小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201229040A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(免)-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(独立行政法人国立病院機構相模原病院 臨床研究センターアレルギー性疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 直実(岐阜大学大学院医学系研究科)
  • 宇理須 厚雄(藤田保健衛生大学小児科)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター内科)
  • 今井 孝成(昭和大学医学部小児科)
  • 玉利 真由美(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 呼吸器疾患研究チーム)
  • 松本 健治(国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー研究部)
  • 丸山 伸之(京都大学大学院農学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児の食物アレルギーの約9割は1歳未満に発症し、乳児の有病率は約10%弱、幼児は約5%、学童は約2%に収斂する。小児の食物アレルギーは患者数も成人(1%未満)に比べ圧倒的に多く、生活の質の悪化を招き、健全な発達や社会生活の障害になる。小児の食物アレルギーの発症を抑え、アナフィラキシーへの進展等の重症化を防ぎ、自然寛解を加速させる対応が求められている。
本研究班では研究テーマとして挙げたように“小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発”を行うことを目的とし、3年間で診断と治療に関する多施設共同研究も実施する。
研究方法
小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発を目指し、経口免疫療法(Oral Immunotherapy: OIT)の開発研究、遺伝子レベルでの解析、アレルゲンコンポーネントの解析、食物アレルギー症状の誘発症状の評価システム開発、免疫学的改変食品や低アレルゲン化食品による治療法の研究を行った。
結果と考察
OITにより患者の多くは脱感作状態(連日経口摂取していれば無症状)に誘導できるが、耐性誘導率が自然耐性化率より優れているのかは不明である。初期導入を入院管理で行うアナフィラキシー対策の急速OIT(鶏卵・牛乳・小麦・ピーナッツ)を285例(鶏卵88名、牛乳118名、小麦47名、ピーナッツ32名)に施行し(世界で最多)、長期経過をフォロー中である。脱感作状態に8割程度到達したが、副作用(即時・非即時)も認め、1~2年での耐性化率は高いとは言えなかった。急速OITを実施しても抗原により違いはある(牛乳が最も困難)が、安定した脱感作には1年は必要で、さらに寛解には数年必要であることも明らかとなった。感冒・運動による症状誘発のリスクがあり脱感作状態にある患者の管理を慎重に行っていく必要があることも判明した。OITのメカニズムの検討ではメディエーターの測定結果等よりエフェクターフェース(マスト細胞・好塩基球)の脱感作機構と制御性T細胞の誘導に伴う液性因子の変化(IgE抗体の低下とIgG4抗体の上昇)が主と考えられた。短期間に目標量まで到達させる急速OITは患者に負担がかかり将来の選択肢とは考え難いので、本研究班では緩徐OITがこれからの中心と位置づけ、鶏卵・牛乳・小麦に関して無介入群を対象としたプロトコール(目標量設定は100%と25%:寛解誘導に増量が必須かを検証)を準備し多施設共同研究を9施設で開始する体制を整え、2013年3月現在、OIT群13名(鶏卵5名、牛乳2名、小麦6名)、対照群5名(鶏卵4名、小麦1例)がエントリーされている。牛乳の急速OITにおいて有効例と無効例の遺伝子発現の差を検討し、特異抗原刺激によって2倍以上遺伝子発現が増加した遺伝子群のうち72時間目で著効群でのみ誘導され、無効群では誘導されなかった遺伝子は25 probe、22遺伝子見いだされた。食物アレルギーの初期の至適管理法を確立するために鶏卵アレルギーをモデルに加熱鶏卵の部分摂取を早期(0-1歳台)に開始した(完全除去期間を短くする)方が5歳時点での加熱全卵の耐性獲得率を高める可能性が示唆された。多施設共同研究として食物アレルゲンに対する各種コンポーネントを用いた食物アレルギーの診断を京都大学の農学部と本研究班の臨床施設において開始し、ゴマおよびソバのコンポーネントについて2S アルブミンが臨床診断において有効なコンポーネントである可能性が示唆された。理化学研究所との食物アレルギーに関するGWAS研究も国内の第2施設と国外の米国の施設と検証を進めている。診断・治療の標準化に関する研究として食物アレルギー症状の誘発症状の評価システム、牛乳アレルギーをターゲットにした免疫学的改変食品による治療法、鶏卵、牛乳・魚アレルギーを対象に低アレルゲン化食品による治療法の研究も進行中である。
結論
研究班として食物アレルギーの初期対応、管理、診断、治療に関する各分担研究はほぼ予定通り研究成果を得ることができた。多施設共同研究(緩徐OIT・アレルゲンコンポーネントを用いた新規診断法)に関しても研究体制ならびにプロトコールを確立することができた。2年後に研究班での研究成果を取り込んで“食物アレルギーの診療の手引き2014”として改訂することに向けて取り組んでいきたい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229040Z