胆嚢がんの分子生物学的特異性の解明と早期診断法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800121A
報告書区分
総括
研究課題名
胆嚢がんの分子生物学的特異性の解明と早期診断法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小越 和栄(県立がんセンター新潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 土屋嘉昭(県立がんセンター新潟病院)
  • 渋谷範夫(新潟医療技術専門学校)
  • 山本正治(新潟大学医学部衛生学教室)
  • 渡辺英伸(新潟大学医学部第一病理学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 がん克服戦略研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胆嚢がんは幾つかの発がん物質に加え、種々の個体特性と相俟って発生すると考えられる。胆嚢がんが地域特異性を持つ最大の原因は発がん物質摂取の地域差であることは今までの研究で明らかにしてきたが、今回の研究の主眼は固体特性の研究である。以前より、胆嚢がん患者の胆汁中には胆汁酸の抱合体であるグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)の組成が増加していることを報告してきた。このGUDCの作用の解明を本年の研究の主目的とした。GUDCはそれ自体では特定の変異原物質に対しての変異源性物質に対して助変異原性を持つが、一方、変異原性物質を変えると逆に抑制作用を示すことも明らかになった。従ってGUDCはヒト胆汁中にある発がん物質と考えられる芳香属炭化水素化合物に対してどのように働くかを本年の研究目標の一つとした。 これらGUDCの胆嚢がんとの関連を解明することにより、胆嚢がん患者の高危険群設定も可能となり、さらに胆嚢がんの早期診断に有用と考えられる。また、環境中の発がん物質を代謝的に活性化する酵素を支配する遺伝子(CYP1A1)の多型をについて、胆嚢がん症例と健常者と比較することで胆嚢がんの地域特異性の解明に繋がるものと考えている。また、膵・胆管合流異常症例には胆嚢がんが多く発生することは既定の事実である。しかし、その原因は未だ解明されていない。我々は研究の主眼点は胆汁の変化と胆嚢がん発生がん発生の関連であり、胆汁組成の変化が合流異常にも多く見られることから、合流異常はその胆汁成分の異常で起きるならば、その組織の遺伝子にも差があると考え、それ証明するために、通常型にはないK-ras遺伝子が合流異常に高率に出現することを今まで証明してきた。本年度はさらに合流異常を持つ胆嚢がん症例と通常型胆嚢がん症例でのp-53遺伝子異常を検討し、胆嚢がん発生の機序の解明に努めた。
研究方法
1)胆汁中GUDCの突然変異原作用の解明. 
既知変異原物質に対する作用の解明には、既知変異原性物質として2AA, BaP, Trp-P-2, IQ, MeIQを使用した。変異原試験はSalmonella typhimurium TA98使用したエームス試験のプレート法で行い、精製されたGUDCの作用解明を行った。 またヒト胆汁に対する作用の解明には、臨床的に採取された人胆汁4名分をプールし、ブルーキチンで吸着させた物質をメタノール・濃アンモニア水(50:1)で溶出した。溶出液をDMSOで溶解し、胆汁サンプルとした。 これは、人胆汁中に含まれる発がん物質と考えられる芳香属炭化水化合物が特にブルーキチンに良く吸着されるため、そのターゲットは芳香属炭化水化合物とした。
2)Cytochrome P4501A1(CYP1A1)遺伝子多型の検討. 健常対照者は、健康診断で受診した任意の70名(男23、女47名の血清バンク保存血液)とインフォームド・コンセントを行った胆嚢がん症例12名(男性5、女性7名)で行った。 MSP1多型は、多型部位を挟んだDNA断片をPCR法で増幅し、その産物のMSPパタ-ンでホモA(m1/m2)型、 C(m2/m2)、 型とヘテロB(m1/m2)型の検討を、 Ile-Val多型は同様にIle- Ile、 Ile-Val、Val-Val型の検討を行った。
3)膵・胆管合流異常の症例におけるp53 遺伝子異常の検討.
外科的に切除された膵・胆管合流異常を持つ胆嚢がん17症例と、合流異常のない通常型胆嚢がん22例の組織切片を材料とし、 Microdissection法で-DNAを抽出し、 p-53 exon 5から8までをPCR-direct sequence で検討した。
結果と考察
1)胆汁中GUDCの突然変異原作用の解明.
GUDCは2AA, BaPに対して濃度依存性に突然変異原性を助長した。一方、Trp-P-2, IQ, MeIQなどに対しては明らかに突然変異原性が濃度依存性に抑制された。 またヒト胆汁抽出物質に対してはTrp-P-2, IQ, MeIQほど著明ではないが、明らかに突然変異原性が濃度依存性に抑制された。このように、胆嚢がん患者に多く見られるGUDCはある物質に対しては変異原性を助長し、また他の物質に対しては抑制するというparadoxicalな作用を持つことが判明した。 このことは、胆汁酸の抱合体が何故胆嚢がん症例に多く見られるの解明に大きな示唆を与えてくれるものであり、胆嚢がん患者にのみ増加しているGUDCは胆汁に排泄される発がん物質に対して抑制的は働き、自然の生体防御機構の一つとも考えられる。またこのGUDCの増加は何時どのように起こり、変動があるのかどうか、また胆嚢がん切除後の経時的変化がみられるかどうかを知ることが、GUDCの作用機序の解明に重要となって来る。 いずれにしても、GUDCの増加は食物摂取で増加すると思われる胆汁中の遊離脂肪酸と同様に胆汁中に存在する発がん物質とある程度パラレルであると考えれば、胆汁中のGUDCを測定することで、胆嚢がんの高リスク群を特定するこきも可能であろう。 またGUDCの持つ作用が解明されれば、胆嚢がん発生の防止にも繋がるものと考えられる。
2)Cytochrome P4501A1(CYP1A1)遺伝子多型の検討.
環境中の発がん物質の代謝を活性化する酵素である芳香属炭化水素水酸化酵素(AHH)を支配する遺伝子、Cytochrome P4501A1(CYP1A1)の多型性(MSP 1多型、 Ile-Val多型)の検討を行った。その結果MSP 1型ではA型(m1/m1)、B型(m2/m2)、C型(m1/m2)共に健常者と胆嚢がん患者の間には差が見られなかった。 またIle-Val多型では胆嚢がん患者にはVal型( Ile-Val、 Val-Val型 )型の頻度が高い傾向が見られた。 この結果より胆嚢がんにはのCYP1A1遺伝子多型が関与していることが推定されるが、その多型の様式は肺がんのものとは異なっていた。このことより、胆嚢がんの好発には人種差も関与している可能性も示唆されたが、この関与の強さについては未だ不明である。
3)膵・胆管合流異常の症例におけるp53 異常の検討. 外科的に切除された膵・胆管合流異常を持つ胆嚢がん17症例と、合流異常のない通常型胆嚢がん22例の組織切片を材料とし、 Microdissection法で-DNAを抽出し、 p-53 exon 5から8までをPCR-direct sequence で検討した。 その結果は合流異常症例では17例中8例(11パターン)に、 通常型では22例中114例(13パタ-ン)にp53遺伝子の異常が見られ、 合流異常型では全例がTransition typeのであったが、通常型ではTransversion型の変異が30.8%に見られ、合流異常型の胆嚢がんは通常型の胆嚢がんとは通常型とは異なった発癌経路を示唆している。
結論
胆嚢がん症例で増加する胆汁中のGUDCは既知の変異原物質に対して抑制的に働き、ブルーキチンで抽出した人胆汁の変異原物質に対しても抑制的に働くことが判明した。また胆嚢がん患者には健常者とは異なったCYP 1A1遺伝子多型を示し、肺がんとは異なったものであった。 合流異常症例でのp53l遺伝子異常は通常型胆嚢がんとは明らかに異なっていた。

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