関節リウマチ発症因子シノビオリンからみた慢性炎症機構の解析

文献情報

文献番号
201229044A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ発症因子シノビオリンからみた慢性炎症機構の解析
課題番号
H24-難治等(免)-若手-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 知雄(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 利博(東京医科大学 医科学総合研究所)
  • 荒谷 聡子(東京医科大学 医科学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ (RA) は Quality of life を脅かす代表的な疾患である。現在、抗 TNFα 抗体など生物学的製剤を用いた方法が最も有効とされているが、約 25 %はこの治療法に不応である。病因に基づいた科学的、かつ根治的な治療法確立のためにもRA の病因・病態形成の全貌を明らかにすることが求められている。これまでに我々は、滑膜細胞の過剰増殖に着目して研究を進め、RAに関わる E3 ユビキチン化酵素シノビオリンを発見した。シノビオリンが RA 滑膜細胞に過剰発現することにより、小胞体関連分解(ERAD) を活性化し、正確な折りたたみに失敗した不良品タンパク質の再生機能を増加させる。そして、この hyper-ERAD という状態が不良品タンパク質の蓄積による小胞体の破綻、細胞死を回避させ、結果として滑膜細胞を増殖させるという新たな病態論を展開した。近年、研究分担者の中島とスイスの研究グループとの共同研究により膜結合型基質 (ERAD-LM) と可溶型基質 (ERAD-LS) に大別される小胞体内基質の分解のうち、シノビオリンがERAD-LSで中心的役割を果たすことを明らかとした。すなわち、サイトカインとその受容体の関係でいえば、サイトカインの質の制御を司る E3 ユビキチン化酵素であることを証明した。これらの結果より、RA 滑膜細胞ではシノビオリンによって分泌タンパク質の産生が増加したサイトカインストームという状態が作り出され、自身が作り出したサイトカインストームによりさらに増殖の方向へ進むという仮説を立てた。本研究では、シノビオリンの有する ERDA-Ls 機能により誘導される炎症の慢性化機構という仮説の検証を目的とする。
研究方法
①これまでシノビオリンの古典的ノックアウトマウスが ERAD の E3 ユビキチンリガーゼとしては稀有 (唯一) な胎生致死を呈し、その表現型が ERAD シグナルの全般的調節因子である XBP-1のKO マウスと酷似していることは報告していた。そこで、コンデショナルノックアウト (cKO) マウスを作出し成獣でのシノビオリンの生体機能解析を行った。本研究では、サイトカインの主要な標的、ないしは産生臓器である末梢血有核細胞、脾臓、肝臓、胸腺、関節におけるサイトカイン、小胞体関連遺伝子の網羅的解析を行った。②次に、シノビオリンと RA との関連性、さらにシノビオリンが創薬標的であるかを検証するために、high through put screening により得られた構造の異なる二種類のシノビオリン阻害剤 (LS-101、LS-102) を用い、1)in vitro シノビオリン阻害活性の定量、2)RA 滑膜細胞の増殖活性、3)RA 滑膜細胞のサイトカイン分泌能、4)コラーゲン関節炎の抑制効果について検討した。患者検体は当該大学の委員会より承認を受けた書面によるインフォームドコンセントを得たうえで被験者の安全性を配慮して採取し、連結不可能匿名化した後に使用した。
結果と考察
①シノビオリンのコンディショナル・ノックアウトマウス (syno cKO mice) のサイトカイン、小胞体関連因子の発現解析を行ったところ、末梢血有核細胞、脾臓、肝臓、胸腺、関節におけるサイトカインの発現については共通して炎症性サイトカインの発現が抑制されていた。また、小胞体関連遺伝子については臓器ごとに動態が異なっていた。②約 200 万個の化合物ライブラリーよりシノビオリンの自己ユビキチン化活性を指標としたスクリーニングにより 2 種類の阻害活性を有する化合物が得られた。これらの、化合物は HeLa 細胞に比べ、RA 滑膜細胞の増殖をより強力に抑えることが明らかとなった。さらに、コラーゲン関節炎に対しても関節炎スコアの制御が可能であった。
これまでのヘテロ欠損体を用いた研究成果 (J. Biol. Chem. 2005) に加え、新規選択的 E3 ユビキチン化阻害剤を用いることでシノビオリンが RA の病態・治療に重要な標的分子であることのPOCができた。今年度は、cKO マウスの作出も完遂し、その完全欠失体を用いた検討においても RA の慢性炎症に深く関わることが証明された。これらの発見は単に科学的な重要性を示すのみならず、今後の創薬開発に大きな役割をなすことが期待される。今後、上記のシステムを用いた候補化合物の至適化を進め、RA のみならず希少性間質性肺炎の治療にも一日も早く展開したい。
結論
RING 型 E3 ユビキチン化阻害剤を世界で初めて報告し、シノビオリンが RA 治療の創薬標的であることの POC に成功した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229044Z