免疫疾患におけるT細胞サブセットの機能異常とその修復法の開発

文献情報

文献番号
201229037A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫疾患におけるT細胞サブセットの機能異常とその修復法の開発
課題番号
H24-難治等(免)-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院 医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学)
研究分担者(所属機関)
  • 保田 晋助(北海道大学 大学院医学研究科 免疫・代謝内科学分野)
  • 松本 功(筑波大学 医学医療系内科 膠原病・リウマチ・アレルギー)
  • 小竹 茂(東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター 膠原病リウマチ内科)
  • 桑名 正隆(慶應義塾大学 医学部 リウマチ内科)
  • 田村 直人(順天堂大学 医学部 膠原病内科)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学)
  • 上阪 等(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学)
  • 藤尾 圭志(東京大学 医学部付属病院 アレルギー・リウマチ内科)
  • 田中 良哉(産業医科大学 医学部 第1内科学講座内科)
  • 川上 純(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マウスを中心とした動物モデルでの知見はヒトの免疫学に直接的に応用できない。ヒトの免疫系は多くの点でマウスの免疫系と似ているが、細部については差異がある。しかし、ヒトの免疫系は分析の困難さから、マウスの免疫システムと比べ十分に理解されていない。これらのことからヒト免疫学の充実が提唱されている。そこで、本研究では、獲得免疫の中心であるT細胞に焦点をあて、ヘルパー型T細胞、制御性T細胞などの機能的サブセットおよびその亜集団をヒトでどのように把握するか、各疾患でどのような異常が起こっているか、それを修復するにはどのような方向の治療が考えられるかなどについて、内科、小児科の研究者が疾患横断的に研究を進めることを目的とした。
研究方法
平成24年度には複数の研究会を開催し、共通の方法論の採用などに関し議論を行った。全体としては、各研究者が使うヘルパー型T細胞、キラー型T細胞、制御性T細胞などのT細胞サブセットおよびそのナイーブ、メモリーなどの亜集団の分離・解析法に関して、Human Immunology Project Consortium(HIPC)の標準化法(Nat Rev Immunol.12:191, 2012)を参照しながら、健常人サンプルでの標準的な方法を試行し、スタンダードな方法として提示すること、試薬の共通化などを行った。これらの方法を共有し、各研究者毎に独創的な研究を進めた。
結果と考察
班全体の方法論に関して、T細胞サブセットの分離方法については、統一的な見解はないことから、山本らは現在Human Immunology Project Consortium (HIPC)において進められている統一的T細胞サブセット分離法を検討し、T細胞サブセット分離法を確立することを目指した。また森尾らは、10種類の抗体を組み合わせてmulticolor FACSを行うことにより、亜群を簡便に検討可能なシステムを構築した。
保田らは、SLE患者 T 細胞におけるCD3ζ鎖のスプライシングを制御している代表的なSR蛋白であるSRSF1 (SF2)の低発現がRasGRP1スプライス異常に関与している可能性を示した。松本らは、自己反応性T 細胞に特異的に高発現している分子の同定を目指した。小竹らは、発症早期のRA患者の末梢血中のヘルパーT細胞におけるTh1細胞, Th17細胞の比率を治療前後で定量した。桑名らは、SLE患者末梢血CD4+Foxp3+T細胞の病態における役割を検討し、Foxp3+T細胞の比率はSLE患者で健常人に比べて有意に増加し、治療による疾患活動性低下に伴って減少することを見出した。田村らは、Phosphoinositide 3-kinase(PI3K)の役割をヒトのT細胞において検討した。
藤尾らは、CD4陽性CD25陰性LAG3陽性Egr2陽性の新規制御性T細胞をマウスにおいて発見し、ヒトにおいても類似の表現型の細胞を同定し解析した。ヒトCD4陽性CD25陰性LAG3陽性細胞は、マウスと同様にIL-10, Egr2, PD-L1を発現し、試験管内でB細胞による抗体産生を抑制した。田中らは、B細胞による過剰な自己抗体産生を誘導する濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞について、疾患活動性の高いRA患者末梢血CD4+ T細胞では、可塑性を有するTfh様メモリー細胞のエフェクター亜集団が存在し、その亜集団の活性化と増加が病態形成への関与する可能性を示した。川上らは、SLEのT細胞ではCalcium/calmodulin-dependent protein Kinase Type IV(CaMKIV)の発現が増加し、CAMK4のgene silencingによりFoxP3の発現回復効果を認めたことから、SLEにおいてCaMKIVの発現増加が病態に関与している可能性を示した。上阪らは、RAの治療として使われているCTLA-4 Ig(アバタセプト)が強力にT細胞応答を阻害し、多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)に対しても有効であるかを検討した。
結論
本研究組織は、我が国におけるヒト免疫学の現状を底上げし今後の突破口を切り開くべく、我が国の臨床免疫学領域の第一線で研究を行い将来を担うことが期待されている研究者を中心に構成されている。このような研究組織は我が国のヒト免疫学の拠点形成への第一歩になると期待される。本研究を進めることが、我が国の疾患免疫学のさらなる進展の礎となり、新たな治療薬創出の為の直接的な情報提供、実際の治療法の開発とともに、将来的な免疫治療推進施策の拠点形成にも繋がる可能性がある。すなわち、本研究は、我が国におけるヒト免疫研究と疾患解析の研究体制の一つのモデルとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229037Z