気管支喘息に対する喘息死の予防や自己管理手法の普及に関する研究

文献情報

文献番号
201229038A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息に対する喘息死の予防や自己管理手法の普及に関する研究
課題番号
H24-難治等(免)-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大田 健(独立行政法人国立病院機構東京病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 一男(独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター)
  • 棟方 充(福島県立医科大学)
  • 東田 有智(近畿大学医学部内科学講座呼吸器アレルギー内科部門)
  • 檜澤 伸之(筑波大学大学院人間双方科学研究科疾患制御医学専攻呼吸器病態医学分野)
  • 近藤 直実(岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
  • 長瀬 洋之(帝京大学医学部内科学講座)
  • 田中 明彦(昭和大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 気管支喘息は、5~10%の国民が罹患し苦しんでいる疾患である。喘息予防・管理ガイドライン(JGL)の発刊、改訂や「喘息死ゼロ作戦」の展開の前後で、2011年には2060人まで喘息死は減少しているが、さらに予後を改善するためにはより有効な対策が必要である。本研究班ではその目的のために、1) 「JGLのミニマムエッセンス」の作成、2) 喘息死の90%近くを占める高齢者喘息と、入院率の改善に乏しい乳幼児喘息の実態調査、3) 治療アドヒアランス改善策の検討、4) 我が国ではまだ実行されていない、クラスター解析による重症化・難治化フェノタイプの同定、を計画した。
研究方法
1) 最新版のJGLの内容を、非専門医のかかりつけ医も実行できるように、「JGLのミニマムエッセンス」の作成に着手する。
2) 高齢者喘息と小児気管支喘息の実態を調査するための質問表を作成し、調査を開始する。遺伝的な検索を視野に入れ、倫理指針に沿ってDNAを分離し保存する。
3) 治療アドヒアランス改善のための、地域における活動実態を調査する。 
4) 実態調査の結果を入力し、クラスター解析を試験的に開始する。
結果と考察
1)「JGLのミニマムエッセンス」の作成に向けた研究
研究代表者の大田が責任者として、新しいJGL2012が2012年11月に発刊され、「JGLのミニマムエッセンス」作成に向けて準備が整った。
2)-1高齢者を含む成人喘息の実態調査に 関する研究
質問票の作成に当たり、有用な調査項目の検証を行った。加齢によりFEV1の年間低下量が増加すること、FeNOは自覚症状では判断できない増悪予測因子となること、血清IgE値の経時的上昇は難治化と関与している可能性があること、非侵襲的なインパルスオッシレーション法が末梢気道病変の検出に有用であることが明らかになり、これらの指標を実態調査項目に含める意義が示された。
さらに、成人アトピー型喘息において、ダニアレルゲンのモニタリングが喘息管理に有用であることが示された。
2)-2小児気管支喘息の実態調査に関する 研究
乳幼児喘息の早期診断のための質問票を検討し、明らかな呼気性喘鳴1回のエピソードでもアレルギー家族歴がある場合は早期診断できる可能性が示唆された。乳幼児喘鳴において、尿中ロイコトリエンE4は非RSウイルス性細気管支炎と乳児喘息の鑑別に有用であることが示唆された。今後の検討により実態調査の質問票に反映する項目を選定する。
3)治療アドヒアランス改善策の検討
岐阜県では、吸入指導セミナーが薬剤師の吸入指導法向上に有用であることが示された。
 都心に近い帝京大学医学部付属病院近隣では、薬局での指導時間が限定されている実態や、加齢に伴い吸入不成功例が増加することが明らかになった。
 鹿児島大学では「喘息/COPD医薬連携教育プログラム」を発案し、実行した。喘息とCOPD患者では「薬剤理解」が改善し、喘息患者の8割以上が「コントロール良好」以上を維持、COPDの6割が改善/維持された。
4)各種フェノタイプを想定したクラスター解析に関する研究
筑波大学のグループは、抗原特異的IgE抗体の種類に基づいたクラスター解析を行い、4群に分類した。各群で年齢、呼吸機能やIgE反応性が異なっており、異なった分子病態を背景にしたフェノタイプであることが示唆された。
岐阜大学を中心に、乳幼児喘息と自然免疫系に関与するToll様受容体遺伝子などとの関連に関する検索が開始された。また、Th2サイトカイン阻害薬の有効性と遺伝子多型との関連性についても検討を進めている。
千葉大学を中心とするグループは、初回喘鳴を呈する児を対象にクラスター解析が開始され、追跡調査で喘鳴頻度などとの関連を検討する。また、小児期発症気管支喘息患者を対象としたクラスター解析では、アトピー素因は強いが喘息重症度が低いクラスターや、アトピー素因が強くないが喘息重症度が高いクラスターが同定された。
研究班全体としては、重症化・難治化のフェノタイプを同定するクラスター解析やエンドタイプを明らかにする遺伝子解析を2013年度から統計専門家を加えて実行する予定で、倫理的な手続きを含めて準備状態が整った。
結論
 次年度に向けて個別研究から全体での研究種目へと拡大するものを選択し、班としての成果に結びつけることが必要である。
 最終的な成果としては、「JGLのミニマムエッセンス」「自己管理法を含む喘息死ゼロ作戦の実行に関する指針」、「治療アドヒアランスの改善のための指針」「日本人喘息患者における喘息のフェノタイプとクラスター」などの文書化を目指している。これらの成果を通じて、現在の医療行政に求められている医療経済の視点からも満足できる喘息の医療体制の確立に資することを期待している。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229038Z