことの必要性があると考えられる。また、得られた知見については医療者、市民に配信して慢性痛の問題の啓発を行う必要性があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201230006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
慢性の痛みには、患者個人の問題から社会の問題まで様々な要因が関わっていることが分かっている。今回の研究では運動器の痛みに対して行った手術治療において痛みの残存していることが多いこと、失感情症における感情同定困難がある場合などに慢性痛が生じることが多いこと、糖尿病においては医療者サイドの痛みの認識が乏しいことが、疫学的調査で示された。また、難治性の慢性痛の脊髄メカニズムや自律神経の関与など神経生理学的メカニズムについても分析を進めてきており、将来それらの治療法の開発に結びつくと考えられる。
臨床的観点からの成果
腰椎手術後の痛み、しびれや異常感覚の残存する率、難治性の腱付着部炎における有効な治療法の種類を示した。また、慢性痛に対しては、器質的な診断・治療を行う専門家以外に心理面や社会面に対峙して、多角的に診断・治療システムを行って行くための集学的或いは学際的痛みセンターが諸外国では設立されて来ている。本邦の医療システムや現状に合ったシステムを構築することを目的として“痛みセンター連絡協議会”という形で全国の11大学に立ち上げて、その必要性と有用性についての研究を進めている。
ガイドライン等の開発
慢性の痛み研究事業の研究班の核として、他の慢性痛研究班およびNPO法人いたみ医学研究情報センターと協力して、慢性痛に関係する情報提供体制を構築してきている。
その他行政的観点からの成果
今回の研究では、ひとり暮らしをしているものは、不安・うつ尺度であるK6が高く、慢性痛を生じる率が高いことが明らかとなった。また、痛みに起因して年に一週間以上仕事を休む人口は調査人口の2.1%であり、医療経済的損失に大きくつながっていることを地域研究で明らかにしてきた。これらの成果は、慢性の痛みが地域社会の有する社会病理と大きく関係していることを示すものであり、行政的な観点から有用な課題であると考えられる。
その他のインパクト
当研究班が行った慢性の痛みによる経済損失については、NHKニュースで取り上げられた。また、慢性の痛みに対する情報提供・相談体制については、それぞれNHKニュースおよびNHK教育“きょうの健康”で取り上げられ同番組の雑誌に掲載された。
NPOいたみ医学研究と協力して慢性痛の病態や対応を理解してもらうための市民セミナーを6回(高知県2回、愛知県2回、大阪府1回、東京都1回)行った。また、慢性の痛みの医療者研修会を1回行った。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
52件
その他論文(和文)
87件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
7件

特許

特許の名称
人体の雰囲気の気圧を昇圧する方法及びその装置
詳細情報
分類:
特許番号: 2010-148903
発明者名: 佐藤純、櫻井博紀、齋藤愛子

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201230006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
41,103,000円
(2)補助金確定額
41,103,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,095,627円
人件費・謝金 3,060,327円
旅費 6,360,620円
その他 11,101,426円
間接経費 9,485,000円
合計 41,103,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-